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張の店の裏側
「あ」
何かに気付いたように漏れた声に、無造作に訊ねてみる。
「どうしたんだい?」
少し低めの、どことなく艶のある声音である。
「このあいだの、月のねえちゃんが」
思い出したように頷く母に、そう言いかける。
「支天の月かい」
首を縦にはっきりと振って。
「出会った。今、ものすごく『鼎』が鳴り響いてる。……やっぱり、そうだったんだ」
『鼎』の名を持つかも知れない。少年はあの時、そう母に告げていた。
「…………それ程かい」
しかし、これほど少年が驚きと共に話すことは滅多にない。
「そうだね。性格も相性も合うみたいだ。それに鼎の音が……まるで、楽でも奏でているかのように聴こえてくる。こんなの、初めてだ」
深い親和性と調和が取れる程、『鼎』は楽のような音色を響かせる。その音を遠くに居ても聴けるのはこの世に『耳』を持つ少年ただひとりだけれども。
許のお嬢さんがお店で話している頃の、辻占の美少年とその母。