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100話 テントの中での団らん


「何が居るの?」

「敵が近くに居るみたいです」

「〈炎嵐〉」


 即座に魔法が放たれ、青炎が凄まじい勢いで周囲に渦巻いた。


「あ、居なくなったみたいです……」

「これなら楽」


 敵が近くに居ることがわかれば、クーが容赦なく全周囲を焼き払う。瞬間的にだが視界が確保されたので相当な威力だ。


 クーがそれ以上何も言わなかったのでミズキはあきらめることにした。


 何回か焼き払ったあと、クーがおもむろにコンパスを取り出すと、それをじっと見て進む方向を修正した。


「それはなんですか?」

「コンパス」


 大きな魔力の流れを感知して一定の方向を向き続ける魔道具だ。視界の悪い中を進むには、これが無ければ困難を極めることとなる。


 『大雪原』での探索では必須と言われるもののひとつだ。


「結構高い」


 値段も相当なようで、いかにして早く帰ろうかという、クーの執念が伝わってくるかのようだった。


「でもそれなら迷うことなくたどりつけそうだね」

「ですね! 早く迷宮の主を倒してこんな寒いところから帰りましょう!」


 ファティマがうなずけば、ミズキもクーに抱かれながらフードの耳をぴこぴこ動かしていた。


 しかし、積もる雪をかき分けながら進んでいると夜になってしまい、テントを取り出し休息を取ることにした。


「なかなかたどり着かないんですね、あとどれくらいなんでしょう?」

「まだ掛かる」

「う~、早く帰れそうだと思ったのに……」


 ミズキの思惑とは違い、『白玉雪』の出現予想地点まではかなり遠いらしく、まだまだ掛かりそうだった。


「ここ自体迷宮のようなもの」


 広大な極寒の地である『大雪原』そのものが、迷宮のようなものだとクーは話す。


 低温で体力を奪われるうえ、視界の悪さから奇襲を注意しなければならない。それゆえ、じわじわと疲れを蓄積させられるのだ。


 現にファティマはかなり疲れた様子で、その顔色は良くなかった。いくらクーの〈炎の加護〉があるとはいえ、消耗も完全にはなくならない。


 そのための火守や命守による寒さの軽減と体力回復だった。


 ずっと抱えられているものの、それらのおかげでミズキの消耗は最小限に抑えられていた。


「流石にちょっと疲れちゃったな」

「なら休む」


 無理をして魔物に遅れを取っていては本末転倒になってしまう。


 吹雪の中での戦闘を練習する予定だったが、ミズキが魔物の存在を探知してしまうので、その意味は無くなってしまっていた。


 そのことも踏まえ十全に休息を取ることにする。


「ごめんね」

「気にしない」


 クーはミズキが居るからと、ぎゅっと抱き締めていた。三人の中ではファティマの装備が一番心もとなく、そのために体力の消耗が激しいようだった。


「回復魔法では疲労は取れないんですか?」

「私は怪我の治癒とかに特化しちゃってるからそういうのは苦手なんだよね」

「ならボクの火守と命守を使いますか?」

「いいの?」

「どうせクーさんに担がれてしまい歩きませんから……」


 ファティマは結構な値段のする装備品を前に、はたして借りていいのだろうかと考え込んだ末に。


「なら借りようかな」

「わかりました!」


 ファティマはミズキから命守を受け取ると、その赤い兎の命守を前髪へと付けた。


 ペールブルーの髪と全体的に白いファティマでは、赤色の命守はかなり目立っている。


「どうかな?」

「似合ってますよ!」

「ふふ、ありがとう」


 三人は食事を取ったあと、暖を取るためにまた一緒になって毛布にくるまっていた。


 そして、テントの外は相変わらずの吹雪であったが、三人が寄り添う毛布の中は暖かく、ミズキはすでに寝息を立ててしまっていた。


「もう寝ちゃったみたい」


 ミズキの無垢むくな寝顔にファティマは微笑む。


「私も抱きたいからちょっと貸してよ」

「やだ」


 クーはミズキを渡すまいと、抱く力を強めるとミズキは苦しそうにうめいていた。


「ちょっとくらいいでしょ」

「渡さない」


 クーはじっとりした目でファティマをにらみつけていた。


 しかし、ファティマが動じることはなく何か思いついたようで、にんまり笑うとクーが少し後ずさった。


「ならこうかな」


 ファティマがクーとミズキを同時に抱き締めた。


「これならいいでしょ?」

「…………」


 なんとなく不服そうなクーは無言のままそっぽを向いていた。


 やがて夜はふけていく。外は寒いが、テントの中ではなんとも微笑ましいやり取りが行われ、もうしばらくすれば寝息が聞こえるだけとなった。


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