第1章 8話
〜第1章〜
8話
あたりが夜の闇に包まれてからすでに2時間。すでにまわりに人の気配はなくなり、背後の校舎の廊下が灯す最小限の光のみが光源になっている。結局今日の調査で有益な情報が得られなかったため、出来ればしたくはないが待ち伏せという行為をとることにしたのだ。わざわざ学校にまで出向いて俺を襲ったあたりを考えても、相手はどうしても俺のことを殺したいらしい。それならば襲撃は1度では終わらず俺を殺すまで続くだろう。
「とは言ったものの、少しばかり腹が減った……」
おそらく今日も俺が校舎から出るところを監視でもしているだろうと踏んだ俺は、昇降口からではなく窓から外へ出て、昇降口が見えるところに身をひそめることにしたのだ。いつまでも出てこない俺にしびれを切らした犯人が様子を見に姿を現さないかと思ったのだが、どうやらあてが外れたらしい。もっとも、仮にも誰かを殺そうとしている奴がそんな手にかかるとも思えはしない。
それからさらに1時間たったところでさすがに待ち伏せは断念することにした。何より腹が減った。時計を見ればすでに9時を回っている。改めて考えてみればなんともバカなことをしている。自分の浅はかさに思わずため息を吐いたとき、どこから何かの音が聞こえた。自慢するわけではないが俺は聴力が相当いい。視力や味覚などの感覚器官が常人よりも遥かに優れている。
それがいいのか悪いのかはわからないが、少なくともこの場ではよかったといえるだろう。
音はどうやら旧校舎の方からのようだ。気配を殺し音を一切たてずに近づいていく。現在、旧校舎の周りには関係者以外の生徒が入らないようによく工事現場などで使われている柵のようなものに取り囲まれいる。なんでも近々改装工事を行うと朝のHRで神崎教諭が言っていた気もするが、連絡事項を右から左に聞き流しているせいか工事をするという事実だけで詳しい詳細を脳内からとりだすことだ出来なかった。そのため昼間は工事関係者が出入りしているのを見かけたことはあるが、この時間にはとっくに全員仕事を終えているはずで中から物音が聞こえてくるはずなどないのだ。
――カツン
旧校舎の廊下を歩く音だろうか、やはり誰かが中にいるのは間違いないようだ。すでに照明機器の類は取り外され、電力の供給が無くなっている旧校舎は闇に包まれている。
中にいるのだは誰なのだろうか?
案に考えるのなら工事関係者が忘れ物を取りに来たと考えるのが一番なのかもしれない。だが、昨日の襲撃の後ではさすがにそう安直な考を受け入れることは困難だった。昨日のことも踏まえて装備の方は問題はない。それに誰が侵入しているにせよ俺の存在に気付いているとは思えない。忘れ物を取りに来ただけのやつが気配を殺した俺に気付くとは思えないし、何らかの目的があってきた奴であれば誰かがいるのを承知でことを起こそうとは思わないだろう。そもそも誰もいなくなった夜の学校に侵入している時点であまりいいことをしようとしているとは考えにくいのだから。
相手の不意を突くにも様子を見るにも、とにかくその目標を補足しないことには意味がない。そう思い旧校舎に俺も侵入しようとしたそのときだった。
「そこで何をしているのですか!!」
いつかに同じようなことがあった気がしないでもない。それもつい最近に。
「ここは立ち入り禁止区域です。どこの誰なのかは知りませんが大人しく私についてきてもらいますわ!抵抗するようでしたら容赦はしませんので」
振り返れば奴がいる。という冗談は置いておくとして、そこには赤髪縦ロールの女生徒が立っていた。その容姿はそう簡単に忘れるはずもない。何より初対面のインパクトが大きい。三枝とは別のベクトルの方向でめんどくさい相手だ。
「大体、すでに下校時刻から何時間過ぎていると思っているんですの!?その征服からして我が校の生徒のようですが、だからといってこんな時間まで校内にいることは許されていませんわ!まして立ち入り禁止区域で」
赤髪縦ロール、ではなく生徒会長はそのままご丁寧にも説教をはじめてくれた。しかしあたりの暗さのせいか、どうやら俺の顔を判別するには至っていないらしい。それとも見えてはいるが俺のような一生徒の顔など覚えていないのかもしれない。どちらにもしてもこちらにとっては好都合なのは変わりない。対襲撃者用の装備だったがいたしかたない。ここで捕まって余計な詮索をされるよりかははるかにましだろう。俺はさりげなくポケットの中に手をいれ、その中にあるものを地面に落とした。
「そもそもここが立ち入り禁止になっているのは、っえ!?」
瞬間、今まで一面の暗闇だった場所が途端に閃光に包まれる。明るい場所でも目がくらむであろう光量だ。それが暗闇だった場所でいきなり見ることになれば、短くても数分間は正常に物を見ることは不可能だろう。
「な、なんですの!?目が、見えませんわ!!」
生徒会長には悪いがしばらく見えない目でいていただこう。光の量はしっかり計算してあるので、目に異常がでることはまずないだろう。俺は前回と同じように生徒会長のそばから足早に退却し、おとなしく帰宅することした。
だがこのとき俺はミスをおかしていた。それも重大なミスを。あの閃光は近くから見れば強烈だが、ある程度距離が離れていればそれは暗闇を照らす光にしかならない。
俺は旧校舎からこちらを見ていた誰かに気付くことが出来なかったのだ。