101話 目的地までの道のり
翌日になってから外を確認すると吹雪は収まっていたが、雪はしんしんと降り続けていた。
「吹雪は収まってますね!」
食事を終えたミズキがテントから顔を出していた。
「調子は?」
「うん、大丈夫だよ」
「そう」
テントの中ではファティマの疲労を心配したクーが確認をしていた。しかし、問題ないとの返事が返ってくる。
「なら行く」
吹雪の収まっているうちに進めるだけ進むことにし、手早く出立の準備を整えていった。
最後にテントを魔法箱に収納すると三人は歩きだす。移動を続け、途中に遭遇した魔物はやはりクーの魔法によって一撃で倒されていた。
そして、ファティマの疲労もミズキが貸した火守と命守によって抑えられており、行程は順調と言えた。
それからいくつもの丘を越えると山岳地帯へとたどり着く。
クーに刺靴と突杖、それにロープを出すように言われ、靴を履き替え両手に突杖を持つと各々をロープで縛っていった。
その際、クーは泣く泣くミズキを手放していた。そうして凍った斜面を慎重に進んでいると、ミズキが息を切らしながらに愚痴を零していた。
「な、なんでこんな大変なところを……」
ミズキたちが歩いているところは谷部を避けた斜面だ。
「もっと……歩きやすそうな、下のほうを、進みましょうよ……」
すでにかなりの時間を歩いているからか、ミズキが息も絶え絶えにぼやいていた。
「谷は危険」
谷部には魔物が居ることも多く、交戦を避けたいとクーは説明する。
それにもうひとつ理由があった。雪崩だ。雪崩を避けるために労力を掛けてでも斜面を進んでいた。
「前に来たとき魔法撃った」
結盟の者たちと来たときに、炎や爆炎魔法を撃つと大規模な雪崩が起きたとクーは語った。
「滅茶苦茶怒られた」
それ以来、谷部は横切るだけにして可能な限り避けているとのことだった。
「楽な谷にする?」
「いえ! こっちでいいです!」
クーが首を傾げるとミズキはぶんぶん首を振っていた。
「でもかなりつらいですよね……」
「まだ続く。二日くらい」
片手で膝を突きながら呟いたファティマが、掛かる日数をクーに教えられ、その顔を余計に暗くした。
「帰る?」
「そ、素材のためですから! 頑張りましょう!」
若干期待するようなクーの目に、ミズキはなんとかやる気を出していた。
それからはひたすら歩き続ける。しかし、ちょうどいいくぼみがあったこともあり、そこでテントを張り野営することにした。
やがて夜になり、ミズキがテントの中から顔を出し外を覗いていると、遥か遠くの夜空に青白く輝く光が見えた。
星より低い位置に見える光は夜空を移動しているようで、軌跡を描きながら飛んでいるようだった。光はやがて見えなくなる。
そしてミズキがテントの中へと戻ろうとしたとき、クーに引っ張られ、中へと戻されたミズキはクーに抱き締められていた。
それから夜は明け、ミズキたちは山頂へとやってきていた。そして山を登った先に見えたのは巨大な盆地だ。
「あれが目的地」
「あ、そうなんですね」
「降りればやっと抱ける」
目の前に広がる盆地を指差したクーにミズキが答え、クーは余程我慢していたのかとにかく早く降りたい様子だった。
「結構掛かったね。『白玉雪』を探すときっていつもこんな感じなの?」
「今回は時間掛かった」
ファティマが尋ねれば、いつもはもう少しポータルから近い場所に居ると説明される。
ほかの者たちであったならば無駄足もありえ、探し回ることからもいっそう時間が掛かったことだろう。
盆地の風が止んだとき、巨大な白くて丸いものが見えた。そしてクーは自身の予想が的中したことがわかり、その口元を小さく吊り上げる。
「あれ」
指差す先には半球状の雪の塊が薄っすらと見えていた。
「あれが目的地なんですね! でもなんだろう。雪玉?」
「かまくら」
「え! かまくらだったんですか!?」
あの巨大なかまくらの中に、今回の目標である『白玉雪』が居るとクーは言う。
遭遇さえすれば、かまくらの中に居る『白玉雪』とすぐに戦うことができる。そのため人気の迷宮の主でもあった。
巨大なかまくらが迷宮かと言われれば疑問が残るかもしれないが、何はともあれ、倒せば素材が手に入るのだ。ミズキのやる気は上がってきていた。
「では早く行って倒しましょう!」
「降りてから休憩」
疲弊した状態で戦うのは好ましくないとクーに言われてしまう。
「そ、そうですね! 休息は大事です!」
ミズキが納得している横で、クーはおもむろに灯杖を取り出していた。ミズキとファティマが疑問に思うのもつかの間。
「〈鎖爆〉」
盆地へと続く斜面を、連なる爆発で次々と吹き飛ばしてしまった。
そして当然、地響きが起こる。
揺れがこちらまで伝わるほどの、凄まじい量の雪が谷間に向かって周囲の山から流れ込んでいた。
大量の雪は谷間で合流し、さらに巨大な雪崩となって怒涛の勢いで谷間を駆け下りていく。ついには盆地へと達すると雪の煙が巻き起こっていた。