序章 8話
序章
〜8話〜
「理解したか?」
「誰に向かって言ってるのよ、当然でしょう!!」
まったく、頼もしいかぎりだよ。
さっきまで目の前の状況に混乱し、取り乱していた奴と同一人物とはとても思えないほどの回復振りだ。
その目から力強さがありありと見て取れる。頼もしいんだかなんだかな。
「お話し合いは終わりましたか?」
ちょうど俺達の会話が途切れたところでそんなことを言ってくれやがる敵A。表現がおかしいって?
気にするな、俺から見たらあいつはすでに敵以外の何者でもないからな。
「それで一体どうするつもりですか?」
そんなものに答えてやる気などさらさらない。彼女にアイコンタクトを飛ばすと俺は右へ、そして彼女は左へと展開。
状況は2対1、ならばこれを利用しない手はない。左右からの同時攻撃により相手に隙を作り、そこに追い討ちをかける。
シンプルすぎる作戦ではあるが、こういうときには複雑すぎるものよりもかえって単純なほうが成功しやすいものだ。
教師との距離が縮まる。
おそらくではあるが、教師の方は彼女の攻撃の防御を優先するだろう。なにせ手には剣をもってるんだからな。
素手の俺を防御するよりもそっちを防御する可能性のほうが高いに決まっている。だからそこをつく。
「はぁっ!!」
彼女の剣が一閃。教師の体に振り下ろされる。もちろん刃は返してある。人殺しなんてごめんだからな。
峰打ちでボディなら、そう簡単に死ぬことはないだろう。
事前の打ち合わせ通りに攻撃は行われた。少なくとも、この攻撃でわずかでもダメージは確実に入ると計算していたのだが、
「いい連携ですね」
彼女が攻撃した先には何もなかった。
「呼吸もばっちり合っていましたし、攻撃速度も申し分ありませんでした」
肩にかかる髪を払いのけながら艶やかに微笑む。その体にダメージの様子はまるでない。
「何でよ……」
「何かおっしゃいましたか?」
「何であんたがそんなところにいるのよ!!」
その言葉にさらに笑みを深くする教師。絶対サディストだよな。
さて、冗談を言ってる場合じゃない。この状況はもはや理解の範疇を完璧に逸脱している。さっきまでの事態には、まだ無理やりながらも理屈はつけられた。
だが、今回はどうだ?
なぜあいつは、立っていた場所から一瞬で5メートルも移動できた?
俺の目がいかれてなければ、教師は俺達の攻撃の直前まで同じ場所に立っていたはずだ。
それが今や俺達の後方5メートル地点にいる。
ありえない。
「あんた何したのよ!!」
「これが魔術の一端というわけです。これで信じる気になりましたか?」
「なるわけないでしょ!!」
「では、あなたのその手にあるものはどう説明するのですか?」
「それは……」
「信じたい気持ちを隠す必要はありません。魔術は実在するのですから」
まったく口車のうまいやつである。政治家にでもなればいいのに。でなければ弁護士だな。もっともこんな奴に弁護なんて死んでもしてもらいたくはないが。
「あなたには資質があります。その剣の発現が何よりの証拠。私の見る限り、あなたの潜在能力はかなり高いものだと思いますよ」
教師はさらに揺さぶりをかける。彼女の表情をうかがってみるが、その顔からはもはや迷いしか感じとれない。
どうする?
こうなってしまっては、もはや彼女は足手まといにしかならない。俺の見立てでは十中八九彼女は教師側の人間ではない。
もし、これで敵だとしたらたいした役者だ。
それにも関わらず、彼女の手にはまぎれもなく剣が握られている。あれに関してはいくらでも説明がつくが、今の彼女の状態では冷静な思考は無理だろう。
やむを得ないか……
「あなたが剣を振るう必要はありません。彼の選定が済むまでそこで見ていてください」
「………」
教師の言葉にゆっくりと構えていた剣をおろす彼女。一体、今頭の中で何を考えているんだろうな?
軽いパニック状態になってるんじゃないのか?
「さぁ、これでゆっくり選定ができますね」
憎たらしい顔だ。
「あなたもおとなしく選定を受けてください」
胸糞悪い。
「こちらへ来てください」
もう声も聞きたくない。
「おい、最終警告だ。俺をこの部屋から出せ」
「ですから選定が済み次第すぐに出れますよ」
「今すぐに出す気はないんだな?」
「さっきから何度も言ってますが、選定が……」
「わかった。もういいからしゃべるな」
やってられん。もう我慢の限界だ。
「なら死ねよ」
俺の理性が飛んだ。