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Chain  作者: ルナ
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第1章 3話

〜第1章〜


3話



――ギィィン


金属と金属がぶつかり合う音が響く。横からの一閃をナイフの軸をずらすことで受け流す。次いで繰り出される縦切りはスウェーでかわす。苦し紛れとばかりに放たれた突きは無情に空を切る。

狙ったその場所にはもう誰もいない。


「これで5回目か?お前が死んだ回数は?」


三枝の首元にあてたナイフの腹の部分で、首を少し叩いてみる。もちろん刃の部分は触れていないので痛くはないだろうが、それがナイフといえど凶器であるがゆえか、三枝の体はわずかにこわばっていた。


「攻撃が単調すぎる。さっきも言ったが、お前の攻撃は数手繰り返すとすぐにパターン化してくる傾向がある。だから簡単に攻撃が読めるし、対処法も簡単に浮かぶ」


首元からナイフを離してやると、ようやく三枝は人心地ついたのか昨日見せたような高圧的な目でこちらをにらんでくる。その眼はさながら獲物を狙う狩人のようでもあった。やれやれ、なんで俺がそんな目で睨まれなきゃいけないんだろうな。


「そんなこと言ったって難しいのよ!!大体こんなもの使うのだってはじめてなんだからね!!」


「さっきは喜々としてそれを振ってたのは俺の気のせいか?」


「気のせいよ!幻覚よ!幻聴よ!あんたの脳が勝手に捏造したのよ!!」


まったくもってひどい言われようである。というか幻聴の使い方が明らかに間違っていると突っ込んでやりたいところだったが、ただでさえつりあがった目がさらにつりあがるのは明白なのでやめておくことにする。


神崎教諭の指示のもと始まった三枝の訓練が開始してから早30分。初めこそ意気込んでいた三枝だったが、次第に自分の思い道理にならないことが気に入らないのかあからさまに不機嫌になっている。ガキみたいな反応をするやつだよな、などと思っても見る。ついでに後ろにいる神崎教諭のほうにも視線を飛ばしてみるが、やはり顔に笑みを張りつかせたままこちらを見ているばかりだ。ええい、忌々しい笑みをしやがる。


「大体なんであんたはそんな動きができるのよ!!どう考えてもおもかしいじゃない!!」


「言っただろ?お前の動きを読めば対して労力は必要ないんだって。現に俺はお前の攻撃をよけるのにありえないようなアクロバットな動きをした覚えはないぞ?」


さっきから俺が三枝の攻撃をかわすのにしている動きは、はっきり言って必要最小限だ。すでに攻撃の軌道が見えてるのだからその軌道に体を乗せなければいい。そのためのの動きなんて足を一歩、多くても2,3歩動かせば事足りる。


「だからそれがおかしいって言ってるのよ!!どう見たってあんたこういう状況に慣れてるじゃない!!大体、普通の人間なら刃物を突きつけられたらたいていビビるわよ!!」


その刃物を初めて扱うと言いながら、昨日神崎教諭に思いっきり切りかかったのはどこのどいつだ。


「昨日のことはいいの!とにかく今の問題はあんたよ!!あんた一体何なのよ!?」


なんとなくだけどその言葉は俺の心に刺さった。俺自身、自分の考えに疑問など何も抱いていない。むしろ自分は普通だと思う。だけど目の前の三枝は俺のことをおかしいという。あきらかな矛盾。


「少なくとも私はさっきからあんたに攻撃するのに気を使ってるのよ?いくら刃を返してあるからって当たったら痛いんだし」


「一度もあててないやつが気にすることじゃないだろう?」


「揚げ足とるんじゃないの!!」


一喝されてしまった。しかし俺には三枝の言うことがイマイチわからない。俺が普通じゃない。それがずっと引っ掛かっている。そんなに変なのか?そう思ったそのときだった。


脳に鮮明に映し出される光景。月光の差し込む廊下をただ歩く俺。その姿は返り血で真っ赤に染まり、足元にはいくつもの死体。窓ガラスにうつる、無機質な自分。


――止めろ


それ以上思い出したくなくて思考を振り払う。あんなことを思い出す必要はない。あれは昔のことだ。すでに過去の話だ。あれ以来俺は普通に生きてきたはずだ。


否定する。脳裏に焼きついた光景を否定する。


「急に黙りこんでどうかしたの?」


三枝の声がさっきまでの怒鳴り声から、どこか疑問、いや、心配を含んだ声に変わる。さっきとのギャップのせいなのか、少しずつ落ち着いてきた。


「なんでもない、続きやるのか?」


「いやえ、今日はこのくらいにしておきましょう」


俺の言葉に返答をしたのは三枝ではなく神崎教諭だった。いつ間に近くに来ていたのか、は知らないが、俺を見るその目はどこか危険なものを見るようだった。


「最初にしては十分すぎる実践でした。あくまで今日は慣らしみたいなものですから、あまり飛ばしすぎるのもあれでしょう」


「それもそうね。私も少し疲れたし」


三枝と神崎教諭が何かを話している。だけど俺にはその会話は耳には入ってこない。自分の手の中のナイフを見つめる。握っている黒い柄。そこに掘られた単語。


『Death』


筆記体で書かれたその単語を見る。死をつかさどるその1ワード。


普通じゃないか……


気にしないつもりだった。忘れたつもりだった。でもどうやらおれは無理のようだ。俺が生きる限りそれは無理のようだ。


「どうしたのよ?早く行くわよ!ぼ〜っとしてたら時間がもったいないわ!!」


三枝はすでにさっきのことなど歯牙にもかけていないようで、神崎教諭から食堂の場所を聞いている。その顔はまたニコニコ顔に戻っていた。


今は何も考えるな。


自分にそう言いきかせる。とりあえず今の瞬間だけは、自分の過去について考えるのはやめた。それは割とあっさりと止めることができ、これもこの魔術学校とやらにいるおかげかな、なんて、そんなことを考えていた。



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