44話 勝利と制裁 2
拠点の前でアラムに懇願する大勢の姿がある。
「お、俺たちの負けだ! もうやめてくれ!」
「私たちが何したって言うのよ! このクズやろうが!」
アラムは一切を無視する。
「長術杖」
一言唱えれば手には杖が収まっていた。
「〈炎爆〉」
建物の内部で凄まじい爆発が起こった。悲鳴と怒号が辺りに叫ばれ、折れた木材や粉々に砕けた窓ガラスが一帯に降りそそぐ。
「俺たちの拠点が……!」
「も、もうやめてくれ! 頼む!」
「〈炎爆〉〈炎爆〉〈炎爆〉〈炎爆〉〈炎爆〉」
容赦なく魔法が撃ち込まれ続け、建物だった場所は文字どおり跡形もなく消し飛んだ。凄まじい被害は周りの建物にまで及んでいる。
「なんてひでえことしやがるんだ……!」
アラムに掴みかかろうとした男が蹴り飛ばされる。
「知るか。お前たちから喧嘩を売ってきたんだ。〈炎爆〉」
男が爆炎と共に消え去った。
その様子を見ていた残りの者たちが固まる。
もうどうしようもないと諦め何も言わなくなったところで、戦争継続の是非を問えばアラムの勝利で終結した。
疲れ果て、放心した者たちが虚ろな目をしている。戦争で発生した損害は全て、敗者へと請求されるのだから無理もないだろう。
拠点の蓄えも消し飛ばされた彼らは、この時点で破産することが確定していた。
やがて光に包まれると消えていく。しかし、一人だけ残っている者が居た。ジャラックに斬りかかったあの男だ。
「もうお終いだ。なんで俺ばかりこんな目に会わなくちゃならねぇんだ!? どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって!」
服はいたるところがボロボロとなり、男が床に両手を突き泣きわめいた。なぜだ。どうしてだと。
「俺だって必死にやったさ! それがなんだ! 勝手に作っておいてたった一度の失敗で無能扱いか!? 俺だって失敗したくてしたんじゃない、だってのにあの魔女はッ! ちくしょうちくしょう、ちくしょう!」
「うるさい」
アラムが蹴り飛ばし男が床を転がっていった。顔だけ上げた男の顔は粉塵と涙でぐちゃぐちゃになりひどい有様だ。
「ちくしょう……あんたなんかにはわからないんだろうな。日々惨めに使われ続けるだけのやつの気持ちなんてなッ……! それだけの力があったらさぞ気分がいいんだろうな!? 何か言ってみろよ、ええ!?」
顔をフードが覆っているためその表情はわからない。何を考えているのかもわからず、無言の時間が過ぎていく。
「殺してやろうか」
ぼそりと呟かれた。
「はっ、何も言えないから結局それか?」
「勘違いするな。辛いのなら殺してやろうかと言っている」
「どうせ殺しても転送されるだけだ。勝手にしろ」
自棄になった男がぞんざいに吐き捨てる。今更失うものなど何もなく、抵抗する気力すら湧かないようだ。
「消滅させてやると言っている」
「そ、そんなこと……」
できるはずがないと男は目を見開いた。しかし、アラムの様子からは冗談に聞こえない。確かな意思を感じ取り男が狼狽する。
「魔女が憎いか」
突然そんなことを聞かれたが、言われるまでもない。勝手に作り、言いたい放題言ってくる奴が憎くないはずがなかった。
「お前は相手の言い分を聞いたのか?」
聞くどころか罵られて以来、まともに話すらしていない。帰るのも嫌なくらいだ。
それに、そんなことをしてどうなる。また罵られてここにけしかけられるのがオチだと男は考える。だが、アラムの考えは違うようだった。
「ふん、なら聞いてみることだな」
「なんでそんなことしなくちゃならねぇ」
「お前だけが不幸だと思うなとだけ言っておいてやる」
その言葉は男の胸のうちに突き刺さった。しかし、そんなことあるはずがない。自分を創るような力のある奴が不幸だなどと信じなれなかった。
「ここで死ぬか。尊厳を取り戻すか。お前に選ばせてやる」
「お前は一体なんなんだよ……」
「ただの人形だ」
無感情に放たれた言葉だったが、この言葉が男の人生を変えることとなる。
先ほどまで全てが憎くて仕方がなかったというのに、今は不思議とそうは感じていなかった。
「俺なんかがやり直せるのか……?」
「知るか」
そうかと男は苦笑する。その顔は気力もなく疲れきっていたが、どこか付きものが落ちたようにすっきりしていた。
男の目の前に片手剣が突き刺さる。
「使わなくなったガラクタだが、お前にはそれで十分だ」
去りゆく後ろ姿に、本当にこいつはなんだったのかと男は思った。




