9話 成果は上々です
アラムと別れたあと、ミズキはツルハシを貸してくれた店へと向かっていた。
「ごめんくださーい」
扉を開いて店内に入ると白布を被った店主が振り返った。
「おお、お前さんか。頼んだものは採れたのか?」
「それらしいものは採ってきたのですけどどれかはわからなくて……見てもらってもいいですか?」
「おう、いいぞ」
ミズキがカバンに手を突っ込み、青い鉱石をいくつか取り出していく。
「とりあえずそれくらいでいいぞ」
ミズキがカバンから鉱石を出すのをやめると、鍛冶屋の店主は机に置かれた鉱石をひとつずつ確認していった。
「こいつとこいつ、それとこいつ以外は全部『炎鉱石』だな。しかし高品質だな」
「そうなんですか?」
「もっと低品質で良かったんだが」
どうしたものかと腕を組んだ店主がうなった。
「だ、駄目でしたか……?」
「逆だ逆。良すぎて困ってる。これだけ高品質なら競売に掛ければいい値がつくぞ。俺が買い取っても少し色をつけることしかできん」
店主が必要としていたものは、日用品に使うような品質の低いものだ。
『炎鉱石』はほかの金属類と混ぜることで耐火性能を上げ、鍋ならば変形しにくい丈夫なものとなるからだ。
一方で高品質のものは武器や防具などに使われることが多い。
「ボクは構いませんよ? むしろお金がもらえるなんて思ってませんでしたし……」
「お前さんただ働きするつもりだったのか?」
「ツルハシを貸してもらえる代わりのお使いだと思ってました。どうしましょう、まだカバンの中にあるので探しますか?」
ミズキの提案に店主が了承する。再びカバンに手を突っ込み取り出すも全て高品質であった。
「見事に全部品質がいいな……」
『炎鉱石』を前に店主がどうするか決めあぐねていた。
「困ったな」
「でも、おじさんもこの鉱石が要るのですよね?」
「まぁそうだなぁ」
頭をがしがしとかきながら店主は答える。
「でしたらやっぱりここで買い取ってください」
「すまんな、そういうならありがたく貰うとしようか。何かあれば言ってくれ。できることならサービスするぞ」
それならばとミズキは尋ねる。
「ほかの鉱石はどうしましょう? まだたくさんあるんですけど……」
「ガッハッハ、おじさん破算しちゃうぞ。日用品にたっけぇ金属使っても需要がないからな! ほら、少ないが一五○○シリーグだ」
ミズキは対価を貰うと店主へと短い腕を振りながら店をあとにした。
当初の目的である鉱石も手に入ったミズキは、一度リティスの元へ戻ろと思ったがその方法がわからなかった。
試しに風の導き石に念じるが何も起こらない。
「うぅ、どうしよう」
『どうしたの?』
途方に暮れていると頭の中で声が響いた。
「えっと、一度帰ろうと思ったのですけど帰り方がわからなくて」
『それなら簡単よ。〈帰還〉と唱えればいいわ』
「あ、そうだったんですねってリティス様!? いつから起きてたんですか?」
『今起きたわ。なかなかいいタイミングだったわね』
どうやって声を届けているのかはわからないが、帰る方法がわかりミズキは胸を撫で下ろす。
『ほら、帰ってくるつもりだったのでしょ』
「そうでした。〈帰還〉!」
ミズキの周りに小さく光る魔法陣が展開される、しかしそれだけで特には何も起きなかった。
「あれ、何も起きませんよ?」
『それは帰還するまでに時間が掛かるからよ』
「変なところで不便なんですね?」
リティスの説明にミズキは不満そうだ。
『それはバランスを取るためとか――んん!』
リティスが説明しかけたが、咳払いと共に中断したことでミズキはいぶかしむ。
『気にしなくていいわ』
そうこうしているとミズキの体が光に包まれ、リティスの領域へと転送された。
「帰ってこれました!」
ミズキが両腕を上げて喜んだいた。リティスはそんなミズキが居る机の前で座り、両腕を枕代わりに頭を机へと投げ出していた。
「おかえりなさい。それでどうしたのかしら」
目の前に巨大な顔があるというのは恐怖を感じそうなものだが、ミズキはなれてしまったのか落ち着きを保っている。
「戦うのなら武器がほしいと思ったので、いろいろ採ってきてみたんです」
「なるほどね。どんなものがあるのかしら」
「ちょっと待ってくださいね」
カバンをひっくり返し中身を机の上へと出し続ける。最後のひとつが落ちるころには周りが一杯になり、ミズキの体が半分埋まるほどだった。
「あ!」
ミズキは鉱石や水晶の山から、特に光の強いものを避けていった。お気に入りのものをいくつかとっておきたかったからだ。
その様子に良くわからないといったリティスは少し首を傾げていた。
「これはボクのコレクション用にするので使っちゃ駄目ですからね」
「そういうことね、わかったわ」
リティスは一度起き上がると、鉱石や水晶を宙に浮かせ吟味し始める。
「さて、何がいいかしら」