歓迎
「ここは...」
目を開けて1番に飛び込んできたのは街の人格好。短い袖の和服、確か小袖というものを着ている。女の人も着物を着ている人や小袖を着ているなど様々だ。
「ほんとに来てしまったのか...あの時代に...。」
どうやらここは俺が待ち望んだ戦国時代で間違いなさそうだ。ふと、自分の格好を見る。剣道の時に着ていた道着と袴である。腰には日本剣道型をする時に使う木刀...。真剣じゃないのかよと、俺をタイムスリップさせた奴にツッコミたくなるが、まぁ仕方ないだろう...。だが、
「ッ!!やったァーー!」
大声で感情を顕にする。胸の高鳴り、どんな強い剣豪が待ち受けているのだろうか...。楽しみで仕方ない俺は駆け足で走る。そう言えば、靴は...?俺は草履を履いていた。こんなのうちにあったっけ...まぁ...いいか。タイムスリップ特典というところで。
数分街を歩いたところで俺は本来の目的を見つけた。
「あれは...間違いない...」
裃。戦国時代の武士が着ているものだ。2人。恐らく派手な朱色を着ている方が強いのだろう...。どちらも腰には刀を差している。どうか1回だけ立合いをして貰えないだろうか。
「すみません。」
俺は武士の前に立つ。
「なんじゃい、我ェ。わしの前に立つとはいい度胸じゃのう。」
朱の武士は柄に手を掛ける。
「す、すみません。立合いをお願いしたくて。」
圧倒的威圧。踏み込むのも厳しいくらいとピリピリと肌が伝えてくれる。
「立合いぃ?おまえが、わしに?」
俺は木刀を構える。
「ふむ、悪くない中段の構えよ。だが...おい鋼、相手してやりなさい。」
朱の武士は藍色の武士に声をかける。この武士俺と同じくらいの歳か?かなり若いな。どうやら、この少年が立合いをしてくれるようだ。
「若....チッ...御意。では私が代わりに。こちらは真剣ですが、宜しいのですか?」
藍色の武士は刀を抜く。
「俺は構いません。」
朱の武士は間に立ち、
「始め!」
と、一言叫んだ。2人は加速する。まずは、正面を。木刀を前方に下ろす。対して彼はしっかりと受け止めた。木刀と刀を打ち合わせる変わった音が鳴る。あまり、長くしていたら木刀が折れそうだ...。
「遅い。」
考え事をしていた間に相手からの攻撃。右斜めから肩を斬る攻撃、いなす。こちらも突きでの反撃。簡単に躱される。相手は左手を離した!?
「ッ!!」
一言で言うなら正拳突き。ギリギリ避ける。次は??
「な...!?」
裏拳!?思いっきり顔を殴られ突き飛ばされる。なんてパワーだ。
立ち上がろうとした時には既に刀は鼻先にあった。俺は負けたのだ。この名前も知らないような武士に。