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13話 泣いたり、倒れたり、儚く散っていったり


「あれが『泣丸鼠(うりゅりゅん)』です。なぜかいつも泣いていますが、とてもおとなしいのでミズキでも倒せるとは思いますよ」


 ミズキは剣を握り締め『泣丸鼠』へと近づいていくと、とても悲しそうに泣いている『泣丸鼠』がミズキを見上げた。


 そしてさらに顔を(ゆが)めると涙が(あふ)れだしてしまう。その様相に思わず息を飲み込む。


「む、無理ですぅぅぅぅ! うっ、うっ……ボクにはこの子を倒すなんてできないよぉぉぉ……!」


 ミズキが剣を落とし崩れ落ちた。


「予想はしていましたが、倒す意味もあまりないので私もできれば倒したくはないですねぇ」

「ほ、ほかには居ないのですか? こんなにも悲しそうな子はとてもじゃないけど斬れません……」


 こんなかわいそうな生き物は斬りたくないと思ったミズキが懇願こんがんする。


「そうですねぇ。ではミズキでも間違いなく倒せる、と言っては語弊ごへいがあるかもしれませんがそっちを見てみましょうか」

「お願いします……」


 二人は一度『森の都』に戻り、今は別の森の中に来ていた。


「向こうに見えるのが『野海豹のざらん』ですね。一切攻撃してきませんし、とても打たれ弱いので倒せると思いますよ」


 ジャラックが示す先には『野海豹』と呼ばれる魔物が横たわっていた。


 姿はずんぐりむっくりとした楕円形だえんけいで、申し訳程度に胸ビレと尾ヒレが着いていた。


 ミズキが近づくと、『野海豹』が何かに気づいたかと思うと急にぐったりし始めた。


「え? え!? ボクまだ何もやってないよ!?」

「『野海豹』は近づくだけで死にますからねぇ」

「のざらあああああん!」


 倒れて動かない『野海豹』をミズキが抱き起こす。しかし、その努力の甲斐(かい)なく『野海豹』は光の粒子となり散っていった。


 粒子が拡散していったあとに、小さいが淡く輝く赤色の光が漂っていた。


「これは、なんでしょうか?」

「どうしました?」


 その光がミズキの手元へと吸い込まれていく。


「この光です。あ、今ボクの手に吸い込まれてしまいました」

「私には何も見えませんでしたが……」

「なんだったんでしょう?」


 先ほどの『野海豹』を思い浮かべるとミズキの体から赤い光が出てきた。


「あ、出てきました。この光です」

「やっぱり見えませんねぇ」


 やはりジャラックには見えていないようで、色は違うが、危篤きとくだった父親を看取った際に見た光のようだとも思った。


(なんだろう?)


陽気なる鑑定(オルズナーチ)

 『野海豹の魂』

 【虚弱極まりない魂】


 急に文字が現れミズキが目を見開き驚いた。


「え? 何か言葉が見えました。鑑定? 『野海豹の魂』……ってなんでしょう?」

「おや、それは恐らく〈陽気なる鑑定〉でしょう。いろいろなものの名前がわかる技能ですよ」

「そんなのがあるんですか?」


 ジャラックの説明にミズキが見上げながら首を傾げる。


「ええ、私も持ってますからね。私も欲しいのですが〈六光の分析眼〉というのもありますよ。それにしても『野海豹の魂』ですか。素材のひとつだとは思いますが聞いたことがありませんね」

「よくわからないですね?」


 ジャラックがあごに手を当てて考え、ミズキは首を傾げる角度が深くなるばかりだった。


「ほかには何かありましたか? ほとんど役に立ちませんが注釈があるはずですが」

「えっと、【虚弱極まりない魂】っていうのかな?」

「そのままですねぇ。先ほどの『野海豹』を鑑定すると【すぐ死ぬ】と出ますよ」

「えぇー……」


 そのあまりにもひどい注釈説明に、ミズキは嫌そうな顔をする。


「ほとんどの場合、名前を知るくらいですね」

「でも名前がわかるのなら採取が捗りますね?」

「そうですねぇ、名前がわかるだけでも全然違いますからね。いろいろなものが鑑定できるので試してみるといいですよ」

「はい!」


 ミズキが元気良く手を上げ答えた。その様子にジャラックは苦笑すると共に話題を変える。


「そういえば聞いていませんでしたがミズキはなぜ弱い魔物を探しているのですか?」

「強くなって時の素材を集めたいのです!」


 胸の前で両拳を握って見上げながら力説した。


「なるほど時の素材ですか、かなり珍しいですね。ミズキも魔女殿の要望か何かですか?」

「えっと、ボクは別世界から呼ばれた? みたいで元の世界に帰りたいんですけど、そのためには時の素材が必要なんです」

「別世界ですか。魔女の領域みたいなものでしょうか」

「リティス様の場所とは全然違いますよ」

「ふむ、帰るためですか……」


 考え込むジャラックの姿はどこか寂しそうにも見える。しかしそれも一瞬のこと。すぐにいつもの雰囲気に戻ってしまったのでミズキは気づかなかった。


「あ、ボクも魔女の要望なのかということは、ジャラックさんもなのです?」

「そうですねぇ。なんでも主殿は直したいものがあるらしく、とにかくなんでもいいので集めるよう言われています」


 人形は魔女の願いや要望をかなえる存在として作られることが多く、ジャラックも同様だった。


「そうだったんですね。あ! 良かったら協力して一緒に探索しませんか? ボクが一番欲しいものは時の素材ですから、ジャラックさんの欲しいものとは被らないんじゃないですか?」

「……いいのですか?」


 ミズキの提案にジャラックは躊躇ためらいがちに聞き返した。


「だ、駄目でした……?」


 反応が予想外に芳しくなかったからか、ミズキはしゅんとしてしまう。


「いえ、このようななりですと協力してくれる方があまり居ないものでしたので。このような姿の私と居てもミズキはいいのですか?」

「ボクは全然構いませんよ!」


 一転、そんなことは関係ないと元気を取り戻しミズキは相好を崩した。


「では、よろしくお願いしますねミズキ」

「はい、こちらこそよろしくお願いしますねジャラックさん!」

「でしたら話は戻りますが、強くなりたいならば何も魔物と戦う必要はないのではないですか」

「そうなのですか?」

「ええ、私が手ほどきをしましょう。こう見えても少々受けには自身があります」

「いいのですか!? わぁ、ありがとうございます!」


 ミズキが歓喜のあまりジャラックへと飛びつき抱き締め、ジャラックは仕方がないとばかりに頭をかいていた。


 ミズキが落ち着く頃合を見計らってジャラックが話を切りだす。


「ですが使う武器以外で練習しても良くないので後日にしましょう」


 こうしてミズキは武器が直り次第、ジャラックと手ほどきする約束をする。


 二人は一度街へ戻ってから別れたあと、ミズキはリティスの元へと帰るために〈帰還〉と唱えた。


 そうしてミズキが光に包まれるとその姿は見えなくなった。


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