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TUNIC 企画参加作品

影の末路

檸檬絵郎様主催『「アートの借景」企画』参加作品です。

 俯瞰する人々はみな高貴な衣装に身を包み様々な姿勢でそれぞれ凝固かためていた。

 半分ほど描かせて、上半身の途中からギザギザと筆の走らされたまま寸断された隣合う体躯、相貌のみをしっかりと描かせては、背丈の分だけわずかに上下のポジションで、ちょうど、鏡台の写した像の案配と同じく、画布の中央あたりへしゃかたどって、互いの頭頂部を境界に、奥ゆきを飲みこんだ空間とを断ち切ってい、モデルを続ける実像と、鏡面世界へ佇む虚像との中心へと、幽霊のごとく浮んでいた。

 幽霊に……やがては人物へと……生命を吹き込むはずである画家自体もまた、生命力を滑り落としてしまったように絵筆とパレットを携えたまま佇立に動かすことはなくて。

 部屋の中央、奔放に波打つ金は繊細に、柔かなうねの幾重にも織られ絡ませあった、複雑な瀑布の造形の。気品に満ちたポーズで小首を傾げ、崇高なる血液の凝縮の向こうの輝きと、御心の注がれし、天つなぐ地上のきざはしのようで。


 室内灯シャンデリアの除かれた天井には、どんよりと重たげな陰影はびこって。華やかな群像とは裏腹な不気味さで、ずうん、と漂うその影は、対比せし光輝(コントラスト)をますます際立たせ、油絵の具に成し遂げられた空間世界を見下ろして、突き刺さる金色こんじきの棘にいたぶられつつも、じんわり、身を寄せては、重液の意識をずしり、ずしりと向けていくので…………



 にゅるり……にゅるり、にゅるり…………。

 白みがかった艶消しの銀。金属へと穿たれた無数の孔、アメフラシの落とすように垂らされていく細糸ほそいとの群れ、極彩色というよりも、混じりすぎるがゆえの渋い……濁色だくしょくとて、幾重ものいろどりの、絶え間なく降りたつ様。

 下方に据えた巨大なタンクへ沈みゆく。と、瞬間的に混濁はほどけておびただしい色彩のそれぞれに独立して。

 透明な液(たた)容器タンクもまた透明で、もくもくと太っては色とりどりの雲の、蠢き広がりゆく様。

 降りて、中ほどの層、雲の解体は色の筋。絡め合い逃れあって泳ぐ階調グラデーション織布しょくふとなって。濃淡明暗のうたんめいあんの猛烈な交叉こうさ幻覚めいて(サイケデリックに)脳髄、ずけずけと侵入するほどで。


 沈殿する蟲。

 底に届けばすでにさながら甲虫のごとく、ずんぐりした丈夫な体躯を構築させ、腹の側には鞭毛べんもう見紛みまごうほどにビッシリと、あし。のっぺりとした底面のわずかなひだを掴んで、抵抗する、分厚くそびえ立つ透明な壁面へと向かって。同心円上に居並んで、より大きな波紋へ届かんと、つるりと冷笑する光沢を踏みしめながら、徐々に中央の引力よりいざなわれて、やがて甲虫は一色、一色と、個々体の踏ん張った肢、空しくもがれ、かぎを塞いだまま置き去りに……体躯は丸ごと引きずられ、やがて巨大な捌口はけぐちへ……さして間を置かず肢もまた……中央に飲まれゆくはいずれ隈なき運命とて。


「何の目的があるのです?」

 焦点を戻せばやや湾曲したタンクのつらに白衣が写りこむ。

「もう、すでにお分かりのことかと考えるのですねぇ~」

 振り返れば『白衣』がにやにや、私を睨みつけるので。

「はっ? すでには分からないから訊いているんでしょうが?」

 強めの語気で。両の手、白衣の胸のステッチ辺りを内から掴み、蝶のようにひらひらとはためかせ……涼んでいるつもりなのか。

「蟲でしょうかねー? それとも別の何かです?」

「蟲でしょうよ、それくらい分かります」

 へはははは。と『白衣』が笑う。

「あなたにはそう見えてましたか」

 私は剣幕で牽制し、

「じゃあ、何です」

 苛立ちを顕わに。

 ふむふむ興味深い。ぶつぶつと呟いては、

「そもそもが生物でしょうか? 違う何物かもしれないですかねえ」

「また質問か!」

 完全に! 殺意とすら呼べるほどの。

「まあまあおこりなさんな」

「あんたのせいだぞ」

「それは認めてますとも」

 ふへへへ、と笑う、目は笑っていない。

「始終降り立つ流動体はなんと心得ましょう?」

 質問返しが! 云うや否や大股で二歩動くと、

「云わば小麦など穀物を溶いたようなものでしょうかねえ」、遠い目で。距離感が居心地を悪くしている、ミリ単位、気に障る絶妙さで離れてしまうので。

「遠ざからないでくれないか!」

 少しずつ。すると途切れた照明が影を浴びせた、

「だいいち! 研究室に間接照明とは、ムード醸しすぎなんだ!」

 『白衣』は三日月を作る、顔の半分もせり上がり、口裂け男のような気味悪さで。

「ねはん、ははは」

「笑い方がクレイジー! なんなわけ『涅槃』ははは、って」

「ここはぁ~。工場だから」

「こうっ……ならば余計に暗すぎるぞ! ……てか工場なぬうっ?」

「ですです、研究室なんてもっての外よ」

 『白衣』は、てなたたた、と笑う、もはや笑いっ?

「工場の割にアンタしかいない、どうなってんの!」

「十分よ……けぱぱぱぱ、後は自動制御システムが勝手にやってくれるって」

「アリぃ~?」

 ……しばらく云えなくなった、妙すぎる、コイツは何者で、私はどうしてここにいる? 人々がひっきりなしに通過……あたかもショーウィンドウ! 巨大な窓から、パレード級の人だかりが行進する様を認めてい、否が応にも意識を奪われるので。

「てか、あの人ら? 巨大で異質な装置が見えているのにまるで関心がない、気づく素振りすら。違和感ありすぎだろ!」

 へぱっ! と一声。これが笑いでないとそろそろ分かる頃合だった。

「不思議なんだな~」

「なにがだ。云われたくないわ!」

 怒っちゃや~だよ。とオッサン、口すぼめ。乙女みたい? 気色悪いぞ、ごらぁ!

「まさか眺めたと? 私の知らぬ間にあっちへと? お~怖わっ」

「な訳ね~だろ、ごらぁ! 忍者じゃあるまいし、適当なこと云ってんじゃねえぞ!」

「こっちのセリフよ」

「なんですと?」

 羽ばたかせる様優雅なれば、信天翁アホウドリのごとし。

「風に乗っておるのです、ここまでくればね……建物を超然と見下ろす景色だよ」

「何が云いたいんだ!」

 私は末恐ろしくて仕方がない、不気味な男、知らぬ間に薄紫レンズのサングラスを装着しているので。

「掛かってなかったのに?」

「なんですか急に張り上げて!」

「張り上げてんのはずっとだからな! それより、奇妙すぎるんだよ、云ったら『吐き気をもよおす系油そば』だ!」

「いえね、あっちから見通せないです」

「はっ? なんの話~」

「覗けないのよ! 見えないんだから、一種のトリックアートなのよ」

「先に云え~!」

 にひひひひ。笑いだろう、無表情で笑っていやがら、薄メガネの奥は相も変わらず人殺しのような。

「気になっているみたいねえ……とほほほほ」

「がっくりしたんかい~! 気になるよ、あの人だかりは!」

 へはぁ……へはぁ……ついに息切れ……。コイツとの会話、まさしく地獄の所業だ。

「行きましょう……気になるでしょ?」

 へはぁ……へはぁ……、ああ~気になるとも……。

「目で訴えるんだね……お腹空いちゃったんだ?」

「どこがだー! その流れは、皆無!」

「減ってないんですねっ?」

「そうと云ったら嘘になるかも知れないが~、あえてこう云ってやる、私は胃もたれ中だ」

「じゃ~あ、欲しくないんだね?」

 むへっむへっむへっ。なんだぁその咀嚼そしゃくはあぁっ! ソイビーンズなど食らいおって、のん気もいいとこだぜ。

「いるかんなもん、テメエ部屋じゅう足の裏みたいな匂い充満してんじゃねえかおらぁぁ……本格的に食欲失せた」

 はぁぁぁぁぁ~。く、臭せぇぇ、吐息(といき)吹きかけてんじゃねえぞ!

「慣れるがよい。……それより、ついに行ってみようか?」

「よっしゅわあ受けて立つ」


 大股のっ! コイツ、化け物……。全速力でもって追いつけず、一歩で四、五メートルは稼いでるんじゃなかろうか?

 へはぁ……へはぁ……、なんと、しんどい……。


 んんガチャっっ、と。粘っこぉいドアノブさばきをヤツは成し遂げっ!


 ゴニョガニョガニョゴニョ…………


 何たる喧噪! 云う通りだった、完全なるトリックアートは『壁』というより無色透明、存在せぬかのような。しかも、決壊のごとく押し寄せた人波のざわめきが、森閑を極めていた室内から想像を絶するギャップをもたらすっ!

 ばかりか、無色透明から突如躍り出た二つの肉体、「まるでプレデタ~!」と、恐怖を喚起したので。ざわめきはどよめきとなり即座に、絶叫、となった。

 『白衣』は虫けらをあしらうように払っていき、群衆はジャッカルにめられた群羊ぐんようのごとくメェーメェーと泣き叫んでい、とても不憫。


「ほらほら~! ここ見てよぉ~?」

 急に! 「人払いできたよ!」が余程お気に召したのかヤツは上機嫌。女子のごときハイテンションさで駆けていき!

 へはぁ……へはぁ……、ますます! 立ちつくし肩で激しく、息。

「さすがに! メチャメチャ遠ざかってんじゃねえかぁっ、あああっ……!」


 踊り場は回廊のような造りで。ひしめいていたはずの人だかり、『白衣』の狂気に恐れをなしてだだっ広い間隔で遠ざかっていた。『白衣』を追って踊り場の手すり壁へ近づいた、正面をふさぐ壁面が突然開けて。

 絶景だった……。回廊の踊り場が向こう岸までぐるり、同一構造で建造物が正確な円形に並んでいる、と解る。

 人工芝に満たされた中庭が広大で……否、衝撃的なのは、把握しきれぬほどの無数! 色塗られた巨大なオブジェ、天高く聳え立つ幾多もの塔の集積、途方もないスケールの……。

 様々な意匠に形づくられた細部、それでいて統一感のある全体の設計……見るも鮮やかな赤い壁、青い柱、黄のドーム、緑の尖塔、紫の鐘楼しょうろう……数限りなく飾りたてられた原色の様式や彫刻、細やかに……しかと、まるで煌びやかなステンドグラスのごとく色と、色とを際立たせ合い、はたまた融合させながら隈なく麗しい発色にて光沢し、のみならず水色、桃色、黄緑、藤色、淡い色彩もまた、あちらこちらへ散りばめられ細部を引き立てているので…………。


「アントニ・ガウディのサグラダ・ファミリアはご存じかい?」

 私の放心状態は『白衣』の得意げな発語に破られた。

「なんです……?」

 ふふぅ……と。神妙な面持ちをわざとらしく。『白衣』の薄メガネ、タイミングよくギラリと反射して。

「ええさね、驚きを隠せない様子で…………そらぁそうです、これを見るため世界中から観光客が押し寄せるのですから」

「サグラダ・ファミリア……でしたかね……。凄いスケールの芸術品だ」

 いねっはっはっひゃああ。

「なんて笑い方……下品にもほどがある!」

 いぺぺぺぺぺぺ。おいっ、エスカレート!

「いぺぺぺ……可笑しくてたまらんわい、いえいえ、別にこれがガウディの最高傑作である、とは云ってないよ」

「最高傑作じゃなけりゃ何だと云うのだ、どう見ても最高でしょうが」

 けけけけ。狡猾に笑いやがって!

「じゃないって。ガウディ、関係ないから」

「じゃあ何だというんだアレは!」

 ひひぇひぇひぇひぇ。

「確かに! 世界に名を轟かせたそれは最高峰の芸術品だったよ、しかしね。これはそれを彷彿とさせながら、それを凌駕するほどの傑作っ!」

 ふうむ……サグラダ・ファミリアとやらが至高であることに違いはないようだ……しかし、アレは、更なる至高、そう云うことか。

「工場のタンクを覚えているので?」

 薄紫はギラギラを往ったり来たりで忙しなく……まったく、厚顔な反射だ。

「底にいた……あれ。めくるめくショッキングのせいで忘れてしまっちゃいないよね~」

「蟲のことだろ! 忘れる訳ないからっ」

 にゃはははは。気分悪い野郎だ、なんたる笑い!

「蟲ねえ……蟲蟲。ひぇっはっひゃ~、やっぱり忘れてるじゃないかぁ」

「はぁ? 蟲じゃないか、あれ、踏ん張ってたよなあ……? 印象的すぎて忘れたくても無理なパターンだ!」

「違うの違うの。蟲じゃないよとほのめかした……忘れてたでしょうが!」

 あ、そう云えば。

「あ~、確かに、だけど答えは聞いてない。あれは蟲だよってのが正しい記憶なの~!」

 サングラスが高速で上下している……どうなってんだぁその絡繰からくりぃぃ?

「すまんすまん、大笑いしてしまった」

「笑ってたんかいな」

 わずかに波打つサングラス。

「あのタンクにはね、ここに広がる絶景……つまり色とりどりのオブジェの……設計図が宿っています」

「はっ?」

 パリン! レンズが割れて!

「失礼、気合いを入れ過ぎてしまったよ」

「だから絡繰りどうなってんの!」

 薄紫の破片を一皿一皿拾い上げていき……中庭へと投げたぁぁ~!

「なにしてんだごらぁ?」

 左右の手のひらをパンパン、払って……勝ち誇った表情、だが顕わになった両の目は、ますます『殺す!』を示しているので!

「お~、怖わぅっ」

 ひぇへっひぇへっ。だから怖ええっし。

「設計図……つまり設計者の遺伝子とでも云いましょうか~。中庭を取り囲んだ巨大な円筒状の建造物……工場の集まりのことだがね……。中庭のオブジェとはつまり、その、設計者の脳髄の産物なのだ」

 脳髄の産物? 何云ってんだ。

「意味が分からん」

 あひょーーーー。びっくりさせんなや! びっくり仕方でびっくりしなきゃならんびっくりってどういうびっくりだよ!

「腹立つわ~」

 ひょ、ひょ、ひょひょひょー。もうびっくりしないからな。

「へぱぽ」

「逆にびっくり! 意表ついてくんな!」

 へぱぽへぱぽ。へぱぽって何だ、どう云う感情の吐露か!

「もうっ、究極へぱぽ」

「へぱぽに究極はねえからな、ゼロに百兆掛けてもゼロであるのとおんなじぃ理屈ぅっ!」

「だって~。つまりねえ、要約すれば脳髄へぱぽなのっ」

「世界一へぱぽな要約とはこのことだぞ!」

「要は~。設計者の脳髄が発見されたのだ」

「意味不明すぎる!」

「つまりだ。発見された脳髄が未だなお生かされ続けている。オブジェは永遠に完成せぬ芸術品だ!」

「はぁ~?」

「脳髄はね、建造物内全ての工場へリンクされているんだ。タンクに落とされた流動体は遺伝子情報、培養液に落とされた瞬間、それぞれがゲノムに従い固有の色彩を帯びた個体となっていく」

「遠まわしに云うな! 蟲だろ?」

「蟲じゃないっ! あれは顔料です」

「何っ?」

「バッテリーとも云う」

「いやいやどっちだよ!」

「つまりね、自走するためのバッテリー。培養液から施されていくのだ、蟲だなんていかにもへぱぽな見解だなあ」

「うるせ~! 一番腹立つ」

「カッカしなさんなって。遺伝子情報により、生まれた瞬間からああなる運命にあるのだ。タンクの底の中央に穿たれた大きな孔へ引きずらていく様子を見たよねぇ? シューターを下りるのだ! 中庭へ続いているのだ。つまり顔料たち、それぞれに座標が振られてい、自身の運命、固有の座標にて、それぞれの色彩、様式が事細かに決められてい、自走する顔料、広がり、やがて凝固かたままっていく」

「馬鹿な……」

「いえいえ、本当です。全ては設計者の脳髄、ゲノムの賜物だ」

 

 白衣をバタつかせ狂ったように踊り場を大股で駆け巡って……。

「イカれちまったみたいだな……」

 私はポケットに手を。無意識にそれがある、と、知っていて……ヤツに向け力強く構えていた。

「アレを見てごらん?」

 ヤツの指差す中庭……移動したせいでオブジェは角度を違えていた……不意に、巨大な絵画が現れたので。

 見覚えがある、何であるのかまでは、分からず。

 部屋……。その中央……美しい金髪を湛えた……おそらくは年若き、姫? の姿。

「ふわっはっは、これもトリックアート。巨大な建造物で出来たオブジェは……回廊を巡るごと、世にも有名、数々の名画が現れる、途轍とてつもなく大がかりな仕掛けさ」

 ピタ。とヤツはおふざけを停止。目、あくまで、冷たいまま……

 殺意と殺意がぶつかりあって、私は銃を構え、ヤツは鋭い視線を返すので。

「な、何をするんだ……?」

「知るか! 本能の赴くまま。お前を殺す、ずっとお前に殺意を抱いていた、不思議ながら何ひとつ、迷いがない!」

「へぱぽ」

「殺す!」

「待て待て~」

 動揺を初めて……。

「こ……殺してどうする?」

「……さあ。こんな狂った場所からは逃げてやろうと思って」

 へぱぽ。まだ云うか、異常者が~!

「やめておけ……お前はこの場所を、出てはいけない」

「黙れ異常者!」

 ズキャーーーーゥンン…………


 ……弾丸が白衣を貫通……瞬間! ヤツの背からは夥しい蟲……数多の色彩へと分離した……おぞましい甲虫のフォルム……血液の飛沫の代わりに、ポジションポジションに応じた色とりどりな蟲、空中へ、散っていくので。

 バラバラバラと……白衣すら……極彩色に分離した蟲の数多あまたと瓦解して!

 一匹、一匹、踊り場の硬い床面へと屍……粉々になったステンドグラスの破片のよう…………山積みとなって。


「イカれた蟲ケラめ」


 あまりの驚愕に唖然とした群衆を分け、突き進んだ…………さほど歩くこともなくて。中庭とは逆向きで、階段。

 迷いなく下階へ、低い段へと足を踏み出した。


 バラバラバラバラバラバラッッ……


 蟲の山……瓦解…………

 つまり私の肉体であったはずのその、あまりに味気ない消失の運命を認めた刹那。

 私は、油絵具で塗りこまれた世界の、油の立ち込めるような…………ずうん、と漂う影の意識を想起した…………

【画家】ディエゴ・ベラスケス Diego Velázquez

1599-1660 | スペイン | バロック


【使用作品】『ラス・メニーナス(女官たち) (Las Meninas)』 1656-57年

318×276cm | 油彩・画布 | プラド美術館 マドリッド


でした。

お読み頂きありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] ご参加ありがとうございます。 さすが、難解ですね…… もしかして、宮廷の絵? と思ったら、なんだかもっと世界が広がっていって…… ガウディの建築もここから生まれた……? この語り手? は…
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