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辻裏の少年  作者: 篁頼征
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探縁記

「当たるよー!」

 占いという言葉が持つ印象から、やけに離れた明るい声がして、男はふと足を止めた。近頃、娘が幼い頃に決めておいた縁組が壊れたばかりで、今後どうすれば将来が開けるのか、全く判らない。格上で裕福な家として嫁に出すのにも安心な家だったが、これでは婚姻など結ばせるべきではなかったと後悔しても遅すぎる。かと言って瑕疵持ちとはいえど、一人の娘として捉えれば、捨てたものではない筈だ。

 しかし事実上、寡婦となってしまった今、娘はまさに適齢期を迎えている。花盛りと言っても良いだろうけれど、その時間は然程長く続くものでもない。可能であれば早急に、出来れば即座に、新たな良縁をと思うが、思うように事が運べば苦労などある筈もない。藁にも縋る思いというのはこうした時の感情なのかと思い至りつつも、ふと、少年の美貌に目が行った。

 そういえば、娘はとんでもない美少年に縁組が壊れるだろうと予言されたと言っていた。占いの金をぼったくられたのかと問いただせば、金は払っていないという。娘曰くの「とんでもない美少年」というのが世にどれほど居るのかは判らないが、美貌で辻占をするこの少年が娘の言っていた人物であることは間違いなさそうに思えた。それなら、もしかしたら本当に当たるのかも知れない。娘の破談を当てたのと同様に。

「いくらだ?」

 にっこりと微笑んで指を何本か立てる。値踏みされているような気がしないでもないが、試しに、というくらいの気持ちだったので、あまり高くはない値段設定にほっとしつつ、少年の前に置かれた椅子に腰かける。

「おじさん、いいところに来たね。近いうちにお酒の席でいい話に出会えるよ。問題がまるでない訳じゃないけど、おじさんが見て悪いと思えるところがなかったら、その話に乗ってみると縁が開けるよ」

 特にこちらから占いの内容を指定した訳でもないのに、少年はそう告げる。まるで、問われる内容を予め判っていたようだ。下手をすれば娘の縁談が壊れる予言をしやがって、と難癖をつけていたかも知れないが、これは確かに娘の言う通り、本物の辻占なのかも知れない。

「そうかい。ありがとよ」

 男はそう言って椅子から立ち上がり支払を済ませようとしたのだが。掻き消えたように少年の姿は見られなくなっていた。

「?!」

 先程まで確かに目の前に居た筈なのに。狐につままれたような心地で、男は頬を何度か抓ってみたが、少年はどこにもいない。しかしこれでは困った。金を払うことが出来ないではないか。ただで占って貰うのはありがたいかも知れないが、少年のように確実に力を持つような占者の恨みを買うことだけは遠慮したい。勿論こちらは払うつもりがあったし、突然消えたのはあちらなのだから、非を咎められることはないだろうと思うが、少々不気味なものを感じてしまったことも否めない。男は暫し迷い、そして。忘れることにしたのだった。金を払わなかった、という事実を。

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