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158話 第一の都市制圧


 大図書館での戦闘もミズキ側の勝利で終結しつつあった。

 広大な館内をファラムとカラムが縦横無尽に駆け回り、射杖で次々と撃ち抜いていた。

 ファラムたちが相手をかき乱している間に、ミズキたちも相対した者をなぎ払っていく。


 そのうちの一人がオーヴェンの剛剣によって吹き飛ばされる。

 他方ではジャラックが相手の攻撃を防ぎ、体勢を崩したところにミズキが長柄戦斧(バトランシェ)を振るい鎧ごと粉砕していた。


「随分と腕を上げましたね」

「え、そうですか!? えへへ、ジャラックさんに褒められたなら間違いないですね!」


 ミズキとジャラックは互いに動きを合わせ、速度を落とすことなく敵の集団へと切り込んでいく。

 攻守がめまぐるしく入れ替わり、相手は対応もできずにジャラックの片手剣グラールに貫かれ、そしてその影から踊り出たミズキの長柄戦斧によって叩き切られていった。


「まったく、呆れる強さだな! あんたらだけで十分じゃないか?」


 オーヴェンが目の前の男を斬り飛ばしながらも、圧倒的な強さのミズキたちに呆れていた。

 近くにはいつもの三人の姿があったが、彼らも同じ気持ちだろう。

 それほどまでにミズキとジャラックの動きは常軌を逸していたのだ。


 そもそもミズキの持つ長柄戦斧の威力がおかしいとオーヴェンは思っていた。

 何も強化していないように見えるが、〈限界突破(ベクティス)〉を使用した自身の大刀よりも威力があるのだ。

 それでいて一向に壊れる気配も無い驚くべき強度だ。


 〈限界突破〉どころか〈全身全霊(エレディヴァンド)〉を使っても壊れないのではないか、そんな考えがよぎっていた。

 そうしている間にも一人、また一人と吹き飛ばされ、床や柱と共に粉砕されていく。

 最後の一人も構えた剣ごと消滅した。

 粗方倒し終え、辺りを見回すミズキの近くにファラムが降り立った。


「大体は殲滅を完了した。して、次の動きだが……」

『はいはーい! 次の目標は決まってますよ~! 相手の本拠地、ぶっ飛ばしちゃいましょう~! 最初はここを拠点として順次攻めに転じる予定だったけど、外に空いた大穴はミズキさんの仕業だって聞いてから作戦変更です!』


 ファラムの言葉に〈風の知らせ〉によるユーグスティの声が被さった。

 大図書館で合流を果たしたことで、オーヴェンもユーグスティに全ての指揮を任せている。


 オーヴェンは前線で戦うほうが性分に合っており、全体を見た場合でも有効であった。

 ルーリアも局所的な指揮は取っているが、同じような理由でユーグスティに任せていた。


「ハッハァ! いきなり敵の大将を叩くというのか! こいつは愉快じゃわい! どうやるのだ!? いつやるのだ!? 早くあのろくでなし共に目に物見せてくれようぞ!?」


 口から泡を飛ばさんばかりに興奮し叫んでいるのはゴルドロアだ。

 突入したミズキたちに続き、戦う横で野次を飛ばし続けていた。


 相手が吹き飛ばされるごとに喝采を上げ敵の戦意を減退、またはイラつかせ集中をかき乱してもいた。

 どれほどの鬱憤が溜まっていたのか。

 驚くべきことに今に至るまでこのご老体は叫び続けていたのだ。


『それは今から説明するのでちょっと待ってくださ~いっと!』


 風に乗ってやって来たユーグスティが目の前に着地する。

 そして土属性魔法を駆使して『地の都(ナビエド・トリース)』の全体図を作り出し、敵味方の位置や規模を表示していった。


「とまぁこんな感じなんですけど、それでここに敵方のリーダーの反応がある訳なんです!」

「はぇぇぇぇ……」

「これはまた便利な使い方ですね。とても分かりやすいです」


 ミズキが呆然と見つめ、ジャラックは作られた立体地図をのぞき込み感心していた。


「いや待て、普通に話を進めているが俺はこんなもの見たこと無いんだが……」


 突然出された立体地図にオーヴェンの顔は引きつっていた。

 視線の先では二色の光点が動き、誰が攻撃を行っているかも分かるよう、矢印が飛び交う親切仕様だ。

 ポータル付近では散発的な戦闘が発生している。


 全体の動きでは『第一の都市(アフル)』には敵性反応はほぼ無い。

 その代わり、周りにある四つの都市に敵が集まっていることが見てわかった。

 どの都市も『第一の都市』に繋がる道のある都市だ。


「便利なのはいいことじゃないですか! でもこれもミズキさんのおかげですからね! 祝福を貰ってから色々楽になりましたし、なかでも魔法の扱い安さが全然違うんですよ! もう感謝しかないです! あ、他の人たちにも声を掛けたのでみんなも戦ってくれてますよ!」

「そ、そうだったんですね……!」


 『黒色の重ね鎧(マダクルカ)』を相手に共闘した者たちも一緒に戦ってくれている。

 そのことにミズキは感極まって目尻に涙を浮かべてしまう。


「それでですね! まずミズキさんにこの大図書館を登ってもらって街の外に出てもらいます! 『地の都』全体が見渡せますのでそこから狙撃してもらおうって魂胆なんですよ! 話によれば何度も撃てるらしいのでどっかんどっかんいっちゃいましょう~!」

「な、何度もは……」


 撃てば暴発する欠陥兵器なのだ。

 いくら『ふぃぐりん一号』の〈爆破ベレシス〉よりも安全とはいえ、そう何度もやりたくはない。

 気の進まないミズキだったが。


「前と同じような武器なんだよね? 何度だって私が直すし、危ないなら〈魔法刃(ルティグイント)〉で守るから安心してよ」


 治療を終えたファティマがやって来るとそう言った。

 砲撃時の爆発からも守られ、即座に修復してくれるという、正に至れり尽くせりだ。


「ファティマさんが一緒なら安心ですね!」


 そして気乗りしない態度をころっと変えた。

 『地の都』の中心に位置する最大の都市、『第一の都市(アフル)』をミズキたちが制圧したことで事態は大きく動き出す。


 まずはゴライアの打倒を計画したユーグスティの指示の下、ミズキとファティマ、それとユーグスティに、おまけで興奮冷めやらない老人ゴルドロアの四人で巨大昇降機へと乗り込んでいた。


 この昇降機は『地の都』の遥か上方、地上にある『森の都』との間を繋ぐ昇降機だ。

 庭人ローナの主な移動手段ではあるが、往復には数日を要する。


「うわぁぁぁぁ……すごいです。確かにここからなら何でも見れますね!」


 都市を覆うドームを越えた辺りで降りたミズキたちの前には、『地の都』全体を見渡すことのできる景色が広がっていた。

 今から行うことは単純であり、ただ遠距離から本陣を狙い撃つだけというもの。

 同時に、相手が混乱した隙に周辺の各都市へと侵攻するのが当面の目標であった。


「確かにこれならどこでも狙いたい放題だね」

「でしょー! 普通の魔法とかだと精々隣の都市が限界だけど、ミズキさんの砲撃ならどこでだって狙えます!」


 ファティマが感心したように言うとユーグスティは嬉しそうに答えた。


「さぁ、ゴライアとか言う奴はどこに居るんじゃ!? 撃つのだろう!? 撃つんじゃよな!? はようするんじゃ!」

「はいはい! ここで~す! ここからほぼ真北にある外縁近くのこれですよ~!」


 ユーグスティが再度立体地図を作り、真北より僅かに西側へずれた位置にある小型の都市、『第二十二の都市(ヘイガー)』を指し示した。


「ほ、ほんとに撃っちゃっていいんですか……? きっとすごい被害が出ちゃいますよ……?」


「すでにこれだけの被害が出ておるのだ! それに被害の補填は負けた奴らに請求してやるのだろう!? むしろ存分に壊し回ってやろうぞ! がははははっ! 『第二十二の都市』の都長も机を新しくしたいと言っておったから丁度いいじゃろう!」


 壊せば壊すだけ負けた側の負担が増え、ざまぁないとゴルドロアが言い放つ。

 ミズキはなおも渋っていたのたが、ゴルドロアの血走った目と、あまりにもな勢いについに折れてしまう。


「うぅ~ッ! わかりました、撃ちますよ!? もうどうなっても知りませんからね!?」

「ミズキ、私はいつでもいいからね」

「わかりました!」


 ファティマの『氷鱗剣』からミズキを守るように〈魔法刃〉が展開される。


「ハーハッハッハッハァ! 撃てえええええ! ううううううう撃てええええええッ!!」

「〈砲撃レガーダ〉!」


 砲術杖アーティロウ内部に〈魔力刃ミラグイント〉が展開され、砲口から馬鹿げた威力の紫光が吐き出された。


   *


 時はさかのぼり、宣戦布告直後の『第二十二の都市(ヘイガー)』にゴライアたちの姿はあった。

 〈起爆(イルーヴ)〉によって拠点を破壊されたゴライアたちは拠点への強制転送がされず、『第二十二の都市』へと転送されてしまっていた。

 全ての装備を失い裸の状態で。


「なッ……!? 何だこれは!?」

「ちょっと何なのよこれぇ!?」

「あの餓鬼の所為だ、クソがッ! 餓鬼が苦し紛れに自爆なんぞしやがってッ……!」


 怒りのあまり大声で叫び立てていた。

 通りかかった者からは奇異の視線や馬鹿にしたような嘲笑を向けられ、ゴライアたちの怒りはますます激しくなっていく。


「あの餓鬼ただじゃおかねぇ! なぶり殺してやるよぉ! 何見てんだてめぇ、見せもんじゃねぇんだよぉ!? ああ、丁度いいからこいつは貰うぜぇ?」


 あろうことか、通りかかった者を殴りその衣服を剥ぎ取った。


「なるほどね、〈火弾フォナート〉!」


 庭人の顔に魔法が当たり悲鳴が上がる。

 他の者たちも同じように周りに居た者から服を奪っていった。

 こんなことをしては恨みを買うのは当然のことで、後の動きに洒落しゃれにならない影響が出るだろう。

 容易に想像がつくものだが、怒り心頭なゴライアたちは一切構わなかった。


「チッ、やっぱこいつらの服じゃ耐久性に期待できんぞ」

「とりあえずの繋ぎだからいいんだよぉ。まずはフリオと連絡を取れ。どうせお気楽なアホ共が作った連合とかとやり合う予定だったんだ。その前に餓鬼の一人血祭りに上げるだけだ、問題なんざねぇよなぁ? それにいい機会だ、いけ好かねぇ奴らの街を壊してあいつに補填させてやろうぜぇ! まぁ払えないだろうがな、ギャハハハハハ!」


 ゴライアは馬鹿にするような高笑いを上げ指示を出していく。

 まずはかねてより協力の約束を取り付けていた、フリオと呼ばれる者に一人を向かわせた。

 幸い『第二十二の都市(ヘイガー)』にはフリオの拠点が存在する。

 すぐに合流できるだろう。


「この際だから盛大にやってやりましょうか。この私に恥をかかせたんだからできるだけ酷い目に会ってもらわないとね」

「俺の射杖を台無しにしてくれたんだ! ただ痛めつけるだけじゃおさまらねぇ!」


「ならあること無いこと吹聴してやればいいんじゃねぇかぁ? ついでに馬鹿共を扇動してぶつけてやれば一石二鳥ってなぁ!」

「ハハッ、そいつはいい。それもフリオの奴が来てから頼もうか」


 話していると少しの間を置きフリオが現れた。


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