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4話 森に潜む脅威


「あわわわ……た、高いです……」


 一応手すりなどはあるが風が昇降機内を通り過ぎていく。上に備え付けられた計器の針が動き続け、やがて地表部へ到達し揺れと共に停止した。


 格子戸が開き、一歩踏み出せばそこはすでに樹が茂る森の中だ。上からの光はとぼしいが、小さな光があちこちに見えるためそれほど暗くはない。


「光がこんなにたくさんあるなんて初めて見ます! それに色が何色もあるなんてびっくりです!」


 驚く理由は元居た世界で見えていた光は緑一色だったからだ。


 ミズキは光が見えることを周りに話したことがあったが、父親以外からの評価は散々だという過去があった。


 しかし、見たこともないほどに光が密集するその絶景に、過去を思い出すこともなくただただ感動していた。


 興奮冷めやらぬ内に、光をまとった草花や石を片っぱしからカバンへと突っ込んでいく。


(この花なんか光がすごいです!)


 いくら入れてもカバンがいっぱいになる気配はなく、目に付くもの全てを詰め込んでいった。


「コレクションがはかどる恐ろしいところです……」


 あらかた採取し終わると、また奥へ進んでいくということの繰り返しだった。ふと遠くで鐘の音が聞こえ辺りが突然暗くなる。


「うぇっ!? いきなり暗くなった!?」


 急に日の光が消え失せてしまったのだ。


 しかし、先ほどまでの明るさとは違った明るさがあった。どこか暖かさが感じられる赤い明かりだ。


 ミズキが夜空を見上げれば明かりの正体がわかった。


 それははるか上空に浮かぶ硬質な四角形だ。正六面体の地上側に向けられた一面が、赤い硝子のようなものでできている。


 それが輝き地表を赤く照らしていた。


 ミズキの知る白く丸い月はどこにも見当たらず、そのことがここは元居た世界でないことを改めて認識させる。


 別世界にある魂を呼び寄せた。その言葉の意味が今になってわかってしまい不安が押し寄せる。


 一度そう思えば暖かく感じる赤い光すら不気味であった。後ろを振り返るが森がどこまでも続く。


 どの方向を見ても森の景色が途切れることはなく、帰り道がわからないことにも気がついた。そもそも、ここへ来るときは訳もわからず投げ飛ばされたのだ。


 『森の都』までの帰り道もわからない。どうやってリティスの居た場所に戻るのかもわからない。


 一時は光(あふ)れる光景に歓喜したが、今となって途方に暮れるばかりだ。どうしようかと考えるが、そんなミズキの思考をさえぎる物音がした。


「え? な、なに……?」


 草木を掻き分ける音は次第に近づいてきていた。音のヌシが草のあいだから姿を現す。


 それは緑色の粘液を滴らせる、濃緑色のオオサンショウオのようなものだった。

 体の大きさはミズキの五倍を超え、異様に肥大化した目は赤く濁っている。


 前足を踏みだすとその口を大きく開いた。粘液が幾重もの糸を引きミズキを青ざめさせる。


「ボクは食べても美味しくないよ……?」


 そう思うのも無理はない。しかし、関わりあいたくないという切実な思いは届かなかった。


 開いた口が迫ってきたからだ。


「ぎゃああああああ! いやああああああ!」


 なりふり構わず逃げだしたが、いかんせん追っ手のほうが早い。開閉する大口が粘液をき散らしながら迫ってきていた。


 振り向けば視界いっぱいに広がる口に、粘液が絡む舌がうごめく様はおぞましい。


 必死に走るが運はミズキに味方しなかった。木の根に足をとられ転倒してしまう。


 その上を緑の巨体が通り過ぎ、その際に降りかかった粘液に塗れる。


「うぇぇ、なにこれぇ……え、服が腐食して……? というかなんか体中が痛い!?」


 振り返った濃緑のオオサンショウオがもう一度襲いかかった。


 寸でのところで大口が目の前を通り過ぎていく。ミズキは足に巻きついたツタに引き上げられ宙で揺れていた。


「わ、わわ! わぁ……間一髪だったよ……」


 ミズキを引き上げたのはうごめく木だ。地表ではオオサンショウオに似たものが去っていくところだった。


「良くわからないけど助かって良かったぁ……もうダメかと思ったよ」


 何本ものツタがミズキに絡まっていく。


「もう大丈夫そうだし降ろしてほしいかな?」


 ミズキの言葉を無視するかのように、ツタがさらに絡まっていき四肢を拘束していく。


 緑の粘液で気づいていなかったが、このツタも粘液でヌルヌルとしていた。


「へ? え?」


 ツタは手足に収まらず服の中にまで進入してきた。あまりのおぞましさにミズキの背筋が震える。


 身をよじり抜け出そうにも四肢を拘束されてそれもままならない。ヌルヌルとしたものが体中を執拗しつように這いまわった。


「いやあああああ! 気持ち悪いいいいいい!」


 嫌がり叫び抵抗するも執拗な侵食は止まる気配がなく、ミズキの叫び声とツタの這う音だけが聞こえ続けた。


 かなり時間がたったころ、虚ろな目で痙攣けいれんするだけの無残なミズキの姿があった。


 やがてミズキが完全に動かなくなると、光に包まれその姿が消失した。


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