兆候
「鼎が、鳴ってる。……ねぇちゃんに、変事が起きた」
無表情のまま呟く少年に、母は片眉を上げる。あまり良い兆候のようではなさそうだ。
「変事……?」
頷いて、少し眉根を寄せる。
「多分、子を授かったんだと思う。初子は男かな」
普通一般にはおめでたというし、慶事と言えるだろうけれど、少年の表情はそう言ってはいない。けれど、それでも子を授かったのは、おめでたいことの筈だ。生まれていけない子など、この世に居ない。
「表情を繕うのは難しいかも知れないけれど、叶うなら、笑顔でおめでとうって言っておやりよ」
自分が子を授かった時には、誰にもそう言っては貰えなかったな、と少し胸の痛みを覚えながらそう少年に言うと、ばつが悪そうな顔でこちらを見る。詫びの言葉などは要らないのだ。ただ、授かったことに寿ぎをと思う。
「……ねぇちゃんに、祝いの品持って行っていいかな?」
暫く悩んだ挙句の言葉は、いつもの彼らしいやさしさがあった。
「品物よりもまず祝いの言葉の方がいいだろうさ。それに、品は生まれてからの方がいい」
現実を見据えた母の言葉に、少年はほっとしたように微笑んだ。