序章 13話
今回の話では、急に聞きなれない名前が出てきます。理由としましては、序盤のお話を書き換えて修正したのでそういったことが発生してしまいました。いまのところ1話と2話の修正となっておりますが、今後もそういったことがあると思います。もし読んでいて不自然さを感じましたら、修正部分を見ていただけると幸いです。読者の皆様に余計な御手間をかけさせることになりますが、なにとぞご容赦ください。ストーリーの大筋には変更はございません。 敬具
〜序章〜
13話
それはたった一言だった。しかし、その一言はこの部屋全体を先の神崎教諭との戦闘と同じほどの緊張感に戻すのには十分だった。再び戦闘態勢に移行する。
「な、なによ、いきなりどうしたのよ!?」
言葉の真意をわからない三枝は、ただ空気の変わった状況に焦るばかり。張本人はと言えば、俺の放つ殺気を受けても以前余裕の表情をくずさない。
なんだってんだよ……
さっきの言葉だけではすべてを読み取ることは不可能だが、少なくとも何かを知っていることは確かだ。もちろん俺の返答に対して、そのまま返しただけと言われればそれまでだが、この校長が言葉に含ませたのは決してそれだけではないはずだ。
「何がいいたい……」
はっきりとした真意がわからない以上、会話を続けるほかない。
「あなたの思っている通りだと思いますよ?」
俺の思惑を無視してうまくかわしてくる。年の功というべきか、――外見的にはそうはみえないが――その余裕を崩して本音を引き出すのは今の段階では不可能に近いだろう。
ただなんとなくだが、この校長がはったりをかましているようにはどうしても思えなかった。ただそこに座っているだけなのに、威圧されている。そんな感覚だ。
「私としてはあなたはわが校に入るべきだと思うのですが?」
「あんたの意見は重要じゃない」
俺の返答に、校長は少し肩をすぼめて見せると今度は三枝のほうへと会話の対象を変える。
「あなたはどうです?」
「私?」
「ええ。確かに説明不足なところはあると思いますが、今までの話やあなたが経験したこと、それらを踏まえてうえでわが校にこのままとどまることを希望しますか?」
相も変わらず柔らかな口調。三枝がここの学校で経験したことと言えば、それはそれは世間の一般からかけ離れたことだろう。初日から頭のねじがぶっ飛んだやつらの中に放り込まれ、どういう原理だかは知らないが、いきなり剣を手にし、さらには映画のような戦闘に巻き込まれる。はたから見れば楽しそうにうつるかもしれないが、こんな経験からそこにとどまりたい奴はいないだろう。いたとすればよっぽどの馬鹿だ。そいつも頭のねじ吹っ飛んでいるのだろ。
「私はいいわよ」
見事にねじが吹っ飛んでいた。
「おい、お前今何て言った?」
「だからいいって言ったのよ」
「正気か?さっきあんなことがあったっていうのにここに居続けるってのか?」
「そりゃ少しは驚いたわよ。でもなんだかおもいろそうじゃないの!!」
耳を疑った。つい1時間ほど前までは怒りに燃えていたその顔は、お気に入りの玩具を手に入れたかのような期待に満ちた顔に変っている。
「魔術だかなんだか知らないけど、少なくともここにいれば毎日を退屈にすごすことはなさそうだわ。願ったりじゃない!!」
お前の願いなんぞ知るか。
「高校に入れば少しは人生が楽しくなるんじゃないかって、そればっかり考えてたのよ。中学なんて本当につまんなかったから。でもこれで確定ね!私の高校生活は最高に楽しいものになるわ!!」
喜色満面とはまさにこのことを言うのだろう。なんとも晴れ渡った笑顔、ここはこう表現するのが一番適当であるように思える。しかしよくよく考えればすごいやつだ。こんな理不尽空間に放り込まれてそれを面白いと言えるやつが一体どのくらいいるだろうか?もっともこの学校にいるやつは全員が全員そう思うんだろうが、ねじの飛んでるやつらだから例外だろう。
「理解が早くてたすかりますわね」
どう考えても理解しているわけじゃないと言ってやりたい衝動にかられる。しかし結果的には三枝が自らここにとどまる意思を表明したことにはかわりない。この世は結果がすべてなのだ。
だからと言って俺がそれに付き合う理由は何もない。
「悪いが好きにやっててくれ。これ以上は付き合いきれない」
「何よ、あんたもここにいればいいじゃないの」
「お前は魔術とやらが使えるんだろうが、俺は使えないからな。いる意味はない」
魔術なんてもん信じちゃいないがな。それでも三枝はなおも食い下がる。というかさらに支離滅裂なことまで言い出した。
「いいじゃない使えなくたって」
「は?」
「だから使えなくてもいいじゃないって言ってるのよ」
もはや意味がわからん。校長の言葉を借りるなら、ここは魔術師の育成の現場なのだ。こいつはそこに使えない俺をとどまらせようとしている。しかもそれを肯定して。
「使えなくたって知ってるじゃない。知っているってことは使えるってことと同義で考えてもいいと思うわよ?」
広辞苑には絶対同義の意味では書いていないだろう。
「深く考えなくたっていいじゃない!!だってこんなにおもしろうそうなんだもの!!」
いつの間にその使用法を覚えたのか、さきほど出現させた剣を出したり消したりし始める。確かに楽しそうではあった。
「さぁ、どうします?」
ベストタイミングのつもりのか、再び校長が問う。忌々しい奴だ。なんで俺がこんなに頭を悩ませねばならないのか。どれもこれも全部この校長のせいだ。夕凪だかなんだか知らんが……
「夕凪……?」
ふと頭に引っ掛かる単語。小さな引っ掛かりだったそれは徐々に脳内に波紋を広げ、記憶の中から一枚のページを呼び起こす。
「あんた夕凪っていったよな?」
「ええ、私の性ですが」
「偽名じゃないな?」
「正真正銘私の本名です」
奇妙な偶然もあったものだ。こんなところで探し物のてががりをみつけられるとは。いやはや、世の中わからにものである。
「わかった。俺もここにいることにする」
急に意見を転換した俺に、三枝は疑問を、校長は驚きを見せていたが構いはしない。探し物につながるてががりかもしれないのだ、その真偽を確かめるまではここにいてやるさ。






