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夜の帳の裏側で
「あ、ねえちゃん、迷子になってやがる」
少し楽しげな響きがあった。
「どうしたんだい」
楽しそうな様子なら特に大きな問題は起こらないのだろうと、母はおっとりと息子に訊ねてみる。
「ねえちゃんが迷子になって困ってる。同じところぐるぐる回ってんだけど、気付いてないみたいだ。助けに行くべきかなぁ?」
無言で頭を小突いたのは、少年の声に面白がる気配が漂っているからだ。普段女性には優しい子なのに、時折困っている女性を見ては楽しそうな顔を浮かべる様を見て、育て方を間違えたのかと真剣に悩むことがある。
「いや、だって、あの兄ちゃんが近くを歩いてるんだよ。それなら、俺の出番なんざねーよ。寧ろ邪魔にされちまうもん」
禍福は糾える縄のごとし、とは言うが、本当の縁というものはそうしたものなのかもしれない、と母はこっそり思ったのだった。自分のことは棚にさくっと持ち上げて。