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Chain  作者: ルナ
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序章 4話

〜序章〜 


4話



 その部屋は不思議だった。窓もなければ装飾品も何もない。ただ部屋の中央に机が一つ置かれているだけの部屋。それはどの国の様式にも見えるが、どれにも属さない。自然にみえるが不自然に見える。通常、部屋と言うのは一見すればその使われ方がわかる。理科室ならば実験器具が、調理室なら調理器具が、普通の教室なら机やいすが。だが、その部屋からはそれらが何も感じられない。唯一感じられるものがあるとするならその不気味さか。


「何この部屋……」


先に部屋に入っていた三枝も同じことを感じていたらしい。おそらくおれは独り言だったのだろうが、俺の耳には若干恐怖のようなものが混じったその声がしっかりと聞こえていた。本当になにもない部屋だ。正直もっと奇妙奇天烈なものがあった方がまだよかったと思う。その方がまだリアクションがとりやすい。


「この部屋は覚醒の間と呼ばれていて、数年に一度この時期にのみ使用される部屋です」


「なんでこの時期だけなのよ?」


他にも突っ込み入れるところはたくさんあるだろうに、あえてそこに突っ込みを入れるあたりが三枝と言う人間なのだろうか。


「簡単に言えばあなた方のような人のためにある部屋と言ったほうがいいですね」


「どういう意味よそれ?」


「この部屋の使用用途は魔術師の潜在能力の覚醒です。魔術とは素質だけではなく、使用者の認識が鍵となります。通常、ここに入学する生徒は過去に何らかの形で魔術にふれたことがりますが、中にはあなた方のように何も知らず、魔術を信じることもなく入学してくる人もいるのです」


つまるところ、魔術を信じないものを信じさせるのがこの部屋ということらしい。ここで何が執り行われてその上で何を信じるのかは知らないが、あまりこちらにとっていい話ではなさそうだ。


「もう一度言いますが、魔術の基本は認識です。しかし、あなた方に魔術はありますなんて言っても信じるはずはありません。仮に私がこの場で魔術を披露したところで、ここは私が連れてきた場所であり、何らかのトリックを使ったと言われればそれまで、あなた方は信じる要因にはなりえません」


「それだけわかってて尚、俺たちに何を見せるつもりだ?実演でも信じさせられないのにそれ以上のものがあるとは思えないな」


神崎教諭の言ったことは実にその通りだ。仮に前で炎なり雷を起こしたところで俺は間違いなくトリックの一言で片づけるだろう。しかし神崎教諭はそれがわかっていても表情を崩すことはなく、ただ淡々と言葉を続ける。


「言葉では信じられない、私が実演して見せても信じられない。でしたらあなた方が魔術を行使すれば信じるしかないでしょう」


「それこそ妄言だな。あんたは今、魔術というものは本人の認識の上で成り立つと言った。それなのにその重要なプロセスを否定している俺達にそれをなさずに魔術を行使させると言っている。論理の破綻もいいところだ」


「何か勘違いされているようですね。確かに魔術は認識の上に成り立つとは言いましたが、必ずしも認識をしなければ行使できないとは一言もいってません」


「詭弁だな」


「ですが真実です」


そう言い切る神崎教諭に俺は次の言葉が見つからない。確かに先ほどの言動の中で認識が重要だとは言っていたが、それがなければ魔術が使えないとは一言も言っていなかった。それに俺には次に神崎教諭は言うことが推測出来てしまう。おそらくはこの部屋が鍵なのだろう。この部屋の中では術者の認識がなくとも魔術が行使できる、だから信じない者はこの部屋で実際に魔術を行使し信じさせる。そんなところだろう。


「この覚醒の間であれば認識がなくとも魔術を行使することができます。もっとも、それは認識をしたものの半分の力も出ませんが、魔術を認めるだけなら十分です」


やはりそれは推測通りだった。そして俺はまたしても神崎教諭に何か反論を行うことができない。反論すべきところはいくつもあるし、そもそも魔術を否定している俺たちにとって今の話は根本が破綻している。神崎教諭の話は魔術があることを前提としたものであり、俺たちを納得させるにはまったく弱いものなのだ。この話を神崎教諭以外のものがしたのなら、まちがいなくおれは一笑にふしているところだろう。それくらいばかげた話でなのだ。それなのに何も言えないのはひとえに神崎教諭だから、それ以外に説明のしようがない。


「くだらない……」


「くだらないかどうかはご自分の目で確かめてみてはどうです?否定するのはそれからでも遅くはないでしょう」


またも正論。なんだってこちらがこんなに押されなけばならないのか。だが、どうやら動揺をしているのはこの場において俺だけだったらしい。隣にいたもう一人の目がこれでもかというくらい輝いているのにまったく気がついていなかったのだがら。


「長ったらしい説明はもういいわ!!見せてくれるっていうなら見せてもらおうじゃないのよ!さ、私は何をしてらいいわけ!?とりあえずあんたを殴ってみたらいいかしら?」


そんなはずあるか。


それでも自分の話に三枝の警戒心が薄れたのを感じ取ったのか、無表情だった神崎教諭の顔にわずかに変化が見られた気がする。それが俺にとっていいものではないのは、もはや言うまでもない。


「こちらへ来てください。この部屋でならあなたにも魔術が使えると言いましたが、他にもやるべき手順がありますので」


「めんどくさいわね、そんなものどうにかしなさいよ!!」


「安易な魔術の行使は本人はおろか、その空間にも影響を与えることがありますから。それゆえ準備だけはしっかり行うのが魔術というものなんです」


さっきまでこちらサイドだった三枝は、すでに神崎の話に魅入られ暴走状態になってしまっている。そんな中、俺だけがその場から取り残されてしまったようだった。


「まずはこちらに来てください」


「その机に何かあるわけ?まぁ、この部屋にあるのはそれだけなんだし、何かあるんじゃないかとは思ってたけど」


そう言いながらも三枝はその机へと歩みよっていく。その様子を見るに、もはや三枝は神崎教諭に対して何の警戒も持ってはいないようだ。


「おい、お前はもう少し人を疑うってことをしろよ!!どう考えたってそいつの言ってることは怪しすぎるだろうが!!」


「うるさいわよ!私は売られた喧嘩は買う主義なのよ!だいたいさっきから売り言葉に買い言葉で話がちっとも進まないじゃない。だったら魔術でも何でも試した方が時間の有効活用ってもんだわ!!」


そんなもののために自分の身を危険にさらすっていうのはどうなんだよ。そう思ってる間に三枝はすでに神崎教諭のいる部屋の中央についてしまった。そこにあるのはこの部屋にある俺たつい以外の唯一の物でもある机。


「ここに手を手のひらを上に向けてかざしてください」


「この魔方陣みたいなやつの上ってこと?」


「そうです。かざしたらそのままの状態にしておいてください」


魔方陣とはいかにもオカルトの代表格的なものが出てきたものだ。信じる気はこれっぽっちもないが、不思議と何か冷たいものを感じる。それは三枝が机の上に手をかざしたことにより、魔術の準備がはじまったのか、それともこの部屋独特の空気に俺が動揺しているのか、できればどちらでもないことを祈りたい。


「それで、この先はどうするわけ?」


「少し失礼します」


そう言うと神崎教諭は机の上にかざしていた三枝の手首をつかんだ。そして三枝の手首をつかむ手の逆の手にはナイフ。俺はもちろんだが、それを見た三枝の驚きは一体どれほどのものだろう。


「ち、ちょっと!?一体何する気!!」


「心配しないでください。すぐ済みますから」


ナイフは三枝の手に向かう。三枝も必死に抵抗ししているが、どういうわけかちっとも動けていない。


油断した。


せめてもう少し近づいておくべきだったのだ。三枝と神崎教諭のいる位置までの距離はおおよそ3メートル、1秒もあれば届く距離。だが、すでにナイフは三枝の手に向かって振りおろされようとしている。どう頑張っても間に合わない。


「ふざけるんじゃ…ないっ!!」


しかしさすが三枝と言ったところだろうか。ナイフが振り下ろされる直前にできたわずかな隙につかまれていない方の拳を神崎教諭にたたきこむ。完璧なタイミング、常人であれば反応はできても回避は困難であろうかという本当に唯一無二のタイミングだった。これが危険を感知した人の本能なのかと思うくらい完璧だった。


必然、その行動により神崎教諭は仮にそれを回避できても動作が1テンポ送れる。それだけあれば距離を詰め、三枝を助けてやることができる、はずだった。


「いい攻撃ですが、できるなら今はやめてください」


確かに神崎教諭は俺から見て前方にいた。だが今聞こえたこえは俺の後方から。そして今まで確かに見ていた場所に二人の姿はなく、そればかりかあの机すらもない。


「少しだけ我慢してください」


振り返ったときにはもう遅かった。三枝の手に襲いかかるナイフ、こぼれる鮮血。その光景はやたらとゆっくりで、まるでスローモーションで見ているような錯覚さえ覚えた。


三枝の血が傷口から机に落ちる。次の瞬間、あたりは光に包まれた

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