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8話 ミズキとアラム


「えっと、ここの壁が光ってるので中に何かあると思って掘ってたんです」

「何を言っている?」


 ミズキの言葉に男は困惑を隠せない。


「壁が光ってるからそこを……」

「壁など光っていない。お前にはそう見えるのか?」


 暗い場所でも問題なく見ることはできるが、目に映るのはただの岩壁であり特徴的なものは何ひとつない。


 しかし、めぼしい収穫がないこともあり、男は気まぐれから少し手助けしてやろうと思った。


「まぁいい。少しなら付き合ってやる。俺が撃ち砕いてやるから場所を教えろ」


 男はぶっきらぼうに言うと、ミズキが指示されるままに自身の腕を使い、大体の場所を説明していく。


 途中、ミズキの背が足りないところは男に持ち上げてもらい説明していた。


「大体わかった。離れてろ。射杖リスロウ


 男の手に黒い筒のようなものが現れる。指に掛かる引き金を引くと破裂音が洞窟内に響き渡った。


 音が止む間もなく、壁に向かって撃ち続ければ八個の穴が綺麗きれいに円を描いていた。岩盤が崩れるとミズキにだけ見える光があふれだす。


「わぁ、すごいです! すごい光です! こんなにまぶしい光は初めて見ました!」


 ミズキが崩れた壁の中に転がる鉱石に向かって指差している。男は鉱石を拾いミズキへ見せが、男にはやはり光っているようには見えなかった。


「これか? 普通の石に見えるが」

「それです! うわぁまぶしい!」


 石を近づけられたミズキは眩しいからか手で顔を覆った。


「ふむ。見てみるか……」


〈六光の分析眼〉

 『無期なる再生石イオーズレティックタルム

 【破格の治癒力が内包された積層構造が美しい鉱石。赤い輝きは全てに癒しと安寧をもたらし、幾重にも重なる構造は干渉を跳ねける。属性は赤】


「何? 知らない名前の鉱石だな」

「そうなんですか?」

「ああ、これならあいつも……いや、忘れてくれ」


 未知の鉱石ならば満足するだろうと思ったが、男は石をミズキへと投げ渡した。慌てたミズキが落としそうになるものの無事に受け取る。


「こんなにすごそうなのにいいのですか?」

「俺が見つけたものじゃない」


 男はすでに歩きだしていた。しかし、ミズキは先ほど男が言いかけたことが気になったのか、その後ろをついてきていた。


「あの、やっぱりこれ差し上げます。ボク一人じゃ採れませんでしたし……」


 ミズキがおずおずと手にする鉱石を差し出し、見上げながら男の様子をうかがっていた。


「俺は助かるがお前はいいのか」

「構いませんよ!」


 ミズキが満面の笑顔と共に快諾した。


「そうか。ただで貰うのは後味が悪い。ほしいものがあれば後日用意する」

「いいんですか?」

「ああ」


 そう無愛想に答えればミズキの熱のこもった瞳が男へと向けらる。そのまなざしに男は少したじろいだ。


「ありがとうございます! ボクは時間とか時に関係する素材を集めてるんですけど、ありそうですか?」

「恐らくあるだろう。用意しておく」


 男は拠点の倉庫にあったはずだと思い約束する。


「ボクはいつでもいいので待ってますね! カードを重ねれば場所はわかるんですよね?」


 男は少し嫌そうにするが、ミズキが期待するように見つめ続けると観念した。


「まぁ、いいだろう。〈顕示〉」


 二人のカードが触れ合うと小さく光った。


「えへへ……」


 男は相変わらず素っ気なかったが、ミズキの顔は緩みきっていた。


「あ、そういえば名前をうかがってませんでした。ボクはミズキって言います」

「アラムだ」


 そっけなく一言だけつぶやいた。二人が出口まで一緒に歩く途中、ミズキがなぜ時間に関係する素材を集めているのか。その理由をアラムが聞くこととなり。


「良くわからんが、まぁいいだろう」


 アラムはそう言いつつも協力してくれることとなった。ミズキが嬉しさのあまり抱きつこうとしたが片手で止められていた。


 また何か面白い素材があれば交換する、そんな約束をしたところで洞窟の外にあるポータルへと到着する。


 別れの挨拶を交わした二人は、それぞれの帰路へとつくことになる。


   *


 ミズキと別れたアラムは『森の都』の下層へと来ていた。


 周囲は木なのか根なのかわからない、そんなものがうねるようにしてひしめき合った場所だ。明かりは少なく空気はよどんでいる。


 暗く狭く、入り組んだ空間を歩き、自身の所属する結盟の本拠地へと足を踏み入れると。


「うおおおおおおおお!」


 唐突にそんな声が聞こえた。人型の機械が叫びながらガチャガチャ音を立て腕立て伏せをしていた。男はため息をつく。


「……ラエマー、またそんなことをしているのか」

「何を言う! 筋トレは肉体を強靭にしてくれるのだぞ!?」


 ラエマーが男のほうを見ながら腕立て伏せを続けている。


「……機械のお前が動いても、意味ないだろう」

「否! 私は私を作った主殿と、この箱庭を創りし創精霊そうせいれいを信じている! 信ずれば報われると信じているのだッ……!」


 話が通じないと思ったのか、アラムは先に用件を伝えることにした。


「お前の言っていた鉱石は見当たらなかった」

「何!? 貴様ほどの者でも見つけられなかったというのか!?」

「すまんな、あまりまじめに探す気にもなれなかった」


 アラムが引いた椅子にどっかり座り込み、背もたれのきしむ音がした。


「なんとままならぬことよ! しかし、これもまた創精霊が定めし運命! 私は受け入れよう!」


 うっとうしいと思ったのか、アラムが舌打ちする。


「代わりといったらなんだが、交換条件付きでこの鉱石を譲り受けてきた」


 ラエマーの前に『無期なる再生石』を放り投げる。床に落ちたそれをラエマーは背筋運動をしながらが調べ上げていった。


 突然反り返ったところで止まり叫びだす。


「こ、これは!? ふぉおおおおおおおおおお! これこそ創精霊かみのお導き! ここまでのものは見たことが無いッ! 素晴らしい! 実にアズドラーヴ(すばらしい)! 創精霊かみよ感謝します!」


 ラエマーの動きが激しくなり、室内に響き渡たる暑苦しい音がうるさくなる。


「なら保管してあるものは適当に持っていって構わないな?」

「あああああ構わないッ! この最高の日に相応ふさわしい一品を選んで、いいッてくれッ!」


 腕立て伏せ、背筋と変わり、今は跳ねるように腹筋をしているラエマーから、アラムは嫌そうに目を逸らした。


 げんなりとしつつその場をあとにして向かったのは奥の部屋だ。そこで代わりの鉱石がないかを物色し始めた。


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