12話 倒せる魔物を求めて
「ジャラックさああん!」
勢いそのままミズキが泣きついていた。
「ん!? ああ、ミズキでしたか」
衝撃にジャラックが振り向き、腰の辺りに抱きつくミズキを見て得心した。
「教えてほしいことがあるんです。今、大丈夫ですか?」
「構いませんよ。食料や消耗品を買い込んでいたところですから」
「ありがとうございますジャラックさん!」
ニコニコせずにはいられないのか笑顔でお礼を言う。しかし、すぐにしゅんとしてしまい悲しそうに話し始めた。
「実はリティス様に武器を作ってもらって初めて戦ったのですけど、負けちゃって……弱い魔物から戦おうと思ったんですけど全然わからなくて、ジャラックさんなら何か知っているかなと思ったんです」
「そうでしたか。それにしても弱い魔物ですか……ミズキは戦った経験はないのですよね?」
ミズキを降ろすと自身もしゃがみ問いかける。
「はい。さっきの一回だけです。それもこんなですけど」
ミズキが腕を広げ、いまだに腹部に穴が開いている服を見せた。無残な見た目から先ほどの戦闘の激しさをうかがわせる。
「大分手ひどくやられてしまいましたね。どんな魔物だったのですか?」
「茶色っぽくて鎌がありました」
「うーん、ちょっとわかりませんねぇ」
あごに手をあて考えるが思いつくものはないようだった。
「とりあえずできるだけ弱い魔物を見に行ってみますか?」
「いいのですか?」
ジャラックの提案に、ミズキは申し訳なくしながらもどことなく嬉しそうであった。
「それほど時間も掛からないでしょうし構いませんよ」
「ありがとうございますジャラックさん!」
ミズキがその嬉しさのままにジャラックへ飛びついた。
そして二人はポータルを使い、『森の都』周辺にある森の中へと来ていた。そこはぽっかりと開けた、大きく陥没した土地だった。
背の高い草が生い茂り、足元がぬかるむ湿地になっている。大きな穴のような空間を横に貫くようにして、端と端をつなぐ木製の橋がかけられている。
橋の高さは相当に高く、今のミズキの位置からは見上げなければ上部が見えないほどだ。
「ここは『泣丸鼠湖』と呼ばれる場所ですね。そういえばミズキは何の武器を使うのですか?」
「ボクはこの長柄戦斧っていうのを使います」
ランドセル型魔法箱からばとるん一号を取り出すが、まだ修復が終わっておらず柄だけだった。
「あ、壊れていたのを忘れてました……」
「棒、ですねぇ。あまりいいものではありませんし、余りものですが使いますか?」
ジャラックが袖に仕込まれた魔法箱から取り出したのは一本の剣だった。長さはミズキの身長近くあり、刀身に少し青みがある綺麗な片手剣だ。
「はい、お願いします!」
ミズキは目を輝かせて受け取った。
「軽く振ってみてください」
剣を両手で構え素振りをすれば青い軌跡が描かれる。
「問題はなさそうですね。では行きましょうか」
ジャラックが新たに取り出した片手剣で草を刈りながら、目的の魔物を探し歩いてしばらくのこと。
「来ましたね。ミズキは私の後ろに」
「え? わ、わかりました」
何者かが草をかき分けながら近づく音が聞こえた。次第に音が大きくなるとその元凶のヌシが現れた。
「ぎぁああああああ! 緑です! 緑のあいつが出ましたああああ!」
それは以前ミズキが追いかけられた、あの緑色のオオサンショウオのような魔物だった。こちらを視認するや否や、大口を開け襲いかかってくる。
ジャラックはミズキを横に突き飛ばし、すれ違いざまに一閃。足を切られ体制を崩したところに、剣で頭を突き刺した。
動かなくなった体はいくつかの素材を残すと、光の粒子となり霧散していく。
「今のは『緑毒山椒魚』です。緑色の魔物は大体毒を持っているので気をつけてくださいね。……ミズキ?」
振り向くと、ミズキは上半身を泥に埋まらせ足をバタつかせていた。
「ミ、ミズキ!? 大丈夫ですか?」
「えほっ! えほっ! うぇぇ……」
両足を掴まれ引き上げられたミズキは口から多量の泥を吐き出した。
「死ぬかと思いました……」
真っ白な服は腹部から上が見事に泥まみれとなっていた。
「すみません、私が突き飛ばしたばかりに」
「いえ、ジャラックさんの所為じゃないですよ」
「魔法が使えないのでこれくらいしかできませんが……」
ジャラックは魔法箱から皮袋を取り出し、中に入っていた水をミズキへとかける。
何回か流すと泥は落ちたが、全体的に茶色くなってしまった。
「ありがとうございます。さっきの魔物が何か落としてますよね?」
ミズキが振り返り、気になったのか地面に転がる素材を見ている。
「ああ、『緑毒山椒魚』の素材ですね。持ち帰っても売れないので放置していました」
地面に落ちているのは緑色の皮だったり粘液だったりするが、ジャラックの言うとおり需要の少ない素材であった。
理由は素材そのものに毒性があり、希少価値が低く供給が多すぎるためだ。
「そうだったんですね。良かったらボクがもらってもいいですか?」
「構いませんよ」
ミズキが『緑毒山椒魚』の素材をカバンに詰め込み終えると、気を取り直して目的の魔物探しを再開する。
「確かこの辺りにも居たはずですが……早速居ましたね」
ジャラックが示す先に居たのは薄い黄色の丸い毛皮に。尻尾の生えた魔物だった。