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Chain  作者: ルナ
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序章 3話

〜序章〜


3話


 薄暗い廊下。まだ真昼間で、尚且つここは学校の中のはずなのだが、なぜかそんな感じは微塵も感じられない。タイルが敷き詰められるという一般的な廊下ではなく、この廊下はどういうわけか大理石が敷き詰められている。両側の壁には窓はなく、そのかわりに絵画が一定の間隔をあけて飾られていた。学校の廊下をを歩くというよりも、どこか監獄を歩いていると言ったほうが今の感覚に近いかもしれない。


しかしだ。今の俺にとってはそれよりも重大な問題がある。こんな雰囲気など取るに足らないもっと大きな問題だ。


「ちょっと!!どこに行くつもりなのよ!?」


「もう少しですからそう騒がないでください」


隣を歩く三枝から放たれるこれでもかと言わんばかりの不機嫌オーラ。近くに猫とか鳥とかがいたら、きっと一瞬で逃げていくに違いない。神崎教諭の言葉にとりあえず黙る三枝だが、その表情を見る限りまったく納得した様子はない。現にさっきから、


―いつまで歩かせんのよ


とか


―絶対化けの皮を剥いで、その顔一発ぶん殴ってやるんだから


とか


その他にもいろいろつぶやいてくれている。おかげでこっちは退屈しなくてすんでいる。もちろん悪い意味で。


「ねぇ、あんたはどう思う?」


「ん?」


「だからこの学校についてどう思うかって聞いてるのよ」


いきなり三枝が話しかけてくるものだから対応が遅れてしまった。ご立腹なのは相変わらずだが、やはり少し不安なのだろう。俺に向ける表情に、少しだけその様子が感じ取れる。


「少なくともまともなところじゃないってことは確かだろうさ」


「そうよね!!あんたもそう思うわよね!!」


一緒についてきてる時点で俺が魔術など信じてないのは明白なのだが、やはり直に言葉で聞くのはまた違うのだろう。目に見えて三枝の表情には覇気があふれてきている。一瞬までの不安そうな表情はどこにいったのやらだ。


「自己紹介がまだだったわね。私は三枝凛。あんたは?」


「八雲鏡夜だ」


「ふ〜ん、なんだか珍しい名前ね。まぁいいわ。とりあえず鏡夜って呼ぶことにするから」


「好きにしろ」


いきなり名前でしかも呼び捨てなのには突っ込まないでおく。この短い時間で俺は三枝の性格を少しだけだが理解していた。そこから導き出された結論は、


『実害がないのならこいつの好きにさせておけ』


要するに、触らぬ神にたたりなしってことだ。こいつの怒りのベクトルがこっちに向くことはできれば避けておきたい。どう考えても処理がめんどくさそうだからな。

さっきまで俺の一歩前を歩いていた三枝、いつの間にか隣を歩いていた。お互いに自己紹介をしたことでか、それとも味方ができたからか、三枝の中では俺に対して信頼のようなものができたのだろう。


「この部屋です」


結局、15分ほど歩いたところでようやく目的地に到着した。連れてこられたのはやたらと大きな扉の前。まさかとは思うがここに入れと言うつもりだろうか。扉に仕掛けがあるようにはみえないが、出来ることならあまり入りたくはない。


「ここに何があるっていうわけ?」


「それは中で説明します。廊下でする話でもないですので」


そう言い、神崎教諭は俺たちを中へ促す。だが、俺も三枝もそこから動かない。


「何も恐れるものなど用意はしていません。ただあなた方に魔術というものを理解していただくためにはこの部屋が適任なのです」


魔術。先ほどから何度も聞く単語。それは現実にはありえない空想上の産物。いうなれば子供心が生み出した幻想とでも言うべきか。たとえどう置き換えたとしても決して現実世界にはありえない現象。

だが神崎教諭はそれが実在するという。神崎教諭だけではない。この学校にいる、俺と三枝以外の人間は全員それを肯定しているらしい。それこそ非現実的。まぎれもない幻想。


「なんなら誓いでもたてますか?あなた方に危害は決して加えないと」


そんな幻想も大衆が是と言えば現実になる。宗教あたりがいい例だろう。科学的に考えて何の根拠もない、その宗教に属していなければ鼻で笑ってもおかしくはない教え。だが、人はそれを信じる。それを信じ、敬い、恐れ、信仰する。それは大衆が是と言うから。

なら今の状況はどうだ?魔術など実際には決してありえないことだが、学校と言う大衆がそれを是と言う。ゆえにここではそれが現実となり、それを否とするものが非現実となっている。


ポケットの中を再度探る。


それでも俺はその現実を受け入れる気はない。受け入れては何のために普通を求めたのかがわからない。


「怖いのですか?」


怖いさ。ようやく手に入れたものを壊されようとしているのだから。


「怖いわけないでしょう!?」


突如として隣からあがる怒声。それが誰かを確認するまでもない。


「いいわよ!!入ってやろうじゃないの!!」


三枝の言葉に神崎教諭はその扉をに手をかける。ゆっくりと開かれていく扉。何か見えないかと覗き込んで見るが、中は薄暗くいまいち何があるのを確認することはできない。

人が二人通れるところまで扉は開いて止まった。まず最初に神崎教諭が、それに続いて三枝も部屋の中に歩を進める。俺はそこから動かない。いや、動きたくない。


「早く来なさいよ!!」


動かない俺を見て怒鳴る三枝。一体あいつはどういうつもりでそんな簡単に自分の行動を決めているのだろうか。あの部屋の中にはどんなリスクが待っているかわからない。いや、俺が恐れているのはそんなことではないのだけれど。

それでも三枝は部屋へはいる。俺は動くことも出来なければ何かを言うこともできない。


どうしたらいい?


入りたくはない。入りたくはないが、ここで逃げ出すわけにもいかにだろう。自分一人ならまだしも三枝がいる。もしあの中にあるのがやっぱり罠で俺が逃げ出したらあいつはどうなる?

頭の中で何かがささやく。


―今更気にすることじゃないだろう?


確かに今更だ。自分の過去を鑑みれば偽善もいいところだ。


―何をためらうことがある?


逃げだせばいい。今なら遅くはない、まだ普通に戻れる。


―そうだ逃げろ


今進んできた道を戻ればいいだけ。たったそれだけのはずなのに俺の脚は動こうとはしない。脳から信号は送られているはずなのに動かない、まるで根が生えたかのように、石にでもなってしまったかのように。そしてまた声がささやく。だが今度の声は今までとは違った。


―逃げるなよ


今まで言っていたこととは真逆のことを言う。


―逃げるな


そんな何のメリットもない言葉、だが強い響き、足がようやく動いた。扉に向けて歩き出す。ためらうことはない。さっきまでの迷いはもう消えていた。

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