第1章 10話
〜第1章〜
10話
校内に侵入者が入ったからという神崎教諭の一言により、その捜索にあたることになった俺と三枝だったわけだが、結果を言ってしまえば俺達がすることなんて何もなかった。
俺達が捜索をはじめて2分後にはすでに侵入者は捕まったらしく、現場にたどりついたころには周りを風紀委員が囲んでいたため近づくことすらできない状態だったというわけだ。
俺としては三枝からの追及を逃れることができ、その上面倒なこともなくなったわけで万々歳なのだが、もちろんもう一人はそんなわけはない。
「何考えてるわけあの侵入者は!!もっと根性入れて逃げなさいよね!!」
それはどうかと思うが今回も突っ込むことは止めておく。この状態の三枝は放っておくのが一番であり、無駄にかまえばこちらに被害が及ぶ異なる。藪をつついて蛇を出すような真似は御免こうむるところだ。
「風紀委員だか何だかしらないけどあいつらも邪魔なのよ!!みんなして私の邪魔ばっかりして、別に犯人がどんな奴化くらい見たっていいじゃないの!!」
この学校が魔術学校である以上、その力を使って何かと悪さをしようとするやつらが出てくるのは道理。それゆえそれを監視し、時には処罰するものがいなければならないのは当然のこと。現在、月影学院その役目を担っているのは今三枝が言っていた風紀委員というわけだ。生徒により成る集団ではあるが、職務が職務だけにその実力は他の一般生徒とは隔絶した力を持っている。
だから風紀委員というのはほとんどの生徒が憧れを抱く役職でもあり、その実力ゆえ恐れられる存在でもあるのだ。もうひとつ似たような役職として生徒会があるのだが、まぁ、ここではその話はいいだろう。というか流石にそろそろ三枝を止めないとこのままの勢いで風紀委員に突撃していきそうだ。
「そろそろ落ち着けよ。いまさらああだこうだ言っても無駄でしかないだろう?」
「無駄とかそういう問題じゃないのよ!!今ここで問題なのは私の邪魔をしたということなの!!私のじゃまをするなんて、たとえそれが神であっても許されない行為だわ!!」
神すらダメとか、お前はどれだけ高いところにいるんだよ。いち女子高生に劣るとか、安くなったなぁ神。
「なんとかして侵入した方法だけでも聞き出せないかしら?」
未だに諦めを見せない三枝はまだそんなことを言っている。だから諦めろと言っているだろう……に…
「おい三枝、侵入した方法ってどういうことだ?普通に門から入ってくるなり塀を乗り越えるなりしたんじゃないのか?」
「はぁ!?あんた頭沸いてんじゃないの?この前神崎が言ってたじゃない。この学校は魔術と言う、一般の常識からは考えられないものを使うから、対侵入者には神経使ってるって」
まったくもって初耳である。そのとき俺はいたのだろうか?
「そういえばあんたいなかった気がするわね。私にだけ授業を受けさせるからそういうことになるのよ!まぁいいわ。なんでも学校の敷地を取り囲むように結界みたいなものが張ってあって、許可なくそこを通ると反応する仕組みになってるみたいね。教職員や生徒、並びに学校関係者はあらかじめスルーされるように設定されているから問題はなし。とにかく関係ない人が校内に入るためには、事前にアポを取った上でさらに手続きを必要とするみたいよ?」
「つまり、無断で入ればすぐにばれると?」
「みたいね。誰かが侵入したとわかれば今日みたいに捕まるまでは秘密裏に捜索が始まるわ。その捜索には風紀委員と手の空いている教師があたり、見つけ次第問答無用で捕獲」
「おおとり物みたいだな……」
「それだけデリケートな問題だってことでしょう。一般の世界に魔術なんてものが知れ渡ればそれこそ大問題。すぐさまあちこちでいざこざが起こり、最終的には魔術師を根絶する動きになるのが目に見えてるってことね。だからこそ魔術師はその秘密を外部にもらさない。そうやって昔からずっとバランスを保ってきたのよ。まぁ、もっとも今のは全部神崎の受け売りだけどね」
そう言って三枝は肩をすくめて見せる。どうやら風紀委員への理不尽な怒りは俺に説明をしているうちに多少は収まってきたらしい。未だに名残惜しそうに現場に視線を飛ばしはするが、もう突撃しようという気配は感じられない。数秒後には三枝の興味はそばにあった自販機の中身に移ったようだった。
しかし今聞いた情報、こちらとしては大きな収穫であり、さらなる問題を生み出してくれるものでもあった。
「なぁ、三枝……」
「ん、何よ?言っとくけどこのリンゴジュースはあげないわよ?」
「そんなものはいらん。そんなことよりさっきの話だけどさ、外部のやつは絶対に校内に無断で入ることは不可能なのか?」
「あんたは何が言いたいわけ?私の説明ちゃんと聞いてた?」
だからそんなかわいそうなものを見るような眼でこっちを見るなと言うんだ。それからなんでリンゴジュースなんだ?お前の印象的にそんな可愛いものを飲んでちゃいかんだろう。もっとも俺の偏見であるわけだがそんなことは言うつもりはない。言った瞬間に飲んでる缶が飛んできそうだ。
「いいから答えろよ。無断で入ることは完璧に不可能なのかどうなのか」
「別に不可能じゃないんじゃない?抜け道の類もいくつかあるみたいだし」
「抜け道?」
「そ、抜け道。どんなに高度なセキュリティを持っているところだとしても穴のないものなんてこの世にはないでしょう?それを構築しているのが人である以上、どこかにミスは生じるもの。なんでもこの学校を取り囲む結界みたいなやつにも穴はある。もっともそれを見つけるのは相当困難で、のかつ知っている人なんて生徒会の人間とか風紀委員でも幹部クラスのさらにごく一部。教師でも知っている人はあんまりいないみたいよ?」
それでも知る人はいる。そして無許可で忍び込むことも可能である。この二つは俺がここ1週間調べて得た事実のどれよりも有益であることに間違いはない。
「ところで三枝、お前はそれをどこで聞いたんだ?」
最初の説明は神崎に聞いたと言っていたが、後半の説明はいくらなんでも神崎が話したとは思えない。具体的な場所を知らないとはいえ、それを知っていること自体かなりの情報となりえるからだ。入学したての一生徒にそんあことをペラペラしゃべるとは到底考えにくいだろう。
そう思ったのだが、三枝はそれにつまらなそうに首を振りこともなげに答える。
「なんか面白そうだったから校長に聞いてみたのよ。そしたらすぐに応えてくれたわよ?さすがにその場所までは教えてくれなかったけど、あんまり簡単に教えてくれちゃうもんだから、こっちが拍子抜けしたくらいよ」
三枝は空になったらしい、ジュースの缶を乱暴にゴミ箱に投げ入れる。
「さてと、もうここにも用はないしそろそろ行くわよ」
言うが早いかすでに踵をかえして歩き始める。俺もそれに黙って習うことにする。しかし校長、そんな情報簡単にしゃべっていいもんじゃないだろう。
それでも校長には感謝すべきなのだろうか。とにもかくにもこれで今日からの活動方針がきまったのだから。