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51話 地下遺跡の主


 槍がうなりをあげてカレヒスの右頬をかすめていた。血が一筋流れ、避けていなければ直撃していただろう。


 カレヒスは重心を落とし次の一撃に備えていたが、顔には焦りが浮かんでいた。


「ヒャヒハー! 串刺しにしてやるぜぇ! 五万シリーグの恨みはらしてやるよぉおお!?」


 カレヒスが撃ち出した複数の岩の弾丸を、高速で槍を突き全て迎撃していく。


 ペルナキアの表情は完全に正気を失い、口角はりあがり目がすわってしまっていた。


「ちょっとちょっと、喧嘩けんかならよそでやってよぉぉ!」

「僕の三万シリーグ……」

「あわわわわ、助けてジャラックさん!」


 岩と槍が飛び交い粉砕された破片が辺りに飛び散るなか、ミズキがジャラックの元へとけ寄っていた。


 カレヒスは床を盛り上げ壁を作るが槍が問答無用に貫いた。


 カレヒスの左頬をかすめた一撃はすぐに戻され、次の瞬間にはもう一度壁を貫いていた。壁がみるみる穴だらけになっていく。


「もうあとがないぜぇぇぇええ!? オラオラァ!」

「いや、ほんとにしゃれになってないよ!?」

「くたばりやがれやああああ!」


 ついには壁が崩壊しペルナキアがその上を跳躍してカレヒスに迫った。血走った目がカレヒスを捕らえ続けている。しかし、そのことがあだとなった。


 カレヒスが天井の一部を変化させて作った壁に、ペルナキアはその後頭部を強打し落下していった。


「いやぁ、ほんと危なかったよ……」


 静かになったペルナキアを見下ろしながらカレヒスは安堵あんどしていた。


「大丈夫でしたかミズキ」

「びっくりしました……」


 ジャラックが盾を構えた足にミズキはしがみついていた。そして気になっていたことを小声でジャラックに尋ねる。


「でもジャラックさん、割と相手のカードが見えてるような引き方してましたよね?」

「ああ、それはですね」


 散らばっていた札を何枚か拾い上げると、その裏面をミズキへと見せた。札の角には跡がつき、そのうえ札によって位置や角度が異なっている。


「まぁ使い古された方法でしょうねぇ」

「ペルナキアさんが怒るのも無理ないと思います……」


 それからは気絶したペルナキアをルーリアが蹴り起こし食事となった。アルクはまだ泣いていた。


「ほら、アルクももう泣かないで。かわいい顔が台無し――でもないか。かわいさアップね」

「ひどいですよ団長ぉ……」


 食事のあとに五人とも寝てしまうと、ミズキがぽつんと一人取り残されるようにして起きていた。


「みんな寝ちゃいました……」


 ミズキはとりあえず素振りをすることにする。やはり寂しくないと言ったらうそになり、少しいじけるようにして日課をこなしていた。


 素振りのあとはひたすらに暇な時間がミズキを襲い、何もすることがなくぼーっと過ごすだけであった。


 五人がやっと起き、食事を取ったあとに今度はミズキが寝てしまう。そんな待機時間だったが、ほかのグループが集合したことで終わりを迎えた。


   *


「ミズキ、眠気のほうは大丈夫ですか?」

「起きたばかりですし大丈夫です!」


 ミズキたちは元居た部屋とは違う部屋に来ている。そこには大共闘に参加した者らが集合していた。


「作戦は聞いてのとおり、何があるかはわからないけれどパターンはふたつよ。ひとつはひたすらに遊撃か、もうひとつはカレヒスが拠点を構築し籠城ろうじょうするわ。どちらも私が〈風の加護〉を掛けて戦うことになるからよろしくね。質問のある人は居るかしら?」


 質問する者は居なかった。


「では始めましょう。風は守り、風は流れ、ふうなる手助けを我らに、〈風の加護(エルヴ・トアリム)〉」


 黄色に光る風が吹き、この場の者たち全てを包んでいく。この魔法は守りと動作の補助効果のあるものだ。


 ミズキの体にも光がまとい、体が軽くなったのを実感する。各々が武器を取り出し、戦いの準備が整った。


「私たちに勝利を!」


 怒号をとどろかせ誰もが大部屋へとなだれ込んでいった。


   *


 ミズキは大部屋と呼ばれる巨大な円柱状の空間に居た。距離感がわからなくなるほどに、天井が高くどこまでも広い部屋だ。


 床と壁はくすんだ白一色。特徴があるとすれば天井に模様もようが描いてあるくらいで、迷宮の主どころか、魔物一匹見当たらない。


 適度に散らばり何が起きてもいいようにはしているが、嫌な緊張感だけが過ぎていった。


「おい、何も居ないし現れねぇぞ」


 誰かがそうつぶやいた。次の瞬間――


 天井の模様が、重く響く音と共に動きだしていた。それはこちらに近づく形で下がってきている。やがてその全体像が把握できた。


 それは一言で言うならば巨大な柱であった。巨大な六角の柱が天井からり下がり、柱には上下に均等な間隔で節がある。


 やがて重厚な衝撃音と共に動きは止まり、多くの者が息をんだ。


 その金属質でありながら無光沢の側面に、無数の穴が開く。柱の下部も生きもののように、外側へ収縮するようにして開いた。


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