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157話 連合進軍


 ミズキが『第一の都市(アフル)』の西ポータルを爆破したときのこと。

 ファラムとカラム率いる連合が『森の都(エゴラ・トリース)』の南にある公園、その中でも大広場と呼ばれる場所へと集まっていた。


 南と東から進撃するため、ふたつに分けられたがその数は実に千五百。

 合わせれば連合だけで三千にもなる圧倒的な戦力であった。

 東側を担当するファラムとは別の部隊も同じように広い場所へと集合し、全ての準備が整っていた。


「オーヴェン殿からの知らせが届いた。まずは手はず通り、我とカラムが先んじて敵をかく乱する。十秒後に第一波、その後の第二波以降は三十秒ごとにポータルを通過せよ」


 これは一度に多くの者がポータルへ殺到すると、身動きが取れなくなってしまうからだ。

 それを回避するためにファラムを先頭とし、確固撃破される危険に晒されなければならない。


「なお、これ以降指揮をする余裕は無くなるだろう。我の突撃後の指揮はユーグスティ嬢に任せる」

「お任せくださーい! さぁ行きましょう! 早く行きましょう! 試練の恩を返したいからね! ほら、みんなも準備万端みたいだよ!」

「「ウォオオオオオオオ!」」


 ユーグスティは試練のほこらを攻略するとき、ミズキと一緒になった人形だ。

 そしてここにはユーグスティと同じように『黒色の重ね鎧(マダクルカ)』と戦い、ミズキに助けられた者たちが恩を返すために集っていた。


「士気は十分。途中参加者にも報酬を渡すゆえ、機会があれば戦力を拡充せよ。では参ろうか。カラム」

「わかったよ! 久々の戦いだね! よぉし、がんばるぞー!」


 カラムはファラムに跨ったまま、魔法箱から長身の射杖リスロウを取り出した。


「道を開けよ」


 その一言によって大広場に集まった者たちが割れ、ファラムたちの通り道を作り出した。


「じゃあ行ってくるね~!」

「参る」


 ファラムは瞬時に加速しその姿を霞ませた。

 道を駆け抜けるは疾風。

 割れんばかりの歓声の中、〈影風スアキラーナ〉の二つ名に恥じない風となりポータルへと消えていった。


   *


 『第一の都市(アフル)』の東ポータル周辺には、ゴライアに雇われた人形たちの姿があった。

 東ポータルを確保し、来る者たちを待ち伏せていたのだ。

 しかし。


「くそっ! また遠くから音がしやがる、一体どうなってんだ!」

「俺が知るかよ。そもそも相手は少数だって話だったじゃねぇか。それが今となっては百人を越えてるとか、完全に失敗したかもな」

「はぁ、参加するだけで小金が貰えるって言うから参加したのに、あんたらの口車に乗るんじゃなかったわ」


 ゴライアたちやその周りの者らが提示した条件はいい加減で、数を揃えれば相手の戦う気も失せるだろうというものだった。

 しかし、クーやファティマ、ルーリアの結盟が参戦したことによって当初の予定はとうに狂ってしまっていた。


「ああ? お前だって楽に稼げるとか言って乗り気だったじゃねぇか」

「状況が変わったのよ。他の奴らがさっさと終わらせてくれると思ってたのに、当てが外れたわ」


「はっ、なんなら今からでも倒しに行くか? 一応他の奴らへの義理でここを守っちゃいるが、今からでも西に行けば戦えるだろうよ」

「冗談。何でそんな面倒くさいことしなくちゃいけないのよ」

「言えてるな」


 愚痴ばかり言い合い、ろくに協力をするつもりも戦うつもりも無い彼らの士気は低い。

 現状、多くの者たちは参加をするだけして、他の誰かが戦争を終わらせてくれることを期待していた。

 本来であれば、今行われている戦争条件では死に物狂いで戦う以外の選択肢は無いはずなのだが、圧倒的とも言える人数差が消極的な行動を取らせていた。


「チッ、お前らはいいよな。こちとらだまされて参加させられたんだ。早く終わって欲しいぜ、まったく……」


「ほんと、とんだ災難よ。向こうが悪いみたいなこと言ってたのに、本当はこっちが酷いことしたって情報が大量に出てきてるわ。それを鵜呑うのみにして勝手に参加しちゃうんだから、うちの盟主にはしっかりしてほしいわ」

「それは、その……すまん」


 利益を目当てに参加した者が居る一方で、彼らのようにゴライア側の話をそのままに承諾してしまった者たちも居た。

 そういった経緯もあり戦意も何もあったものではない。

 事ここに至っては彼らも無難に終わることを願うばかりであった。

 しかし、そうした希望は打ち砕かれることとなる。


「ポータルから来るぞ! 迎撃用意!」

「くそっ! なんでこっちに来るんだよ!」

「いいから攻撃しろ!」


 ポータルから現れたファラムに向かって、魔法や矢などが雨あられと放たれる。

 しかしファラムの速度は風に等しく、もはや黒い線にしか見えない。

 自身に向かって放たれた全てを置き去りにして駆け抜けていた。


「わっふぅぅう! それじゃいっくよ~!」


 カラムが射杖を構え弾丸を放った。


「がっ!?」


 狙い違わず男へと命中した。

 同時に黒い影が過ぎ去ったかと思えば、ファラムはすでに包囲を突破していた。


「どこにいった!?」

「後ろだ、後ろにいる!」

「速すぎんだろ!?」


 ファラムが鋭角な角度をつけて旋回し、追撃に放たれた魔法を回避する。


「どんどんいっくよ~!」


 カラムが三発の弾丸を放ち順々に撃ち抜いていく。

 行く手には五人ほどが固まり、その中の一人が辛うじて肉薄するファラムに反応し盾を構えた。

 しかし、できたのはそこまでだ。


 盾ごとファラムの前足に弾き飛ばされた。

 驚き固まる者たちも同じようになぎ払っていく。

 カラムもおまけとばかりに、弾丸を周りの者たちへと浴びせかけていた。


「ぐぅ……! お前は一体……!?」


 最後に踏みつけられた男がうめき声を上げる。


「相手が悪かったな」


 ミシ、と前足に力が入れられ踏み潰される。

 そこに矢が放たれるがファラムの姿はすでにない。


「なんなんだあいつは!?」


 弓を構えた男が驚愕と共に叫ぶ。

 しかしそこに〈炎槍〉が放たれ、男は訳も分からず転送されていった。

 ファラムたちに続く第一波による攻撃だ。

 混乱していた場は混迷を極め、次々現れる増援を食い止めることなどできない。

 包囲は完全に突破されてしまっていた。

 第三波が現れた辺りで東ポータルでの戦闘は終了してしまう。


「アルマ様から支援せよと仰せつかったが、過剰戦力だったやも知れぬ……」

「わふ! でもでも、楽なことはいいことだよー?」

「確かに。資金に関しては問題ないと指示されておるからな。ユーグスティ嬢よ、南の首尾は?」

『はいはーい! あっちも問題なく制圧できてますよ!』


 〈風の知らせ(エルヴ・リアース)〉が使えることから全体の指揮はユーグスティに任せていた。

 繋がりを利用して確認すればすぐに返事が返ってくる。


「了解した。ではポータルに守りを配し進撃する」


   *


 大図書館周辺で魔法による轟音と剣戟の音が鳴り響く。

 ミズキ側の陣営が圧倒的な戦力をもって三方向から押し寄せていた。

 人数比はおよそ六倍。


 大図書館に陣取っていたゴライア側五百に対し、ミズキ側は三千を越える。

 装備や消耗品の質と量に至っては比べるべくもない。

 外に出てきたゴライア側の者たちは順次魔法で吹き飛ばされ、また斬り倒されていった。


 残りは大図書館内に籠城している者たちと、ポータル周辺を拠点としている者たちだ。

 大図書館の制圧にと突入していく。


「ミズキ、まずは威力のあり過ぎるものは控えてくれ。この大図書館は拠点として使うから壊さないように制圧する必要がある」

「わかりました!」


 通常の魔法や爆発する魔道具程度では、破損させることすらままならない造りではあるが、ミズキの規格外の威力ではどうなるか分かったものではなかったからだ。

 同様に手加減を要求されたクーに対しても同じように確認していく。

 もっとも、建物内では基本的に前衛組みが制圧していくためクーの出番は無い。


 しかし様子見で撃った〈炎槍〉が大図書館の一部を吹き飛ばした。

 結果、手出し無用と指示されその顔は不満に少しふくれていた。

 そして突入組みから外された代わりに、クーはポータルの制圧へと駆り出されていた。


 直近のポータルからはひっきりなしに増援が送られ、その周辺では未だに激戦が続いている。

 前衛が入り乱れ、後方からは魔法などが撃ち込まれていた。

 今や両陣営の圧倒的であった人数差は縮まっており、それに危機感を覚えた者たちが『第一の都市(アフル)』を取られまいと奮闘していたのだ。


 すでに四つあるポータルのうち三つを取られてしまっている。

 もしここを取られてしまった場合、『第一の都市』を攻めるためには危険極まりないポータルを突破するか、四本しかない細い崖のような道を突破するしかないのだ。


 死に物狂いで戦っているとはいえ、ゴライア側全体から言えば多くない数であった。

 絶え間ない増援はあるものの、空中を含めた全方位からの攻撃に晒され押されていた。

 そこに追い討ちを掛けるような出来事が起こる。


『オーヴェンさん、聞こえますか!』


 全体の指揮と調整をしていたユーグスティからの呼びかけだ。


「ああ、聞こえている。どうした?」

『加勢したい結盟が大図書館前にあるポータルからの移動許可を求めてますけど、許可していいのかな!?』

「構わんぞ」

『わっかりましたぁ!』


 ポータル周辺への攻撃が一時的に止められた瞬間、ゴライア側に混じるようにして〈自由と共鳴エレセリア・アリクシム〉の結盟員が転送されて来た。


「どうやら間に合ったみたいだね。存分に暴れてやれ!」


 盟主であるクロードが駆け出し、上方へ〈障壁ロアーミナ〉を展開していた者へと斬りかかった。


「な……ッ!?」


 ポータル周辺の安全を確保するために張られていた〈障壁〉であったが、上方へと集中的に展開していたため、横方向からの攻撃には無力であった。

 他の結盟員も事前の打ち合わせ通り、混乱に乗じて〈障壁〉を担当する者を集中して叩いていく。

 障壁が一枚、また一枚と消失していった。


「おい、後ろだ! 後ろに敵がッ!」

「くそっ! まだ戦力が残ってたってのか!」


 事ここに至ってようやく奇襲されたことに気がつき、後衛を守るために急いで陣形を入れ替えようとした。

 しかし、そこへクロードたちが切り込み入り乱れてしまう。

 それにクロードたちがポータルから離れたことで攻撃が再開され、ゴライア側の増援が次々に吹き飛ばされていた。


 クロードは指示を出している者を斬り倒し混乱を拡大させていく。

 その一方で、〈自由と共鳴〉の結盟員は四人一組で動き互いをフォローしあっていた。

 これは〈風の知らせ〉を使えないクロード一人では、正しい指示を行き渡らせることが困難であり、そのことから考え出された戦い方だ。


 なら指示を出す者がたくさん居ればいいじゃないかと試した結果、前衛二人と後衛二人が一塊となって戦い、相互の援護が確実なものとなったのだ。

 こうして盾と矛を切り替えながら粘り強く戦うことが可能になり、ファティマの力を当てにしなくとも、迷宮の主を安定して打ち倒すことができるようになっていた。


 そうした四人一組みが能動的に動き混乱を助長していく。

 クロードたちの活躍によって、ゴライア側はポータルから増援を送ることすら覚束なくなり、配置が変わったことで薄くなった前衛が食い破られた。

 もとより増援ありきの戦い方だったこともありまたたく間に倒されていく。


 クーは誤射が怖いからとユーグスティの指示によって後方で待機していた。

 殲滅せんめつ後はポータルからの転移を警戒し包囲する。

 あとは損耗した仲間が戻るときだけタイミングを合わせ、それ以外は転移して来た瞬間を狙った集中砲火で突破を阻止する手はずとなった。


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