80話 クーとの出会い
気づけばミズキは防寒着を着込んだ少女に抱き締められていた。
一瞬何が起こったのかわからなかったが、ひとつだけはっきりとしている。暑い中、抱き締められていることによって、とんでもなく暑いということだ。
「暑いいいいいい! 離してえええええ!」
ミズキはばたばたと暴れるがその拘束から逃れることはできない。それどころか、どこかへと連れ去られてしまった。
ぐったりとしたミズキが連れていかれた場所は、中層にある建物の中だ。室内にはミズキたちのほかに二十人ほどが居た。
その中から一人の男がこちらへ向かってくると、呆れるように口を開いた。
「おい、クー。その腕の中でぐったりしている子はなんだ?」
「あったかい」
「ぐったりしていてかわいそうじゃないか。離してあげろよ」
「やだ」
話が通じないことに諦めたのか男は頭をかき、クーからミズキへと切り替え話しかける。
「うちのクーがすまないな」
「あの、どうして連れてこられたんですか?」
「おい、なんで連れてきたんだ」
「暖かかったから」
男はため息をつく。
「お前さんが暖かいから抱いていたいらしい」
「えぇ……」
「このあと探索の報酬分配があるんだぞ。どうするんだ」
「このまま」
クーは離さないとばかりにミズキを抱き締める。
「じゃないと帰る」
「あーわかったわかった。すまんがもう少しのあいだ辛抱していてくれないか」
呆れたのか、諦めたのか、男は何度目かのため息をつくと投げやりに言った。
「うぅ、わかりました」
男が戻っていくとクーもミズキを抱いたまま続く。
それにしてもこの建物内は暑かった。室温を下げる設備がついていないのか、はたまたつけていないのか、とても耐えられそうにない。
「なんで部屋の中がこんなに暑いんですか」
「涼しくするとクーが消し飛ばすからな」
「寒いから」
ミズキにはクーの寒いという感覚が信じられなかった。涼しくするくらい良いのではないか。抱き締められ、暑さの中混濁する意識でそう思った。
「という訳で今回の遠征の配分はこうだ。クーの配分が多いのは文句ないだろ」
ミズキがぐったりしている最中も話がされており、配分が決まったようだった。男の言葉に反論するものは居らず、その内容で決定する。
「んじゃこれで決定な! お前らおつかれさん、あとは自由にしていいぞ!」
集まっていた者がぞろぞろと建物から出て行った。
途中、「早く涼しいところへいこうぜー」という声が聞こえ、「なら青の月の水祭りが始まる前に飯食いにいこうぜ」などといったやり取りがされていた。
「クーはどうするんだ、帰るのか?」
まだ残っていた男がクーへと確認していた。
「……一緒に来る?」
クーは考えた末、ミズキへと提案した。しかし、それを聞いた男が慌てて止めに入る。
「それだけはやめろ! あんなところ普通の奴が行くところじゃねぇんだ、絶対に連れて行くなよ?」
「そんなに変なところなんですか?」
「ああ、変なんてものじゃねぇ。あそこは燃える。しかも今は青の月だ、俺は絶対に近づきたくねぇぞ」
「心外。暖かいところ」
クーは男が断言したことに抗議したが、それを無視した男は真剣な表情でミズキへと念を押す。
「いいか、命が惜しければそいつの家があるところにはいかないことだ。クーも絶対無理やり連れてくなよ」
「少しだけ」
「やめろ」
クーが食い下がるも男に一蹴されていた。そこまで危険な場所だということなのだろう。
「対策する」
「そんなに連れて行きたいのか……」
男は腕を組み考えている。そして、何か閃いたのかにやりと笑った。
「まぁお前さんの同意があればいいぞ。ただし、嫌なことがあったら俺に言ってくれ。その場合は『大雪原』にある迷宮巡りの繰り返しだ」
クーが衝撃を受け固まった。しかしすぐに男へと抗議する。
「横暴」
「横暴じゃない。人の嫌がることをやってるっつう自覚を持ってくれ」
「人でなし」
「人形だからな!」
「甲斐性なし」
「それは関係ないだろうが!?」
「前も振られてた」
「はっ倒すぞ!?」
言い合いが続く中、ミズキは当初の目的を思い出す。
「あの、ボクは会う約束をしている人が居るんですけど……」
「おい、それは大丈夫なのか?」
腰に片手を当てる男が心配そうに尋ねた。
「あ、時間は決まってないので大丈夫です」
「私も行く」
突然、クーがそんなことを言いだした。
「ええっと、クーさん? も一緒に行くんですか?」
「行く」
クーが頷きながら即答する。
「そのあと『大雪原』に氷の素材を取りに行くんですけど、大丈夫なんです……?」
「…………」
ミズキの言葉にクーは押し黙り、必死に考えを巡らせていた。
「…………」
沈黙は続き、固まったままの表情でクーは微動だにしない。
「…………たぶん大丈夫」
考え抜いた末にそう呟いた。
心配そうにする男と別れたミズキたちは、ファティマと合流するために『森の都』を歩いていくが、ミズキはずっと抱かれ続けていた。




