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14話 人形の家


 魔女エマヴィス・リティスの領域に、ほくほくとしたミズキの声がした。


「ただいまです~」

「あら、おかえりミズキちゃん。随分と汚れて来たのね?」


 ミズキの茶色に染まった服を見たリテイスが尋ねた。


「これはちょっと泥にはまってしまって……」

「そうだったのね。とりあえず綺麗きれいにしましょうか」

「え? まさか――」


 リティスが指を振るとミズキの服が光と共に消失した。


「ぎゃあああああやっぱり!」

「体も汚れてるんでしょう。あなたの家も作ってみたから入ってきなさい」

「え?」


 ミズキが振り向くと、平積みされた本に囲まれているが立派な家が建っていた。


 リティスと比べるととても小さいが、赤いスレート瓦とレンガ作りが特徴的な一階建てだ。


「すごいです、家です! 家がありますよ!」


 ミズキは興奮し、腕をぱたぱたと振って喜んでいた。


「気に入ってくれたみたいね。作った甲斐かいがあったわ」

「ありがとうございますリティス様! ふぇ、ふぇくしっ!」

「ほら、早く入ってきなさい」


 とてとてと歩いていき、玄関と思われる扉のドアノブをひねると、小さい音とと共にドアが開いた。


 中に一歩踏み入ればそこは確かに家であった。丸い明かりがり下がり、曲線のある机と椅子が特徴的な内装だ。


「お風呂は入って右よ」


 右にある扉を開ければ何も置かれていない棚と、もうひとつ扉があった。その扉を開けると湯のあふれる大きく丸い湯船が目に入った。


「わぁ! 広いです!」


 ミズキの住んでいた一般的なユニットバスの十倍はありそうな空間が広がっていた。


 湯気が立ち込めるなか、流れる水音が続いている。材質は薄茶の石材で統一され、湯船だけは少し色味が濃くなっていた。


 脇にはよく見知ったシャワーと洗い場があった。そこへと向かい椅子に座りると、備え付けられていた鏡に自身の姿が映り込み思わず固まってしまう。


 ぎこちない動作でレバーを捻れば、蛇口の先端せんたんからお湯が勢いよく流れだした。まずは髪を洗い始めたが。


「うぅ、長い髪って洗いにくい……」


 苦労しながらもなんとか洗い終わる。次にスポンジのようなものをつかむと、石鹸せっけんを擦り付け泡立てた。


 今から体を洗うとした瞬間に手が止まる。手元をじっと見つめ迷ったすえに、ミズキは目をつむりながら洗うことにした。


 体を洗い終わり低い位置にある湯船へその体を沈めると、間延びした声が浴室に響いていた。


「ああ……極楽ですぅ……」


 しばらくは流れ出る湯の音だけがこだましている。体を広げ存分に湯を堪能していると突如、家全体が揺れだした。


 天井が遠ざかりパラパラと落ちた破片が湯船へと沈んでいく。


 天井が横にずれるようにして動き、現れたのはリティスの顔だった。


「どう? 気に入ってくれた?」

「な、な、な……!?」


 ミズキはパクパクと口を動かすばかりで、言葉が上手く出てこないほどに驚いていた。


「なんで……?」


 ようやくしぼり出されたのは疑問の声。リティスはそんな質問に対し、取り外した屋根部分を見ると得心する。


「ああ、これ? ミズキちゃんの姿がいつでも見られるように取り外し可能にしておいたわ!」

「変態です! 変態さんです! プライバシーがないですよ!」

「私のことは気にせずにくつろいでいていいわよ」

「無理ですよ!」


 巨大な顔にのぞき込まれては、おちおち風呂に入ることすらできない。そもそも、どのような場合においても落ち着くことなどできないだろう。


「服は綺麗きれいにしておいたから棚に置いておくわね」

「え? あ、ありがとうございます……じゃなくて!? のぞくのはやめてくださいよ!」

「ええ、そんな……!? ミズキが家でのんびり暮らす姿が見たかっただけなのに……! あんまりだわ!」


 ミズキの抗議にリティスは絶望の表情を浮かべ、それから悔しそうに顔を背けた。


「こんなんじゃのんびりなんてできないですよ! せめてお風呂と寝室だけはやめてくださいよ!」

「それじゃ一番美味しいところが見れないじゃない、折角作ったのに……」

「うっ……駄目なものは駄目ですからね!」

「わかったわ……」


 リティスは諦め、名残惜しそうに屋根を元に戻した。


「まったくもう、まったくもうですよ!」


 ミズキは不機嫌そうに顔を膨らませる。気を取り直し、しばらくくつろいだあとに湯船からあがった。


 脱衣所で体の水気を拭き取り、服を着ようと探すが見当たらなかった。


「あれ? 服がないですよ?」

「やっぱりこっちの服を着てもらおうと思って」


 リティスの声が外から聞こえると、ミズキの体が光に包まれ瞬時に着替えさせられた。


 横にあった鏡にはベージュと茶色のしましまが見え、全体的にゆったりとしたシルエットが頭から足まで続いている。


 頭を覆うフードには三角の突起が二つ、手足はもこもことした手袋で覆われていた。


「猫ちゃんですぅぅぅぅぅ! どこからどう見ても猫ちゃんパジャマですよ!」


 床にうなだれ力の限り叫んだ。


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