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126話 依頼を達成していきます


 ポータルを潜り、『森の都』の迷路のような通路を縫うようにしてたどり着いた中層。

 届け先の住人に小包みを渡し依頼のひとつが完了した。


「次は手紙ー」


 再び風の導き石で道順を確認するとすぐさま次の場所へと向かっていった。

 そうして何軒か回ったあと、子守を必要とする依頼人のところへ向かえば女性が出迎えてくれた。


「あらぁアルフェイちゃん、今日も来てくれたのね~。じゃあ早速お願いできるかしら」

「わかった!」

「あら、そっちの子は?」

「ミズキだよ。今日はいっしょなの」

「はい、今日はアルフェイ君が普段どんなことをしているか見させてもらってるんです。ここに居ても大丈夫ですか?」

「あらそうなの。うちの子も喜ぶと思うからお願いするわね」


 そう言って女性は出かけていってしまった。


「こっち」


 アルフェイに手を引かれ隣の部屋に向かう。

 部屋の中にはミズキたちと同じくらいの女の子がベッドの上で寝息を立てていた。

 そしてミズキたちの気配に気がついたのか、目をぱっちり開くと起き上がり。


「アル! ……とだれ?」

「こっちはミズキだよ。今日はいっしょなの」

「ふーん」


 アルフェイの名前を呼んだときの笑顔とは対照的に、ミズキのほうを見たその目は険悪だった。


「よろしくね……?」


 ミズキは何故にらまれているのかわからず、引きつった笑顔を浮かべつつ遠慮がちに挨拶するのだが。


「あ、服! かわいくなってる!」

「変かな?」

「ぜんぜん!」

「よかった! ミズキが買ってくれたんだよ」


 その瞬間、ギギギッという音がしそうなほどにぎこちない動きで女の子がこちらに振り返った。

 そしてその目はいささか敵対の色が濃いように思える。

 しかし、先ほどまで楽しそうに話していた女の子が急に不機嫌になった理由がわからず、ミズキは途方に暮れるばかりであった。


「どうかな? 似合う?」


 しかし、アルフェイがくるりと回り服を披露すれば女の子はたちまち笑顔となった。

 それからは楽しそうに二人で話していたので、ミズキは風の紡ぎ石を取り出し先日の募集に返事がないか確認していた。


 しかし残念なことに一人の参加者もおらず落ち込んだ。

 その様子に気がついたアルフェイがミズキとその手元の結晶板をのぞき込んだ。


「どうしたの?」

「探索の募集をしていたんですけど誰も参加者が居なくって……」

「ごめんね、ぼくも一緒に行ければよかったんだけど……」


 アルフェイもしょんぼりとしてしまう。

 魔女との繋がりが切れた状態では探索など危険極まりない。

 仕方のないことだとアルフェイの頭を撫で慰めた。


「ううん、アルフェイ君は危ないから仕方ないよ」

「あ、そうだ。探索とはちがうんだけどね、今度いっしょに光晶石だっけ? 取りにいってみようよ。これもルーナ姉ちゃんに教えてもらった方法なんだよ」

「いいですよ、ぜひ一緒に行きましょう!」


 その様子を見ていた女の子が顔をうつむかせるとぷるぷると震え、ついには泣き出してしまう。


「うぁあぁぁああ……!」

「ど、どうしたの!?」


 驚いたミズキが女の子に触れようとすると手で払われてしまう。


「あ、アルフェイ君はどうして泣き出しちゃったかわかる?」


 急に泣き出した様子にアルフェイも驚き立ちすくむばかりだ。

 ミズキの言葉に気がつくも首を振った。


「ひどいよ! ひっく、アルはあたちのなのにぃぃぃ……!」


 なおも女の子が大声で泣き続けていたが。


(あれ、これってもしかして……)


 ピンと来たミズキだったが、まずは落ち着かせなければならず、どうしたものかと考える。

 そして思いついたのは単純なものではあるが効果的だろうと思われたものだ。


「良かったらマカロン食べない? アルフェイ君も好きだから一緒に、ね?」

「うぅ、ぐすっ、食べるぅ……」


 そうしてあの巨大マカロンを出したのだが。


「大きすぎるわよ! ひどいよこんなに食べられないようぁぁぁあ……!」

「ほ、ほら! アルフェイ君と半分こできるし……!」

「そ、それもそうね……」


 再び泣きだしてしまったことに焦りに焦りまくったが、どうにかその勢いを止めることに成功した。

 それからは落ち着いた女の子とアルフェイが仲良くマカロンを食べていたが、ふとこちらの様子をうかがう女の子が目に入った。

 首を傾げると女の子は赤くした顔をうつむきがちに言葉を紡ぎ始めた。


「あ、あんた……いいやつだったのね。さっきはごめんなさい……」

「いいんですよ。ボクは別に気にしていないので、えっと……」

「リナ。あたちはリナよ」

「リナちゃんも気にしないでくださいね」


 リナがこくりと頷くとちょいちょいと手招きする。

 そして近くまで来たリナの耳元にぼそりと呟く。


「リナちゃん、アルフェイ君のことが好きなんですね?」


 瞬間、恥ずかしさでぼふんと湯気を撒き散らしてしまう。


「にゃ、にゃんで……!?」

「見てればわかりますよ」


 ミズキは微笑ましいものを見るようにふふっと笑う。

 そしてもう一度リナの耳元にささやき始める。


「それにボクはこんな見た目ですけど大人ですから。アルフェイ君のことは好きですけど保護者みたいなものなんですよ。だからアルフェイ君が取られる心配はないので安心してくださいね」


 離れるとリナは涙目ながらに頬を膨らませぷるぷると震えていた。

 その目の前ではミズキがにこにこ微笑んでいたのだが、バシッとその手がはたかれていた。


「いったああああい!?」

「ミズキ!?」


 不意の衝撃にすごく痛いような気がして思わず叫ぶ。

 そしてミズキはなおもバシバシと叩かれ続ける。


「うるひゃいうるひゃい!」

「ちょ、ちょっと待って、待ってぇぇぇ!」


 涙目でミズキを叩くリナをアルフェイはどうすればいいのかわからず、混乱した末に後ろから抱きついて止めていた。


「た、たたくのはよくないよ……!」


 そうするとリナの動きが急に止まった。

 振り返ると顔を真っ赤にし、力が抜けたように崩れ落ちてしまう。

 そうしたところで女性の帰ってきた音が聞こえた。


「ただいま、リナちゃんはいい子にしてた? それに今日もありがとうねアルフェイちゃん、それにミズキちゃんもね」


 女性が依頼書にサインし、二人を労えば間もなくお別れの時間となる。

 そして玄関で見送られる中でアルフェイの手がリナに握られていた。


「ま、また来てくれる?」

「うん! また来るよ!」

「約束する?」

「する!」


 心配そうにするリナにアルフェイは満面の笑顔で答えた。

 安心したのかリナは握っていた手を放し、ミズキたちに手を振って見送る。

 そして。


「あたち、負けないからああああ!」


 リナのそんな声でミズキはがっくりとする。


「負けないってなにに?」


 歩きながらもアルフェイはわからないといったふうに尋ねていた。


「リナちゃんにも譲れないものがあるってことだよ……」

「ふ~ん」


 遠い目をしたミズキが答えるもアルフェイの返事はそっけなかった。

 ミズキは一人脱力し、今後もこのようなことがあるのだろうかとげんなりしていた。


   *


 リナのお守りを終えたミズキたちは手紙の配達を再開し、ポータルを駆使して依頼を続けていた。


「次はこっちー」


 そうして最後の配達先に手紙を届け終わり、次は上層部へと向かっていた。

 そこは木々が生い茂り並木道が続く、かなり大きな公園だった。


 今回はこの巨大公園の落ち葉を回収するのがアルフェイの受けた依頼だ。

 この依頼は回収した落ち葉の量によって報酬が変わり、一定量を超えればいつでも依頼を達成することができる。


「今日もおそうじ!」

「わかりました、どんどん掃除しちゃいましょう!」


 専用の袋を腰にさげるアルフェイが、やる気十分というようにホウキやちりとりを掲げていた。

 その横ではミズキがアルフェイと同じように熊手のようなものを掲げている。

 早速二人は道に広がる落ち葉を片付け始めた。


「これはどれくらい集めるんです?」

「うんとね、結構お金もらえるからたくさん集めたいな」

「わかりました、とにかく集めまくりましょう!」


 この落ち葉集めは一見地味な作業ではあるが、『森の都』全体では重要な依頼のひとつだ。

 もし掃除が滞れば落ち葉が風で舞い上がり、降り積もった落ち葉で都市の排水溝や送風口、それらが詰まってしまい大変なことになるからだ。


 ここのほかにも木がある場所はあるものの、この公園はそのなかでもとりわけ大きく重点的に落ち葉が回収されていた。

 そしてその分報酬も高いといった具合だ。

 そのため、ミズキたちの周りにも落ち葉を回収している者の姿が数多く見られる。


 そしてそんなことなどまるで知らないミズキたちであったが、順調に落ち葉を集めアルフェイが持つ専用の袋の中へとどんどん詰めていった。


「すごい! もうこんなに集まったよ!」

「いつもは時間が掛かっちゃうんです?」

「うん、ひとりだとすごく時間かかるよ」


 アルフェイの持つ袋の容量はもうすぐ満杯になりそうなほどに膨らんでいた。

 この袋は魔法箱ファリスと同じように見た目と違ってかなりの容量があるものの、ミズキが落ち葉のたまり場を見つけそれらをまとめて詰め込んだ結果だった。


「これだけあればだいじょうぶ!」


 詰め所へと向かい、係りの者に袋を渡せば依頼書に完了のサインがされた。

 紙には集めた落ち葉に応じた金額も記入されている。


「よし、これでいいぞ。しっかし今日はたくさん集めたなぁ!」

「うん! ミズキが手伝ってくれたから!」

「そうかそうか。どれ、今日も労いの品を渡そうかね!」


 そう言って渡されたものはラーブルのジュースだった。

 ラーブルはこの公園で栽培されているもので、多く落ち葉を拾ってきた者に提供されるおまけの品だ。

 ラーブルの色は赤く、透き通るような甘さと香りが売りの果実だ。

 依頼を受けた者が折角だからと規定量よりも多く集めさせる効果があった。

 そのラーブルジュースをミズキにも手渡してくれた。


「お前さんもおつかれな!」

「いいんですか? ボクは依頼を受けてないですよ?」

「こまけぇこと気にすんな! 働いたもんに配ってるからいいんだよ! ほら、受け取れ」

「あ、ありがとうございます」


 二人は備え付けの席へと座り飲み始めた。


「あ、美味しいですね?」

「うん、おいしい!」


 ミズキが率直な感想を漏らせばアルフェイも満面の笑顔で答えた。

 口にしたラーブルジュースはシトラスとミントを混ぜたような、スーッとする不思議な味だ。


「落ち葉拾いはこれで終わりなんですよね?」

「うん、次は麦集めだね」

「麦集め?」

「うん、『麦の生る木(ヨルゾ・ラディリコー)』っていう木から麦を集めてね、それを粉にするの」

「そ、そんな木があるんですね……」


 ミズキの知る麦はイネ科の植物だったが、アルフェイの口ぶりからは木になった果物のように聞こえる。

 果たしてそんな木があるのだろうか。

 あったとしたらどんな見た目をしているのか気になっていた。


 しかしそれとは別に嫌な予感もしていた。

 箱庭ルヴアでの木に関する記憶は酷いものばかりだからだ。

 拘束され、死ぬまで生命力を吸い続けられた木には心を折られ、爆音を撒き散らす『鐘の鳴る木(オアル・カエリコー)』には頭が割れるような思いをしたからだ。


「麦の木は地下にあるからポータルを使うよ」

「へ? 地下にあるんですか?」

「うん、地下の街の外にある洞窟にね、あるんだよ」


 驚き固まるミズキの手を引きアルフェイはポータルを潜っていった。


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