11話 再会への道筋
「ぎゃあああああ! お、お腹ッ……! お腹が!?」
ミズキが腹部を覗き込むと、白い服に大穴がいくつも開いていた。穴の縁は光り修復が進んでいるようだ。
近くに落ちていたばとるん一号を拾えば、斧部が丸々なくなり柄だけとなっていた。
修復されるまで武器として使えそうになく、ひとまずカバンの中へ収納する。
「あら、早かったのね」
ベッドに横になり本を読んでいたリティスが起き上がるところだった。
「うぅ、負けちゃいました……」
「手ひどくやられちゃったみたいね。もう少し弱いのからやってみたら?」
「弱いのですか? 居るのかな……」
ミズキが見た魔物は先ほどの茶色い甲殻獣と、濃緑の巨大オオサンショウオ。それとおぞましい記憶が蘇るツタの木である。
ほかにどんなものが居るかわからないのでは判断のしようがなかった。
「う~ん、ジャラックさんかアラムさんなら知ってるかな? 少し前に知り合った人なんですけど」
ミズキが思い当たるのはこの二人だった。
「あら、もうそんな人が居るのね。いいと思うわ。それに無理して一人で戦うこともないのだし、一緒に戦えるといいのだけれど」
「それもそうですね! 早速聞きにいってみます!」
「いってらっしゃい。応援してるわよ~」
鏡の中へとミズキが走っていった。
*
ミズキが『森の都』に向かっていたころ、風の知らせ通信によって先ほどの槍使いが仲間と連絡を取り合っていた。
「『花の迷宮』に行ったんだが入って早々に『赤銅の殻鎌』と会ったわ」
「それは災難だったね」
「徘徊するうえに強すぎるよね~」
「聞いて驚け、運よく勝てたぞ!」
「え、倒せたの!?」
「いやいや、まともに攻撃通らないでしょ?」
「俺も会った時は終わったと思ったが、なんか助っ人が来てくれた」
「助っ人と協力して倒したの?」
「どんな子だったの~?」
「真っ白な子だったぞ。茶色の髪で背が小さいけど斧振り回してた」
「知らない子かな」
「聞いたことないな~」
「最初の一撃で大鎌を斬ってたぞ。そのあとも大鎌と打ち合って粉砕してた」
「と、とんでもない威力だね」
「並の武器なら弾かれるし、下手すると大鎌に切断されるはずなんだけどね~」
「けどそのあと針に貫かれて転送されちまった。だが敵の体制も崩れたから槍を切断面に突き込んだが、そこからは泥仕合だったな」
「それにしてもよく勝てたね」
「ほんとそうだよね~」
「一番危ない大鎌を無力化してくれたのがでかいな。あの子の武器も壊れちまってたから、今回の稼ぎで補填してあげたいんだが」
「共闘登録はしてないの?」
「する暇がなかった」
「あらら、でももし結盟に入ってなかったら勧誘したいくらいだね」
「どうだろうな、有名どころには居ないはずだが。ともあれ助かったお礼もしたいし、探せるとも思えないが居たら教えてくれ」
「わかったよ」
「風の導き石使っても曖昧でぼんやりしてるんだよな~」
*
ミズキは鏡を通り、再び『森の都』へと足を踏み入れていた。周囲を見渡せば相も変わらず建物が連なる迷宮めいた構造だ。
それらに紫光が暖かく降りそそぎ、階下へ連なる構造がどこまでも続いている。
人の往来も多く、辺りで客引きや談笑する声が聞こえていた。行き交う人々の姿はやはり多種多様だ。
早速ランドセル型魔法箱から風の導き石を取り出し、ジャラックに会わせてほしいと願えば一陣の風が吹いた。
石は違うことなく望む人物までの道筋を知らせていく。景色が流れ、ひとつの雑貨屋らしき風景が思い浮かんだ。
ジャラックの居る場所がわかりミズキは向かい始める。通路を走り、階段を降りれば、今度は梯子を登っていく。
調子良く進んでいたがミズキの前に難所が立ちはだかった。
建物の壁面に、刺さるようにしてせり出した板が階段状となった場所だ。眼下には別の通路があり、下にはさらに別の通路と建物の屋根が見えた。
それらがミズキの居る場所が高所であることを強く主張している。
ただの階段ならば問題はない。しかしながら、その板段にはおよそ手すりと呼べるものが一切ないのだ。
「こ、ここを通るんですか……」
風の導き石は、ミズキが思い浮かべる最短の道筋を正しく示していた。
短い足を持ち上げ、おそるおそる一つ目の板を踏めば木のしなる感触が足の裏から伝わってくる。その震えるような恐怖に息を呑んだ。
鼓動が音がうるさく、その振動によってバランスを崩してしまうかのような錯覚さえするが、意を決してもう片方の足も踏みだした。
一歩間違えれば言葉通どおりの真っ逆さまだ。片足を膝の高さほどまで上げ、次の板へと慎重に乗せていく。
繰り返すこと十回ほど、ミズキは無事に板段を渡りきった。
「はぁぁ、なんとかなりました……」
降り立った建物脇の通路を歩いていき、昇降機に乗って下へと向かった。
昇降機に付けられた計器がある一点で止まると昇降機もまた停止する。降りた先は『森の都』でも中層と呼ばれる階層だった。
日の光が届かないほどに上へと続く構造物があるが、周囲は以外にも明るい。その理由はところどころに設置された水晶だ。
紫色と橙色の水晶はそれぞれ光を発し、それらが往来を照らす明かりとなっていた。
狭い通路で人を避けつつ進み、曲がりながら下る朱色の階段を降りれば目的地は近い。
角を曲がった先に紳士服にカボチャの乗った姿が見え、ミズキが駆けだした。