18話 ジャラックと探索の準備です
「ジャラックさあああん!」
紫光が照らす『森の都』に、そんな声と共にカボチャへと抱きつくミズキの姿があった。ジャラックは物色していた品物を置くとミズキへ話しかける。
「こんにちはミズキ。武器はいいのですか?」
「はい、もう直りました!」
「それはなによりです」
二人は『森の都』外縁部にある森、そのなかでもぽっかりと穴が開いたかのように草だけが生える場所へやってきていた。
紫光が暖かく照らす陽気のなか、ミズキが背中にあるカバンからばとるん一号を取り出す。
「そういえばジャラックさんの武器ってなんですか?」
「私のは平凡ですよ。盾と剣です」
ジャラックも袖の内にある魔法箱から、片手剣と盾を取り出した。
「まずは受け続けますので自由に攻めてみてください。では始めましょう」
ジャラックは半身で盾を構え、剣先は地面を向けている。
「いきます! ううりゃああああ!」
ミズキは長柄戦斧を振り下ろす。ジャラックが盾と衝突する直前、盾の角度を変え同時に重心をずらした。
硬質な音と共に火花が散り、長柄戦斧がジャラックの後ろへ吸い込まれるようにしていなされた。
バランスを崩されたミズキは転倒し地面を転がっていってしまう。
「大丈夫ですか? しかしなるほど、なかなかの威力です」
「目、目が回りました……」
ミズキが回復したあと、両者は再び対峙していた。
ミズキが大きく回り左下から切り上げるが、ジャラックの腰辺りに振るわれた一撃は、後ろに下がられ避けられてしまう。
もう一度振り下ろすが今度は威力が乗る前に弾かれ尻餅をついてしまった。
立ち上がり何度も打ち込むがことごとく避けられ、あるいは盾に弾かれていく。
「当たり前ですが、長い武器は近づかれた際に不利になります。ですので相手をいかに近づけないかが重要です。ですがそれだけでは無理がありますから柄も使うのですよ。
使いどころが難しく消耗が激しいですがミズキの長柄戦斧なら問題はないでしょう。重い先端部では振るのが間に合わないときでも有効ですし、柄の先端で突いたりもしますよ」
ジャラックは振るわれる長柄戦斧をさばきながらミズキへ説明していく。しかしそれも長くは続かなかった。ミズキが疲れしまいへたり込んだからだ。
「とまぁ一度に全て覚えられたら苦労はありませんね」
「はぁはぁ、手も足も出ないです……」
座り込んで肩で息をするミズキとは対照的に、ジャラックは全く疲れた様子がない。
「それは経験の差があるので仕方ないでしょう。魔物相手であれば威力はありますから有効だと思いますよ。それにどのような武器でも使い方次第です」
「わ、わかりましたぁ……」
「お疲れ様です。立てますか?」
ジャラックがミズキへと手を差し出した。
「あ、ありがとう……ございます」
「そうですねぇ、ミズキがよければ今から実戦で練習してみますか?」
「いいんですか?」
「構いませんよ。この際探索もしましょう。ミズキは回復薬などの消耗品などはありますか?」
「あぅ、わかりません……一度も買ったことがないです……」
「お金もないのですか?」
「お金ってシリーグですよね? それなら一五○○シリーグくらいです……あとお菓子と紅茶ならあるんですけど……」
「お菓子と紅茶ですか……少ないようなので、とりあえず今回は共同探索ということで私が負担しますね」
「うぅ、すみません。お願いします……」
*
ミズキたちは『森の都』にある日の光も届かない中層、その南部にあるひとつの店舗へと来ていた。
店の中は光る晶石が吊り下げられ多くの人でにぎわっている。そこはたくさんの商品がところ狭しと棚に置かれ、大きな机の上にはいくつかの容器があった。
なかには薬液に漬け込まれた薬草のようなものも置かれている。ジャラックが手に取った瓶は回復薬と呼ばれるもので、中には赤色の液体が入っていた。
ジャラックは効力と作成日、期限と値段を総合的に判断して購入していく。
「ジャラックさん、それはなんですか?」
「これは低級の回復薬ですよ。主に怪我を治すために使います。効能の高いものほど劣化しにくいのですがやはり高いもので、いざという時の保険みたいなものですね」
ジャラックが回復薬の入った瓶を渡し、受け取ったミズキは両手に収まる瓶をまじまじと見つめていた。
「これで怪我が治るなんてすごいんですね?」
「低級のものでは効能も低いですし使用期限も短いのですが、やはり探索をするための必需品ですよ。回復魔法があれば話も変わってきますが」
「魔法があるんですか?」
リティスが魔法のようなものを使っていたが、この箱庭では魔法など見たことがなかった。
「ええ、いろいろありますよ。例えば風の導き石にはそのままですが、風の導きという魔法が封入されています。私は魔法が扱えないので細かくは言えないのですが」
「こんなに便利な魔法がほかにもあるならボクも使ってみたいです!」
「魔法が使えるかどうかはミズキ次第ですねぇ」
話しているあいだもジャラックの品定めは続いており、薄い赤紫色の水晶も購入していた。