序章 7話
序章
〜7話〜
頭がついてこない。現状を理解することを脳がかたくなに拒んでいるからだ。
「まだ帰すわけにはいかないんですよ」
目の前で教師が不適に微笑む。あの表情はやばい、俺の中の危険アラートがむちゃくちゃに鳴り響いて警報を発し続けている。
「さぁ、こっちへ」
行くはずないだろうが。
心の中でそう叫んでみるが、いかんせん逃げ道がない。依然として入ってきた扉は忽然と姿を消したままだ。
この状況からしてあの教師が何かをしたのは明らか。だが、何をどうやって消したのかはさっぱりわからない。
どんな仮説を立ててみても物理的にどれも無理。唯一可能性があるならば、それはこの問題のもともとの原因。
――魔術
それがもし存在するというのなら、何かしらの方法で扉を消すことくらい出来るだろう。だがそれを認めるわけにはいかない。
「どうなってんのよ……」
この場にいるもう一人の人物は俺の影で挙動不振でおびえている。さっき自分の手から剣を作り出したときは楽しそうだったくせに。
って、いかんいかん。これじゃあ、俺までこの不思議現象を魔術だと信じているみたいじゃないか。
「心配しなくても大丈夫ですよ。ただもう少し違う方法で選定をするだけですから」
「そんな戯言を信じるとでも?」
「信じる信じないの問題ではありません。それはあなたが一番わかっているでしょう?」
胸糞悪いやつだ。逃げ道を完全に消してから追い詰める。どんだけサディストなんだよ。
「ここにいる以上、あなたは魔術師の能力があることは間違いないのです。ですからそれを確認しなけらばならないのです」
だから知るか。能力がないからさっき何も起こらなかったんだろうが。
「先ほどの選定は簡易的なものです。それゆえに反応が起きなかったのでしょう。何事にも例外はつきものですから」
もっともなことを言ってる様に見えて無理やりな理屈。しかしこの教師の言葉には力がある。思わず納得してしまいそうになる力が。
「………」
だからといって簡単に納得してやるつもりは毛頭ない。こいつの言ってることは明らかにおかしいのだから。
確かに気になることはある。何もないところから、突如として剣が現れてみたり、何の前触れもなくいきなり出入り口が消えたり。
現段階の俺の知識で説明できないことだらけが現実に目の前で起こっていることは否定できない。
しかしだ、それゆえにその事実をはいそうですか、と飲み込むわけにはいかないのだ。
「何度も言いますが危害を与える気はありません。ご心配なさらずに」
あんたと同じ空間いるだけで大いに心配だよ。
後ろでに彼女をかばいながら教師とは出来るだけ距離をとる。考えるべきはどうやってこの状況を打破するか。
魔術というものを俺が信じない以上、必ず出口は存在する。今はうまく隠蔽しているだけだ。だとするならそれを探し出すことが今の最優先課題。
だが、おそらく目の前のクソヤロウはそれを妨害してくるに決まっている。どんな手でくるのかは知らないが、こっちにとっていい手段ではあるまい。
そう考えるなら、
「おい、動けるか」
「え……?」
さっきから俺の影でぶつぶつと独り言をつぶやいている彼女に話しかける。何をするにしてもひとりでは無理だ。
「お前の協力が必要だ。もう一度聞く、動けるか?」
返答しだいで状況が一気に変わる。もし拒否されれば絶望的だ。
「どうにかできるの?」
「確証はない。でも、やらないよりかはましだろう?」
「そうね、そうよね」
「その様子なら大丈夫だな」
「もちろんよ!!今までは少し動揺してただけなんだから!!さ、早く打開策があるなら言いなさい」
態度の転換が早い奴である。今はそのほうがありがたいけどな。
ちなみにこのやりとりはお互い小声で行われている。大声で話して自分達の手の内を相手にみせるほど焦ってはいない。
もっとも当の本人、つまり教師は、俺達が何かを話しているにも関わらず何も言わずにただ立っているだけだ。
つまりそれはこの部屋からはそう簡単に出れないことを意味する。
本当に嫌な奴だよ……。
「いいか、よく聞けよ」
作戦の成功率は不明。状況を飲み込めない以上、推測なんて立てられるわけがない。それでも何もしないよりかはましだからな。
先手必勝だ!!