第1章 1話
〜第1章〜
1話
そこに俺は立っていた。立ち込める硝煙のにおい。崩れ落ちる建物。無残に転がるつい数分までは人であったもの。その中に俺は立っていた。燃え盛る炎の中で右手には一丁の銃、左手にはナイフを持って。目の前に現れるものすべてを壊す。ただひたすらに、意味もなく。
それが俺の選んだ生き方なのだから……
――ガバッ
真っ先に目の前に飛び込んできたのは見慣れた俺の部屋。ワンルームのどこにでもある一人暮らしにもってこいの格安物件。少しだけ開いたカーテンの隙間から朝の光が差し込んでいる。時計に目をやればアラームをセットした時間よりも30分ほど早かった。
夢……か……
最近はめっきり見なくなっていた昔の夢。昔とはいえほんの数年前の出来事だが、それでもなぜか意識の上ではひどく昔のように感じられた。そんな夢を久しぶりに見た理由は明白である。昨日の神崎とかいう女教諭との戦闘が原因だろう。
つくづく癇に障るやつだ……
今更寝なおす気にもなれず仕方なしにベッドから起きだした俺は、またあの学校に赴くために必要と思われる銃ン美を始めるのだった。
「あんた何考えてんのよ!!こんなぎりぎりの時間に来るなんて脳みそ溶けてるんじゃないの!?」
教室の扉を開け、一番最初のセリフがこれだった。顔の前でそんなに大声を出すな。唾が顔にかかるし、何より耳が痛い。
「あんたが遅いから私一人でいいさらし者じゃない!!少しは人に気を使うってことを覚えなさいよね!!」
何やら三枝が理不尽なことを言っているがもはや無視だ。そんなことを俺がいわれる筋合いはどこにもない。もっとも、こいつが言いたいことがわからないでもない。まだ信じたわけじゃないが、ここは魔術学校であり、俺たちはそれを真っ向から否定した人間なのだ。その後にいろいろあってここにいることを決めたわけだが他のやつらはそんなこと何も知らない。それゆえに俺たちに好奇の目が集まることは、もはや避けようのない事態である。俺がギリギリに来た理由の9割9分9厘はそれなのだが、どうやら三枝はそんなことは歯牙にもかずに早めに登校し、そのまま自爆したというわけだ。
「ほんとに朝から不愉快だわ!ちょっと2,3発殴らせなさいよ!!」
本当に理不尽なやつだ。世界理不尽ランキングなんてものがあったら、間違いなくトップ3に入るであろう理不尽さである。ネーミングセンスがないのは自分でもわっかっているが今は置いておこう。
「俺が殴られなきゃいけない理由がわからんし、そもそもその剣を出すな!」
いつの間に出したのやら、三枝の手には昨日の剣がまた握られている。これがこいつの魔術なのかなんなのかはしらんが神様も余計な力を持たせたものだ。どうせ持たせるならもっと危なくないものにしてもらいたい。
「いいじゃない、減るもんじゃないし」
「そういう問題じゃないだろうが」
昨日も感じたが、どうやら三枝はその能力なのか手品だかは知らんが、それをいたく気にいっているらしい。そんなにきらきらした表情をするな。なんだか信じたくなってきちまうだろう。
それは無性に腹が立つのでとりあえず三枝から視線を外してみると、教室にいたすべてのやつの視線がこっちに向いていることに気づいた。まぁ、あれだけ騒いでいればいやでも注目は集まるだろうさ。やれやれ、ギリギリにきた意味がまったくありゃしない。もう一度視線を教室に飛ばしてみると、少し様子がおかしいことに気付いた。てっきり俺たちを遠巻きにした冷ややかななものだと思っていた空気は、どことなく浮ついた、それでいて好奇に満ちたものだったのだ。
そしてその注目を一手に集めているのは三枝がもつ剣。
何がそんなに珍しいんだ?
確かに三枝はいきなり魔術(もう否定するのがめんどくさいからそう呼ぶことにする)でその剣を出した。だが、こんなのこいつらからすれば別に珍しいことではないはずだ。摩銃という現象を知っているからこそ、昨日俺たちが反論を展開していた場でも誰も何も言わなかったはずなのだから。
そんな風に俺が頭を悩ませていると、教室前方の扉からあまりお目にかかりたくない顔が現れる。
「全員着席してください」
神崎(先生などとは死んでもつけたくはない)は昨日と同じように悠然と教卓にのぼり教室を見渡す。その途中で俺たち二人を見つけると
なぜか少し安堵したような表情を見せた。
「全員出席しているようでなによりです。そこの二人は早く着席してください、HRをはじめますから」
なんだか素直に従いたくはなかったが、無駄なことはしたくない。三枝もいつの間にか剣をしまい、自分の席に座る。
「それでは、HRをはじめます」
いよいよ本格的に魔術学校での生活がはじまった。