21話 探索開始です
看過できない出来事があったものの、当初の予定どおり探索へ向かうために二人はポータルの前へと来ていた。
前にミズキが敗北した魔物が居る迷宮へ行くことになり、『花の迷宮』に向かっていた。
ポータルを潜った先、そこは花と生垣が生い茂る緑の迷宮だ。
「ミズキ、前にここへ来たのですか?」
「はい、そうです。ここの茶色っぽい鎌のある魔物に負けちゃいました」
「それは『赤銅の殻鎌』ですよ」
「『赤銅の殻鎌』ですか?」
「とても硬くて早くて攻撃の激しい魔物です。私でもまともに相手しませんよ」
「え!? ジャラックさんでも勝てないんですか!?」
「戦うことはできますが倒せませんよ。攻撃が通りません」
ミズキは唖然とする。最初に戦ったあの魔物が標準だと思っていたからだ。
その衝撃は大きく、一向に回復しないミズキの手を引いてジャラックがポータルへと向かっていた。
「別のところにしましょう」
*
別の迷宮へ向うために潜ったポータルの先は洞窟だった。かなり広い空間で周囲には無数の穴が開いている。
穴はどれも曲がりくねっていて先の様子はわからない。光量が乏しく視界が悪いからか、ジャラックが光晶石ランタンを取り出し指で弾く。
すると、衝撃によりランタンに取り付けられた光晶石が辺りを照らしはじめた。
「穴がいっぱいなんですね」
「この穴はワームが掘ったものです。ワームは小さいものから巨大なものまで居ますので注意してくださいね」
じめじめとした洞窟内をランタンの光を頼りに二人は進んでいく。曲がり角に差しかかったとき、ワームが壁を崩し飛び出してきた。
太さはそれほどでもないがかなり長く、表面がヌルヌルとした光沢を帯びている。トゲのような歯が無数に見える口からは唾液が滴り落ちていた。
「ぎゃあああああ! うねうねです! ヌルヌルしてますぅぅぅ!」
ミズキはでたらめに長柄戦斧を振り回した。壁が、床がその威力の前に粉砕されていく。
「ミズキ!? そんなに振り回しては危ないですよ!」
驚いたワームが崩れる壁からミズキのいる方向へと逃げる。
「いやあああああこっち来ないでええええええ!!」
嵐のように振るわれる長柄戦斧をかい潜り、ジャラックがワームに止めを刺した。ワームが動かなくなりミズキがようやく落ち着きを取り戻す。
「どうしたのですかミズキ」
振り向いたジャラックが心配そうにする。
「ボク、ヌルヌルうねうねしたものが駄目になってしまったみたいなんです……」
地面に手を突き肩で息をするミズキが、目を潤ませながら訳を話した。
「そうだったのですか……知らずに連れて来てしまって申し訳ない」
「ジャラックさんは悪くないないです。全部ボクのせいですから……」
「とにかく場所を変えましょうか」
*
「ここなら大丈夫でしょう」
そういってやって来たのは、森にあるポータルから少し進んだ場所。『森の都』から南へ向かった先にある森だ。
ミズキたちが居る場所は木々と草地の境界で、草地方面へと歩いているところだった。
向かう先には巨大と評してもなお足りない、天に届かんばかりの太く巨大な柱が無数にそびえ立つ。
森と断絶された空間に木の代わりのように柱が存在していた。
木々の壁は緩やかな弧を描いてどこまでも続き、そのことによってこの柱郡は円形に広がっていることがわかった。
「ここは巨大な柱が多く存在する迷宮、というよりも平地に柱があるだけですが」
「え、これって柱なんですか!?」
ミズキが柱を見上げ、その大質量に圧倒され驚愕していた。
「一見すると柱に見えないほどに大きいですからね。それで中心付近に居るはずの門番と言っていいのでしょうか。そこに居る魔物を倒せば迷宮内に入れます」
「なるほど、まずは入り口を探すんですね!」
「ですが一つ問題があります。入り口なのですが位置が変わるんですよ。今は探索向きの時期ですし、できれば早く入り口を見つけ迷宮の一番奥まで行きたいところです」
「おお、最深部ですね! わくわくしてきました。どれくらい掛かるんですか?」
「およそ十日以上でしょうか?」
こともなげに言われた日数に、ミズキは固まり呆然とする。
「……長いですね?」
「特段長いものではないのですが。ミズキの魔法箱の容量が大きいので消耗品にも余裕がありますし大丈夫ですよ」
「寝るのはどうするのですか?」
「野営や迷宮内で寝ることになりますよ」
「魔物とか大丈夫なんですか?」
「確実とまでは言えませんが大丈夫ですよ。一応安全とされる場所もありますし」
「不安になってきました……」
二人は先に進むが、これからのことを思うミズキの顔色は優れない。
少し進んだところでジャラックが立ち止まり、魔法箱から地図を取り出し広げた。多くの印や走り書きがあり使い込まれたものだ。
次に時計の時刻と日の方角を確認する。それだけで現在地がわかったのか、ジャラックが迷いなく歩き始めた。
「ミズキ、上です」
しばらく進んだところで、ジャラックが突然そんなことを言った。
 




