6話 武器が欲しい
「なら、こうしましょう」
リティスがそう提案し、ミズキへとその指が触れられ光を発した。
「これで痛みが軽減されるはずよ。腕が千切れようと足が潰れようとそんなに痛まないわ。それと余った素材からそれなりの服も作ってあげるわね」
複数の素材がリティスの手の平に吸い寄せられ、次々とその形と色を変えていく。そうしてできあがったのは白い服だ。
「残りの素材は変換して貯めておくわね」
素材たちが光に包まれそのままリティスへと取り込まれた。
コレクションにしようとしていた素材も使われてしまったことで、ミズキに絶望の表情が浮かぶがリティスは気がつかなかった。
手を振ると服がミズキへと飛んで行き近くで止まる。再度指を振れば服が入れ替わった。その姿は白い丸帽とケープに青のラインが特徴的な衣装だ。
「真っ白さんです……」
「準備もできたことだしいいかしら」
リティスがミズキをすくい上げる。しかし、ミズキにはまだ聞かなければならないことがあった。
「あ! 待ってください! 風の導き石ってないのですか?」
「あるわよ」
「なんで渡してくれなかったんですか!」
あっけらかんとした物言いにミズキが憤慨し頬を膨らませた。
「これ渡すものだったの? どうりで箱庭と石を繋げる作業が面倒な気がしたわ。はい」
「……ありがとうございます」
ミズキは納得できないものがあったが、必要なものを渡され渋々といった様子だ。
「じゃあいいわね?」
「また投げないでくださ――」
ミズキの願いは無視され勢いよく放り投げられる。
「――ああああああああああ――」
「腕輪を使うには起爆って言うのよー!」
*
「――ああああああああ! がふっ!?」
勢いがありすぎたのか、朱色の手すりに当たりその向こう側へと落下していく。
下にある階段に激突し、壁面にぶつかり、通路に引っかかってようやく止まった。通路の外側に揺れる両足を投げ出した状態だ。
「おおお、お、お、落ちっ……!?」
必死の努力の甲斐あってミズキはなんとか通路に復帰する。
「はぁっはぁっ……。ボク、なにか悪いことした……?」
『言い忘れてたけど私はあまり起きていられないから。頑張ってね。おやすみなさい~』
「…………」
ミズキは怒りのあまりか、今すぐ自爆して安眠を妨害してやろうかと思ったほどだったが、すぐに気を取り直し今後のことを考えはじめた。
戦うのだとしたらまずは武器がほしい。武器といえばミズキが思いつくものは剣や銃だ。
両方とも金属を使用したものなので、鉱石でも掘れば作ってもらえるだろうかと思案する。
渡された風の導き石をとりあえず取り出し手に取ってみた。どうすれば鉱石のあるところへ行けるだろうか。
そう思うと一陣の風と共に、店とその店員だろうか、それらの情景が頭の中に流れ込んできた。
そればかりかたどり着く道筋さえもが瞬時に把握できた。
「す、すごい……」
周りの者たちが迷いなく移動しているのも納得だった。これさえあれば迷子になどならない。
意気揚々とミズキは石の導くままに歩みを進めていく。しかし、『森の都』は複雑極まるうえに、とてつもなく広大なこともあって一筋縄ではいかなかった。
道順がわかってもひたすら進み続け、うんざりする気持ちすら通り過ぎたころに、やっとの思いで目的地へとたどり着いた。
「やっと着きました……」
そこは中層に位置する通路に面した鍛冶屋だった。
周りと同じ木造の質素な作りが特徴とも言える鍛冶屋で、木の看板には金床と金槌を模した絵が描かれていた。
木枠の向こうには金属製の茶色の鍋などが多く並んでいる。
「ごめんくださーい」
「おう、こんなちっこい子は初めてだな。どうしたんだ?」
屈強な男が奥から出てきたところだった。快活な印象で頭に巻かれた白布が似合っている。
「あの、鉱石がほしいと思ったらここに来たのですけど」
鉱石店で何か道具を貸し出してもらえるかと思っていたが、ミズキが想像していたものとは違っていた。
そのことに戸惑いながらも自身の思いをなんとか伝える。
「鉱石が欲しいのか。ガッハッハ、何を隠そうおじちゃんも鉱石がほしいんだ」
「え?」
「せがれにひととおり頼んだのは良かったんだが、ひとつだけ頼み忘れてな。良かったら採って来てくれんか?」
「ボクは構いませんよ」
なんとなく導かれるままにお店に来てしまったが、自分で採取する分には問題はない。
「すまん、助かる」
しかし、採掘できるような道具がないことにミズキは気づく。もちろん、辺りに落ちているものを採取するのとは違い、それなりの道具が必要だろう。
「あ、すみません……ボクは採掘できるような道具が……」
「ああ、道具か。それならそこにあるものを持っていってくれ」
指差された先には、ツルハシのようなものがいくつか立てかけてあった。
「でも、いいんですか?」
「構わん構わん。こっちだって頼んでいるんだから気にすんな」
ミズキの心配を男は笑い飛ばした。
「わかりました。あ、そういえばどんな鉱石が欲しいんですか?」
「ちょっと待ってな」
一度店の奥に消えるがすぐに戻り、しゃがむと手にしていた青っぽい石をミズキの前に差し出した。
「こいつだ。『炎鉱石』っつう鉱石なんだが、見たとおり青いし、ありふれてっから探しやすいはずだ。こいつは参考用に持ってってくれ」
男が差し出した鉱石をミズキは両手で受け取り、持っていた魔法箱へと入れる。
「量はそうだな。その鉱石の大きさで十個もあれば今要る分は足りるはずだ。頼んだぞ」
「任せてください!」
ミズキはツルハシを受け取ると店を飛び出した。