7話 鉱石採取です
ミズキが向かう先は風の導くままに。街の一角にあるポータルを潜る。
ポータルとは街の至るところに設置してある、光る輪がいくつも重なって回転する移動用の立体魔方陣だ。
そんなポータルを潜った先は、森の中にぽっかりと開いた洞窟の前だった。
導きを頼りに洞窟の中へ入ろうとするが、急に曖昧になりついには示す先が頭の中から消え失せてしまった。
(あれ、調子でも悪いのかな?)
しかし、近くまでは来ているはずなのだ。自力で探すことにしたミズキは、洞窟の中へと入っていく。
進んでいくといくつかの分かれ道と下り坂があった。洞窟内はかなり暗くはあるが、幸いにも光る苔があるおかげかで歩くのには十分だった。
しばらく進むと先が明るくなっているのがわかり、ミズキは思わず走りだしてしまう。
明るく光る場所にたどり着けば、そこには水晶や鉱石などが辺り一帯に埋まっていた。
「おおおお! すごいです! たくさんあります!」
本領発揮と言わんばかりに採掘していく。かん高い音が繰り返され、採れる度にミズキの顔はほころびなんとも嬉しそうだった。
「こ~お~せ~き~♪ こ~おっ~せ~き~♪」
機嫌よくツルハシを振るうミズキが、歌と共にツルハシを振っていく。しかし、楽しげにツルハシを振るうミズキに砕けた岩の破片が飛んだ。
「あう!?」
岩の破片が額へこつんと当たった。
「びっくりした……でもあんまり痛くなかったね?」
ミズキが頭をさすさすと撫でる。足元に転がる破片は青く、頼まれた鉱石のものだと思われた。
「あ、これかな?」
一度作業を止め、受け取った鉱石と見比べてみる。
光があるとはいえ周りが暗く、たぶんこれだろうという曖昧な判断であったが、ミズキは青い鉱石を掘っていった。
青い鉱石だけでなく、光っているものは全てカバンに詰め込んでいく。気づけば採り尽くしたからか、辺りから光がなくなり暗くなっていた。
しかし、明るいところが一箇所だけあり、壁一面が淡く赤い光を放っていた。
その奥に光る何かがあるだろうと思いツルハシを振るい続けるが、硬い岩盤なのかビクともしない。そんなときに声をかけられた。
「おい、何をしている?」
「え?」
振り向けば青灰色のフードとマントを纏う男が立っていた。
*
時はミズキがフードの男と出会う少し前にさかのぼる。暗い洞窟の中にフードを被った男がたたずんでいた。
男の目の前には淡く光る石の巨人がこちらを見下ろしている。その腕が男に振り下ろされた。
「射杖」
言葉と共に男の手に黒い筒が現れ、引き金を引くと黒い弾丸が放たれた。
弾丸が振り下ろされる腕の肘部分へと命中。肘から先が千切れあらぬ方向へ飛んでいった。
追加の弾丸によって光る石巨人の頭部が消失する。しかし動きは止まらずにもう片方の腕を振り下ろしてきた。
さらに放たれた弾丸は命中した周囲全てを消失させ、石巨人の四肢がばらばらになったところで残骸が光る粒子となって消えていった。
取り残された石の破片を男が拾い上げる。しかし、期待していたものではなかったのか男は魔法箱へと無造作に放り込んだ。
仲間に依頼され素材を探しに来たが収穫は芳しくない。せめて何か変わったものがないかと、元来た道とは違う道を走る。
途中に石でできた魔物が現れるが、全て一撃の弾丸によって跡形もなく消失していった。
男は周囲にあるものを片っ端から鑑定していった。しかし、こちらも芳しくないようだ。
そして急に男が立ち止まった。ほかの者の気配を感じ取ったからだ。警戒しつつ進むと姿が見え、その者はツルハシを一心不乱に振っていた。
どうやら鉱石を採取しているようだった。しかし、突然不可解な行動を取りはじめた。何もない壁に向かってツルハシを振り続けていたのだ。
やめる気配はなく、気になった男は近づき声を掛けた。
「おい、何をしている?」
男は他人の装備を鑑定するようにしている。戦う前にはそれらの情報が重要になるからだ。普段のとおりにミズキの装備品も鑑定をしていた。
〈陽気なる鑑定〉
『鍛冶屋のツルハシ』
【貸し出し品】
〈陽気なる鑑定〉
『まもるん一式』
【白い】
〈陽気なる鑑定〉
『自壊の腕輪』
【どかーん】
服に関してはふざけた名前だと思った。しかし、腕輪に関しては不吉な言葉がありさらに詳しく見ることにする。
〈六光の分析眼〉
『まもるん一式』
【魔女リティス様お手製の服。限られた素材から膨大な魔力を持って作られ耐久性はそれなりに高い。特性として帰属属性と完全修復を持つ】
〈六光の分析眼〉
『自壊の腕輪』
【魔女リティス様お手製の腕輪。使用すれば持ち主の魔力に干渉し、その全てを使い辺り一帯を灰燼に帰す】
物騒極まりない代物だった。効果範囲を調べると、見える範囲全てが範囲内だということに驚愕する。
この腕輪を作り、自身の人形に持たせた魔女は相当に頭がおかしいと男は考えた。
久々の緊張感が体を包み込む。しかし、持っている本人からはおよそ敵意や警戒心、そういったものが一切見て取れないことに脱力した。