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164話 不穏な影


 全体の戦況としては、ルーリアたちの居る『第二の都市(ベルタ)』と、ファラムとクロードたちが向かった『第三の都市(マガン)』では激戦が続いていた。

 理由はクーの居る『第六の都市(ゼクター)』と、アラムが居る『第四の都市(デッタル)』が壊滅、または制圧され、残りの都市へとゴライア側の戦力が集中していたためだ。


 クーは引き続き制圧を継続するよう指示され、今も残党を吹き飛ばし続けていた。

 アラムも残り僅かとなったゴライア陣営を次々と討ち果たす。

 ルーリアとヘイデルたちも大量の増援を迎え撃ち優勢であった。

 しかし、クロードたちの居る『第三の都市』ではファラムからカラムが落下、討ち取られてしまう。


「およ?」

「カラム!?」


 バランスを崩し、ファラムから落下したカラムに〈炎槍〉が直撃した。

 吹き飛ばされ石畳を転がるカラムにファラムが駆けつける。


「無事であるか?」

「うにゅぅ……ごめんね、ファラム。ちょっと駄目みたい。すぐ戻ってくるね……」

「すまぬ……」


 ファラムの顔が苦渋に歪み、ゴライア側では喝采が上がっていた。


「おっしゃあああああああ! 大物を討ち取ったぞ!」

「散々好き勝手してくれたがざまぁみやがれ!」

「勝てる、勝てるぞおおおおおお!」

「おい馬鹿、なんてことしてんだ!? あいつらを倒すには狼からか同時に倒さねぇと取り返しがつかないことになるのを知らんのか!?」


 喝采の中では何人かが顔を青くし、一目散に逃げていく。


「俺の! 俺の〈炎槍〉が撃ち抜いたんだぜ! どんなもんよ――」


 男の体が爆ぜ散り光に包まれた。

 男が先ほどまで居た場所にはファラムがたたずんでいた。


「へ?」


 男の横に居た者が予想外の出来事に間抜けな声を出し、次の瞬間には先ほどの男と同じように爆散する。

 ファラムが見えないほどの速さで前足を振り抜いたのだ。


「貴様ら……よくも、よくもカラムを。よくも我が主から仰せつかった大命を妨げてくれたな。覚悟は、できているのであろうな?」


 いたるところで悲鳴が上がった。

 次の瞬間には悲鳴を上げていた者も踏み潰され、牙に切り裂かれていく。

 何故、カラムが凄まじい速度を誇るファラムから落ちなかったのか。

 それはファラムが力を抑え、カラムが落ちないように重心移動などに細心の注意を払っていたからだ。


 カラムが居なくなってしまった今、ファラムが力を抑える必要など無い。

 その速度は目で捉えることができないほどだ。

 逃走も迎撃も許さず、圧倒的な一撃をもってして次々に仕留めていく。

 黒い風は血の雨を降らす。


 建物の外壁は突き破られ、中に居た者たちが蹂躙じゅうりんされる。

 高所を取っていた者も背後の壁が爆発すると共に消し飛んだ。

 別の建物の上に陣取って居た者たちもまとめて爆ぜ散り、近辺ではもはや抵抗らしい抵抗も無くなっていた。

 しかしそうした蹂躙劇も終わりを告げる。

 カラムが復帰したからだ。


「カラムが戻ってきたようだ。これよりここはクロード殿に任せるがよろしいか?」

「え? あ、うん」

「礼を言う」


 言うや否や、黒狼はカラムが復帰した『第一の都市(アフル)』へと向かっていった。

 任せるも何も、見渡す限りでは敵など存在しなくなってしまい、激戦区だったポータル同士の中間地点が嘘のようであった。

 こうして一気に優勢となった『第三の都市(マガン)』であったが、南東からは不穏な気配が近づきつつあった。


   *


 時は少しさかのぼり、場所は『地の都』の南東にある『第十四の都市(クグーシー)』。

 中型都市であるここには、ゴライア側の結盟が陣取っていた。

 三つある結盟はどれもが士気は低く、まともに戦う気が無いほどだ。

 その内の結盟のひとつで、ある者たちがやる気なく雑談に興じていた。


「ほんとついてないよなぁ……」

「参加するだけで勝てるっていうから来てみたらあんなバケモンと戦えとかありえねー」

「ほんとそれな。都市を消し飛ばすような奴と戦って勝てるかってんだ」


 ゴライアたちの口車に乗って参加した当初こそ優勢だと思ったものの、『第一の都市(アフル)』が制圧され、その上周辺都市も残るところふたつとなってしまっていた。

 安全なところに居れば勝手に戦争が終わると思っていたが、完全に当てが外れ、こうしてぼやいていたのだ。


「今の人数比はどんなもんなんだ?」

「あー、俺たちが一万で向こうが三千くらいか」

「その差で圧倒されるとか笑うしかない」

「数なんざ関係ねぇよ。おかしいのが向こうに多すぎる」

「そうなのか?」


「ああ、酷いもんだぞ。流れてくる悲鳴紛いの報告だとまず〈炎姫ブラナフィアリ〉が居るだろ。それに〈影風スアキラーナ〉、〈最強レテュース〉、〈剛筋ヴォラプター〉、あとは最近呼ばれるようになった〈氷鱗剣アシュナヴィアーレン〉だな」


「いやいや、おかしいだろ……何でそんなやばい奴らが向こうに大量に居るんだよ……ほんとありえないって」

「何で〈最強〉が向こうに居るんだよ……あいつが居るだけで絶対勝てねぇよ……」


「それに時々光るあれは何なんだろうな。一撃で都市が消し飛ぶとか異常すぎる、正気じゃない」

「戦い続けても被害が増えるばかりだからさっさと降参すればいいのに」


「降参する気は無さそうだぞ。ぶち殺してやるって言いまくってる」

「何にも分かってないな。さっさと諦めろよほんと」

「この戦争が終わったらどうする?」

「間違いなく破産だろうな」

「また一からやり直しか。つれぇ……」


 こうして雑談する彼らの近くに何者かが着地し、次の瞬間にはバラバラに切断してしまった。

 あまりの速さに自分たちが斬られたことすら気がつかなかっただろう。

 残りの結盟も同じように何者かに襲撃され、『第十四の都市(クグーシー)』から彼らの姿は消え去った。


 『第十四の都市』の北西には、『第八の都市(デンターレン)』から『第十二の都市(ユグミカ)』までの五つが連なるようにして存在している。

 小型の都市が一塊になる、『地の都』でも珍しい都市郡だ。


 これらの都市にもゴライア側の者たちが居たのだが、何者かによってまたたく間に殲滅せんめつされていった。

 ある者は氷槍で貫かれ、壁に縫い付けられると共に絶命。

 ある者は背負っていた武器ごと袈裟斬りにされ、気づく間もなく光に包まれ転送されていった。


 殲滅の嵐はクーが起こす巨大な火柱を目指し北へと向かう。

 そしてついにはクロードたちの居る『第三の都市(マガン)』へと到達した。


   *


 『第三の都市(マガン)』ではクロードたちが攻勢に出ていた。

 ファラムの活躍によって優勢となり、敵の拠点であるポータル、そのうちのひとつを一気に征圧しようと動いていた。


 ポータル周辺では魔法が放たれ、前衛が激しくぶつかり合う激戦区となっている。

 ポータルを取り合う熾烈しれつな争いの中、片手剣(グラール)を持つ男の姿があった。


 彼は以前にルーリアたちが募集した、対『自在砲剣レイジスアーティラール』戦の折にミズキたちと衝突し、アラムに叩きのめされた男のベラートだった。

 破産はしたものの、片手剣をアラムから譲られ、自らの魔女との話し合いの末に和解し奮起したのだ。


 ベラートの魔女は病に犯された友人の魔女を治すため、必要な素材を集めるために人形クルカ箱庭ルヴアへと送り込んでいた。

 そのような事情があり、もとより余裕の無かった魔女は些細なミスをとがめていたのだ。


 すれ違いによってベラートは自暴自棄となり、周囲へと当たり散らしていたところをアラムに叩きのめされたのだ。

 魔女と和解した今はそのようなことは無く、クロードに拾われてからは必要な素材を集めるため、結盟員の一人として精力的に戦っていた。


 そうしてクロードの近くでベラートが戦っていたときだ。

 ゴライア側が押さえているポータル周辺では血の花が咲き、周囲に居た者たちが一斉に転送させられた。

 ゴライア側は突然の乱入者に混乱し、その隙を突いてクロードたちが突破しようとした。

 そのとき偶然にも、ゴライア側の中で煌く氷刃が見えたベラートが叫ぶ。


「団長――!」


 直感であったが、咄嗟とっさにクロードを突き飛ばし剣を構えた。

 同時、一対の氷刃による連撃がベラートの片手剣と衝突し、氷刃が砕け散った。

 だが次の瞬間にはベラートの胸を氷の槍が貫く。


「ッ――!? 〈障壁ロアーミナ〉!」


 クロードは驚愕きょうがくしつつも〈障壁〉を展開し防御を固める。

 相手の手には再び生成された氷刃が握られており、〈障壁〉が一閃の下に切り裂かれた。

 次の瞬間には〈氷槍〉が撃ち出されクロードの盾を貫いた。


 咄嗟に後ろに飛んだ目の前を氷刃がかすめていく。

 ゴライア側の者が乱入者に斬りかかるものの、すでに切断されていた。

 そして幸いなことに、目標はクロードから変わり嵐が僅かに離れた。


「今のうちに引くんだ!」


 瞬時に拠点攻略を断念した。

 今このときにおいて、それは的確な判断であった。

 クロードたちが引く間にも、ゴライア側では細切れにされる者が続出し、光と共に消失し続けているからだ。

 混乱に乗じてなりふり構わず後退したことが功を奏し、クロード側の被害は少なく済んだ。

 警戒するも殲滅の嵐はいつの間にか消えていた。


「な、何だったんだ今のは……」


 ようやく安全を確認できたクロードが貫かれた肩を押さえていた。


「うひー、ほんと危なかったですね。引けと言われたときは何事かと思ったよ」

「どうやら参戦者ではないようだったが」


 ほかの結盟員たちの言葉にクロードは頷いた。


「どちらにも属していない、か。しかし、ベラートが庇ってくれてなかったらやられていたな……〈障壁〉も盾もまるで役に立たないとか信じられないよ」

「団長、もしかしてさっきのは〈氷姫(エレアフィアリ)〉なんじゃないのか? 髪が赤いのも一致してる」


「なるほど。あれが〈氷姫〉か……噂に違わぬとんでもない力だね」

「それでこれからどうします?」

「一旦態勢を整える。ポータル周辺の警戒は厳重にね」

「正直あれが突然現れたらどうしようもない気がするが……」


「うん、そうだと思うよ。だから警戒はしておいて現れたら全力で逃げよう。ユーグスティにも確認を取ったけど無理に制圧する必要は無いってさ」

「ああ、わかった」


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