105話 白に紛れ襲い来る
クーの放った〈炎槍〉は『白玉雪』に直撃し、凄まじいほどの爆炎と熱量を撒き散らす。体の一部を吹き飛ばされた『白玉雪』が慌てふためいた。
「〈炎槍〉〈炎槍〉〈炎槍〉」
クーは容赦なく撃ち続けるも『白玉雪』はしゃがみ、のけぞり、飛び跳ねるなどのでたらめな動きで全て避けてしまった。
「チッ……!」
余程嫌いなのかクーは舌打ちし、振り向いたミズキが驚愕に固まっていた。
「あ! ボ、ボクも戦わないと……!」
ミズキは爆線槌を手に『白玉雪』へと肉薄し、魔力の鎖に繋がれた青い鉄球を思い切り投擲した。
しかし、弓のようにしなった『白玉雪』に避けられてしまう。
「うそぉ!?」
『白玉雪』がストーブを振り回せば凍るような突風が吹き荒れた。
凄まじい風によって目を開けれらない中、目の前には『白玉雪』のフォークが迫っていた。
「あう!?」
フォークで殴られたミズキは転がっていく。
追撃に迫う『白玉雪』の前を〈鎖爆〉が通り過ぎ妨害した。
「大丈夫ミズキ?」
駆け寄っていたファティマが回復魔法を掛けていた。そしてミズキたちと『白玉雪』の間にクーが立ち塞がる。
「すみません……」
「気にしない」
牽制のために〈炎槍〉を乱れ撃つも、そのほとんどは避けられてしまう。
直撃したものもあるが、『白玉雪』が自身の体に冷火ストーブをかざすと、みるみるうちに元通りとなっていった。
「〈炎嵐〉」
『白玉雪』が着地した瞬間を狙い、クーが渦巻く炎で包み込んだ。そこへ容赦なく放たれるいくつもの〈炎槍〉が爆発音を轟かせる。
「うりゃああ!」
すでに前へと出ていたミズキも爆線槌を炎の渦の中へと叩き落とす。炎が収まると地面には水たまりができていた。
倒したのだろうかと思った瞬間、『白玉雪』が後ろの地面を掘り起こして現れ、ファティマ目掛けてフォークを振り降ろしていた。
ファティマは弾き飛ばされクーが即座に〈炎槍〉を放つが、ギリギリのところを踏み込むようにして避けられてしまう。
ストーブがクーに向けて振り下ろされた。灯杖を割り込ませるも重い音が響き、クーは地面に叩きつけられてしまう。
組み伏せられたクーに『白玉雪』の顔が威圧的に迫る。しかし、クーは口角を吊り上げた。
「〈炎爆〉」
雪で出来た体に腕を突き込み内部から爆散させた。大きく損壊した『白玉雪』が距離を開くがクーはそれを逃がさない。
鎖のように連続した爆発が捕らえその身をさらに削った。
「クーも大丈夫?」
駆け寄ったファティマがクーに回復魔法を掛けており、その向こうには追いかけるミズキが線爆槌を振り回す姿があった。
「全力で撃てば良かった」
「もうちょっと労わろうよ……?」
回復魔法があるのなら、相打ち覚悟で高威力の〈炎爆〉を放てば良かったと。そんなことを言うクーにファティマは呆れてしまう。
「使いにくいッ……!」
一方でミズキは線爆槌の使いにくさに愚痴を零していた。
魔力の鎖の長さを自由に変えられるのだが、こちらと相手が激しく動き回っていては、最適な長さにすることなどまずできない。
主な使い方は鉄球部分を投擲するくらいだった。
「こんのぉ!」
振り回し投擲するもひょいひょい避けられてしまう。そして、『白玉雪』が飛び跳ね着地したときには両腕を広げポーズを取っていた。
「なんかすっごく腹たつよ!?」
ポーズを取る横顔にクーの放った〈炎槍〉が直撃した。
「同感」
『白玉雪』がごろごろ転がっていき、そのまま流れるように立ち上がると手に持つストーブを掲げた。
ストーブが開くと白く眩しい光と共に濃密な霧が立ち込める。
「うぇぇ!?」
視界が濃密な白に染まり何も見えなくなってしまった。魔力を纏った霧だからか、ミズキも見通すことができなくなる。
段々と霧が晴れてくると、目の前に見えた影にミズキが線爆槌を振り下ろす。
重い衝撃と共に影が叩き潰された。
霧が完全に晴れると潰れた『白玉雪』の姿があった。しかし喜んだのもつかの間。周囲には埋め尽くさんばかりの『白玉雪』の姿があった。
「えええええ!?」
「偽者」
クーが短く指摘したとおり、無数にある雪ダルマは動いていなかった。
「これじゃわかんないよ!」
そう言うミズキの後ろにスススっと『白玉雪』が近づいていた。ミズキが振り向くとピタリと止まりその目を欺く。
ミズキが別の方向を見た瞬間に『白玉雪』がにやりと笑う。絶好の機会を逃すことなくフォークが振られミズキが吹き飛ばされる。
「いったあああい!?」
クーが〈炎槍〉を何発か放つもぴょんぴょん避けられてしまい、再びストーブが開くと辺りに白い霧が立ち込め『白玉雪』を見失う。
「また居なくなった!」
「大丈夫?」
駆けつけたファティマがミズキに回復魔法を掛けていた。
「ありがとうございますファティマさん」
「これは厄介な能力だね。クーはいつもどうやって倒してたの?」
「全部吹き飛ばした」
「なるほどね……」
しかし、ミズキたちがいるからそんなことはできないとクーは話す。
あれ、と思ったファティマが一人で来たのかと聞けば、違うとの返答が返ってきた。
「え、もしかして……」
「諸共」
敵味方関係なく吹き飛ばしたと言った。まさかの行いにファティマは呆然としてしまう。
「滅茶苦茶怒られた」
「そりゃそうだよ……」
「ミズキたちは吹き飛ばしたくない」
「それは嬉しい、のかなぁ……?」
ファティマは気づいていなかったが、結盟の者たちと再び来た場合は問答無用で吹っ飛ばすとクーは言っていた。
話している合間も霧が晴れていき、視界が雪ダルマに埋め尽くされていく。またもや背後に回りこまれたミズキが吹っ飛ばされていた。
「もおおお!」
すぐにストーブが開き、辺りは再び霧に包まれた。