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62話 帰ることができました!


 魔女エマヴィス・リティスの領域。ミズキがリティスへと時の素材を見せていたところだった。


「どうですかリティス様? 足りそうですか?」


 手の平の素材を転がしながら確認するリティスに、ミズキは我慢ができないといったふうだ。


「これだけあれば十分よ。よくこれだけ集めたわね」

「みんながくれたんです!」

「そう。それで今から送ればいいのかしら?」


 その問いかけにミズキは少し考え。


「帰るのはいつでもできるんですよね?」

「ええ、そうよ」

「ならもう少しだけ待ってください。ボクはジャラックさんのお手伝いをもっとしたいですから……」


 帰ることはいつでもできる。時間を越えるのだから、こちらの滞在が増えても問題はないのだ。


 それよりもずっとお世話になったジャラックへと、ミズキは恩返しがしたかった。リティスにそのことを伝えると箱庭へと戻っていった。


 『森の都』に来たミズキはジャラックのもとに向かう。着いたのは前にジャラックと立ち寄った雑貨店だ。


 以前と同じように商品を吟味している後ろ姿にミズキは突進する。


「ジャラックさん!」

「んん!? ミズキですか。時の素材は足りましたか?」


 腰に衝撃を受けたジャラックが振り返り問いかけた。


「はい! これでいつでも帰ることができます!」

「それは良かったです。ですが少し寂しくなってしまいますね」


 ミズキの答えにジャラックは安心するも、あとの声は小さくなっていった。


「いえ、まだ帰りませんよ」

「おや、なぜですか?」

「ジャラックさんにはお世話になったのでまだお手伝いしてたいんです! 帰るのはいつでもできますから」

「それはとても嬉しいのですが、やはり帰るべきではありませんか?」

「え、それは……」


 ジャラックにとっては迷惑だったのかと、そんなことを考えてしまう。


「ミズキにとって元の世界へ帰るということは、とても大切なことなのでしょう?」

「そう、ですね」


 ミズキが予期した考えとは違ったが、それもまた突き放すような言葉だった。


「私の目標は時間を掛ければ達成できますし、何よりミズキのおかげで共に探索してくれる方もたくさんできましたから。これだけでもすごく助かりましたよ?」

「でも……」

「それに、ミズキのことは大事な友人だと思っています。違っていたら申し訳ないのですが」


 ミズキは何度か首を振る。


「そんなことないです! ボクにとってもジャラックさんは大切な人ですから! そこは間違いないですよ!」


 会えて本当に良かったと思うほどに、かけがえのない存在となっている。この思いが変わることはないだろう。


「ふふ、ありがとうございます。ですのでミズキにとって帰ることが大切ならばその思いを優先してほしいのです。駄目ですか?」

「いえ、そんなことはないです……!」


 見上げたミズキの目尻には涙がにじんでいた。泣くまいと、笑顔を作る。しかしミズキの頬にはしずくが流れてしまっていた。


「ジャラックさん、ボクはジャラックさんと会えて嬉しかったです! すごく、嬉しかったです!」

「私も嬉しかったですよ。この思いはきっと、得がたいものです。ありがとうございます、ミズキ。」

「ボクのほうこそ、ありがとうございました……!」


 ミズキは震える声で〈帰還〉と、言葉を紡いだ。


   *


 ミズキはジャラックに、ルーリアたちへの別れを伝えてもらえるよう頼み、魔女エマヴィス・リティスの領域に帰還していた。

 部屋のなかにはミズキの嗚咽が漏れ聞こえている。


「おかえりなさい、でもどうして泣いているの?」

「ジャラックさんが帰ったほうがいいって……それで、お別れしてきました……」


 服の袖で顔を抑え、泣きじゃくるミズキがそれだけをなんとか伝えた。


「そう。では今から送る?」

「お願いします……」

「わかったわ」


 リティスが時の素材を用意するとそれらが空中に浮き上がり、ミズキの周りで回り、輝き始めた。


 光が強くなり、ミズキの頭上へと収束し複雑な光の輪が展開される。輪が分かれ、ぶつかり、次第にひとつの大きな輪へと変化する。


 輪の中には光があふれ、次第にミズキのもとへと下りはじめた。光がミズキの体に触れ、足まで到達する。気がつけばミズキの姿はなくなっていた。


   *


 白い壁と天井、丸く平たい見慣れた照明のある平凡な内装の部屋だ。


 青っぽいシーツが敷かれたベッドの上には、寝ているミズキの姿があった。


「うぅん……」


 熱気がこもる部屋の中に寝返りを打つ声がした。ミズキがもぞもぞと動くと目を覚ます。


「ふぇ……?」


 起き上がった目はまだ寝ぼけている。しかし、その目に見慣れたものが映りこむと次第に覚醒していった。


 ここはミズキが住んでいた家にある部屋のひとつだ。周囲を見れば見るほど自分の部屋だと確信する。


(帰って、来れた……!)


 ミズキはようやく、元の世界へと帰ることができたのだった。



お読みいただきありがとうございます。第一章、ミズキとカボチャはここまでとなります。お楽しみいただけたでしょうか。

そして次回から投稿時間は16~18時を目安にし、第二章、隻翼隻腕の天使と寒がり魔法使いを投稿していきます。


あとがきに興味のある方は活動報告に載せてありますので覗いてみてください。

URLはこちら https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1311730/blogkey/2351967/

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