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少年は未来を睨む
「ねぇちゃん、流石だなぁ」
少年がそう呟く。母は思わず振り返ってみるが、筮竹を弄っている様子はない。
「どうしたんだい」
するとこちらに向き直って。
「にいちゃんの躾をきっちりしてた。怒鳴るでも怒るでもなく、淡々と。それも、諭すようにだから、あれじゃにいちゃんも逆らえないだろうなぁ」
父親のいうままに嫁いだ娘としては、嫁いだ先の当主に従うのが自然だ。つまりこの場合は夫だ。その夫に諭すような苦情を言うというのは、なかなかに出来ることではないだろう。
『皇家での朝のお支度がどのようなものかは判りかねますが、下級官吏や一般庶民は朝から寝台に居座るということはしないものです』というのが新妻が夫に告げた内容であるけれど、新婚な夫としては昨夜得たばかりの花嫁と朝から色々仲良くしたかったのだろう。
「まああのねぇちゃんの尻になら敷かれたい男も多いだろうけど……って、いってえ!」
母の拳が少年の頭に激突していた。多分少年の将来が不安になったに違いない。