師走爺
音に聞こえた江戸の金貸し。
その名も黒須屋三太夫。
突き出た太鼓腹にえびす顔。デンと構えてニコニコと笑顔絶やさず接客する姿は、いかにも遣り手の商人といった風体であったそうな。
利子が高いとヤクザ物が脅しかけても、借金を棒引きにしようとお侍が刀を抜いて凄んでも、一切動じないその貫禄には、時の将軍様も一目を置いたとか置かなかったとか…。
この三太夫、取り立てには随分熱心で、ひとには決して任せようとはしなかった。
隠居した後にも年の暮れにはせっせと取り立てに通ったものである。
そんな三太夫も、めでたく還暦を迎える歳となった。
その年の暮れからというもの、三太夫は度々奇行に走るようになった。
還暦で贈られた頭巾とちゃんちゃんこに綿を入れたものを着込み、取り立て先の家々を周っては、金子や菓子を子供らに配って回ったそうな。
「めでたい新年を迎えるって時期に、幼い童がひもじい思いをしちゃいかん」とは三太夫の言葉である。
その奇行は三太夫が死ぬまで続き、市中の人々は三太夫を親しみを込めて「師走爺」と呼んで慕った。
その話を聞いた南蛮の宣教師が痛く感じ入り、自国に帰って伝え広めた。
その話が転じて後に、空飛ぶ赤い老人の伝説となったとかなんとか…、
なーんてのは全てホラ話である。
出だしからネタバレですね