53話 自在砲剣
穿たれた穴の前でアルクが大弓を構え狙いをつけていた。
「氷は如何なる物をも穿つ、極なる矛の力を我が矢に、〈白氷貫矢〉!」
アルクの詠唱と共に、白い光が矢に収束していき眩しく輝く。引き絞られた大弓から白矢が放たれた。
白光の軌跡を描き、迷宮の主へと飛んでいった矢は見事命中する。
矢は貫通し、瞬く間に形成された氷が内部から破壊、さらに爆発するようにして主の側壁を粉砕した。
「団長、やっぱり氷属性が効きますよ!」
「なんてこと! あとのことは考えず撃まくりなさい!」
「わ、わかったよ!」
*
ルーリアたちが反撃を開始したころ、ミズキたちは機兵の迎撃を継続していた。
「それにしても……! 数が、多いですね!」
すでにミズキが屠った機兵の数はとっくに二桁を突破している。
「数も多いですが撃ち出される光にも注意してください。なるべく機兵を盾にするのですよ」
「わかりました!」
ジャラックが横を走るミズキに注意をうながすと、元気のいい返事が返ってくる。
見事な連携で次々と撃破し、圧倒的な戦果を叩き出していくかたわら、少し余裕の出たミズキが迷宮の主を鑑定した。
〈陽気なる鑑定〉
『自在砲剣』
【にょろにょろ】
(にょろにょろってなに!?)
「ジャラックさん、鑑定したら『自在砲剣』って出ましたよ!」
「聞いたことのない名前ですねぇ!」
「変な名前ですよね? 剣に見えないこともないのですけど!」
「気にしても仕方ありません!」
二人は数多の青光が降りそそぐ戦場を走り回り、なおも機兵を倒し続ける。しかし、機兵が天井から投下され続けているためにキリがない。
ジャラックが青光を弾きつつ、並走することによってミズキへの射線を防いでいた。
機兵までたどり着けばミズキが一撃で打ち砕く、一連の流れが繰り返される。
そうしていると、柱の下に階段や柱状の跳び足場、身を隠すための壁などをカレヒスが作り始めていた。
ミズキから見たカレヒスはとてもつらそうであったが、これでいよいよ本格的な反撃が可能になりつつあった。
*
足場を鬼の形相で跳躍する者が居た。ペルナキアだ。疾駆する様は速きこと風の如く、加護の光が尾を引き『自在砲剣』へと凄まじい勢いで肉薄していた。
「さっきはよくも俺の腹に風穴を開けてくれたなあああ!? こちとら鬱憤が溜まってんだよぉ! ヒヒェハハハハハ! シネェ!!」
槍がうなりその壁面を穿つ。槍は深々と突き刺さっていたが、ペルナキアはすぐに壁面を蹴って反動で槍を引き抜いた。それを空中で何度も繰り返す。
「シネ! シネ! シネ! シネェェエエ!」
狂気と怨念のこもった連続突きが壁面を穴だらけにしていく。
ほかの者も足場を使っての反撃に出ていたが、誰もペルナキアのほうは見ようともせず、むしろ避けるようにして攻撃を加えていた。
ペルナキアの動きは凄まじく、足場を高速で飛びまわりながら攻撃できる範囲全てを破壊していく。
「カレヒス! もっとだ、もっと足場をよこせぇ! この槍の餌食になりたくなければなぁ! 五万シリーグの恨み、忘れてねぇぜぇぇええ!?」
足場が追加され高さが増すごとに『自在砲剣』の損壊箇所が増えていった。一方でミズキたちも駆けつけ攻撃に加わる。
「おお、ペルナキアさんすごいです! 格好いいのです! ボクも負けてられませんね、ううりゃあああ!」
足場から跳躍し、遠心力の乗った一撃が表面を大きく破砕する。その勢いのまま『自在砲剣』の真下近くにミズキは着地した。
そのとき、頭上が輝いた。
下に開かれた巨大な穴から極太の青光が床を貫き、莫大かつ凄まじい熱量が周囲全てを焦がす。
「あっつうううい!?」
ミズキが転がるようにして離れると、ジャラックに助け起こされ壁の影に退避させられていた。
「大丈夫ですかミズキ!」
回復薬を手渡され、それを飲み干すと全身の火傷が治り始める。先ほどの青光が収まった跡を見れば深い穴ができ、周囲は溶けるか焦げるかしていた。
「びっくりしました!」
「無事そうで良かったですよ。怪我か治るまで一度下がりましょう」
「すみません」
ミズキたちはいったん拠点へと戻り、傷が治るのを待っていた。
拠点では同じように回復を待つ者や、回復魔法をかけ続けている者、『自在砲剣』に攻撃を続ける者でごった返している。
しかし、回復担当の者が回復魔法の使いすぎからか、何人かは顔色悪く倒れ、ぐったりとしていた。
戦況が安定して久しく、拠点は何重にも形成された壁によって鉄壁の要塞を誇っている。壁も補強と修復が続けられ破られる気配はない。
今も迷宮の主への攻撃は継続され、無数の魔法弾や弓矢などが放たれその破損箇所は増え続ける一方だ。
このままいけば押し切れるだろう。
しかし、ジャラックは手に持つ時計を見て一言呟いた。
「時間切れかもしれませんねぇ」




