別れの裏側
「あー」
少し残念そうな声がのんびりと、しかしはっきりと呟いた。
「どうしたんだい」
「ん、月のねえちゃんと、ほら」
少年が少し前に辻占をしていて遭遇した少女のことだろう。
「ああ、そういえば既婚者だったね。娘さんが」
「そう。まあ祝言を確か来年か再来年に親御さんが予定してたと思うけどさ」
どことなく、残念そうなその顔はあまり子供らしくない。
「でも違うんだろ?」
破談になるという占いをしていたのだ。今後何かがあるのだろう。
「そうだけどさ。けじめをつけるというのか、あのにいちゃんそういうところ、結構しっかりしてる。むしろねえちゃん連れてどっか逃げちまえばいいのにって思うんだけどさ」
のんびりした口調だが言っていることはそれなりに過激である。まあ、駆け落ちなど珍しくもないけれど。
「親の決めた縁組に逆らうのは難しいだろうさ」
まわり全てが当事者同士で決めて婚姻を結ぶようならともかく、親が決めるのが普通という環境では、逆らうことは難しい。
「そういや、どこの風習だったか忘れたけどさ。婿の代わりに親族が嫁を見に行って、気に入ったら釵を挿す、ってあったよな、母ちゃん?」
与えていたのはまさに釵だったと言いたいらしい。
「当人同士で、ってのはなかなかねぇ」
まあ、古来から結婚前に色々やらかしてしまう物語などもあるから、皆無とは言い切れないが。
「でもさー、母ちゃんは父ちゃんと決めたんだろ? 親には言われたのかも知れないけどさぁ」
父親に言われていた当の相手に外出先で遭遇するとは思わなかったが。
「……まあ、ね。たまたま、話が合ったんだよ」
そればかりでもないが、それ以上のことをこの敏い息子に言えば、言っていない情報を更に察知されそうだと控えめに答えてみる。
「母ちゃんの父ちゃんも大概だと思うけど」
言わぬ前から、既に情報をほじくり返された気がしたが、もういつものことであるような気がするので、母はそっと口を噤むことにした。いつも負け越しているので。