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管理人の名前
「なあ、母ちゃん」
どこか物憂げに、少年は母を呼ぶ。
「なんだい」
ぞんざいに返す母もどこか、気怠げな空気をまとっている。
「月下冰人ってさ、氷の下にいるだけの偏屈なじいさんなんだろ? でも別に縁組を決めてる訳じゃねーよな? なんで仲人の代名詞みたいに言われてるんだ?」
身も蓋もない、とはまさにこのことか。
「さて、ねぇ。ただ、誰と誰が結ばれるかの台帳を管理してるじいさまって考えれば、仲人と言われてもまあそうかなと思えるんじゃないかね」
考え込むような顔は幼いながらも非常に整っていて、怜悧ささえ感じさせる。
「それならさぁ、むしろ赤縄管理人とか」
そんな情緒の欠片もないような名前はごめんだ、と母は心の中で叫んだが、少年に直にそれをいう気力はなかった。更に脱力する回答が返ってくる気がしたので。