15話 魔女の好物は……
「私が予想したとおり可愛いわ、それに素早さアップよ!」
リティスが握りこぶしを作り熱く語っていた。
「くつろぐのに素早さなんて要らないですよ!?」
「それもそうね。ここはやっぱりはだか――」
「素早さ必要ですよね! ボク早いの大好きです超要ります!」
ミズキが慌てて否定した。しかし、すぐに興味がなくなったのかリティスが話題を変える。
「そういえばお腹空いてない?」
「……空いてますね?」
「ならすぐに準備するから出てきなさい」
「またなにか変なことしないですか?」
「私と一緒に食べるのは嫌になってしまったのね……」
リティスの悲しそうな声にミズキはしぶしぶ家の外へと向かった。
玄関を出た先にはテーブルが用意され、その上にはティーセットと、一際存在感を示す大きなクッキーがあった。
「大きなクッキーなんですね?」
「甘いのは嫌い?」
「大丈夫です、甘いのは好きですよ!」
ミズキは自身の顔より大きいクッキーにかじりつきボリボリと咀嚼する。
クッキーをほお張るミズキを、リティスが至福と言わんばかりにながめ続けていた。
不思議なことにそれほどの量があっても見事になくなり、今は紅茶の入ったティーカップに口をつけている。
紅茶を飲みながら一息ついていたとき、平積みされた本のひとつが落下してきた。
「ンッ!? けほっけほっ!」
本は見事にミズキが使用していたテーブルに当たり粉々にする。本とミズキとの距離はわずかで、あと少しずれていたらと思ったミズキが青ざめていた。
「びっくりしました……」
「そろそろ片付けたほうがいいかしら?」
「お片付け、してほしいです……」
「やっぱり面倒ね」
「…………」
ミズキが希望を言うもリティスはすぐに諦めてしまった。そして、すでにリティスの興味は別のことに向けられていた。
「そういえば今回はどんな素材を取ってきたのかしら」
「あんまりいいものじゃないですよ?」
そんなミズキの言葉に耳を貸さずに、リティスはカバンをひっくり返し中身を手の平へ取り出した。
そうして出てきたのはあの『緑毒山椒魚』の素材だ。
「すごいわ!」
「え?」
「毒のある素材じゃない、何の毒なのかしら。早速試してみてもいい?」
「え、試すんですか?」
言うや否やリティスはすでに作り変え始めていた。手の平の素材へと光の輪が収束していき、できあがったものを用意した小瓶に収めていく。
「毒素も強化してかさ増しして……できたわ!」
リティスが手にする瓶には、濃緑と黄色が分かれて混ざり合う液体が入っている。それを口元に近づけると一気に飲み干した。
変化は劇的であった。
顔が黄色くなったかと思えば溶け始め、輪郭はどこまでも歪んでいき皮膚や肉がただれ落ちていく。
手や体も同様に、皮膚や内臓と思われるものが溶け落ち骨が見え初めていた。脆くなった首の骨が折れ、頭部が黄色と赤色の溜まりへぐちゃりと落ちる。
体を構成していた骨も同様に崩れ去り、溶けた肉液へと沈んでいった。特に変化のなかった髪がいっそ不気味なほどの光景。
一部始終を見ていたミズキの顔は青を通り越して土気色になり、胸の前で合わされた手が小刻みに震えていた。
そして静寂の世界に光が走る。
光が肉液を包んだかと思えばグジュ……ジュチ……と、ひき肉を混ぜるかのような音が響き、ぐちゃぐちゃな肉人形を形作っていく。
「ひ、ひぇぇぇ……」
形作る際にリティスが着ていた服も巻き込まれるが、その動きは止まらなかった。やがて人形から人になっていきリティスが目を開く。
「はぁッ……! すごくいいわ……!」
恍惚とた表情のリティスが両腕で自らの体を抱き締める光景は、ミズキが許容する恐怖の度合いを用意に突破する。
「あら、服も混ざっちゃったのね」
おもむろに掴むとそれを勢いよく引っ張った。皮膚と肉が裂ける音が聞こえ血が噴出する。しかし、その傷もまたすぐに塞がってしまう。
その凄惨極まりない惨状に、ミズキはその場で崩れ落ち気絶してしまった。
「あら?」