序章 10話
〜序章〜
10話
部屋の中を爆風とともに巻き上がった砂ぼこりが覆い尽くす。壁にぶつけられた手榴弾はその威力をいかんなく発揮し、その壁を破壊していた。
「なんだと…!?」
俺はその爆風の合間にその壊れた壁から脱出するつもりでいたのだ。道がないなら作ればいい。
タイミングも完璧だったため教師からの妨害も入らなかった。そのはずだった。
「繰り返しますが、この部屋からは出られません」
すでに何度目かもわからない言葉。ほんの少し前までは、どうにかなると思っていた。だが、この状況にさすがの俺も諦めという言葉が脳裏をよぎり始める。
「何をしやがった……」
あきらかにおかしい状況。確かに破壊した壁。破片は散らばりぽっかりと大きな穴があいている。
だが、その向こう側がおかしいのだ。俺がこの部屋にきたときにとおってきたのは大理石を一部の隙間もなく敷き詰めた綺麗な廊下。
しかし今、眼前に広がっているのは暗闇。というか黒。それ以外の認識をすることができない。
この状況を見るのがあと少し遅れていたら、俺は今頃この暗闇の中に飛び込んでいたことだろう。
「そうですね、魔術を信じてもらうためにも少し説明しましょうか」
そこで一度言葉を切る。俺はその姿を視界の正面にいれ、無駄だとわかりつつも打開策を考える。
「一口に魔術といっても様々な効果があります。すぐに連想されるような炎や氷などの自然現象を巻き起こす魔術。傷ついた者を治癒する魔術。自身や相手を変化させたり。その他にも多種多様、千差万別な魔術があります」
「魔術師により使用できる魔術の特性は異なります」
なるほど。1万歩ほど譲って魔術を信じたとしよう。だとしたらこの教師の能力はなんだ?先ほどの高速の移動からして、肉体を強化する魔術?だけどそれじゃあ、この部屋から出られないことに説明がつかない。
「私の魔術特性は時空間の操作。ここまで言えばあなたならわかるんじゃないですか?」
「わかるかよ!」
そんな短絡的な説明で何を理解しろって言うんだ、この野郎!!
「簡単なことです。高速の移動は時空を歪めることにより素早く移動したように見えただけです。現在、この部屋から出られないのは部屋と外の時空座標をずらしただけです」
意味がわからん。時空の座標をずらすという概念がそもそも理解できない。
「この部屋をもとあった場所から移動させたと考えてください。周りに暗闇しかなくそれ以外に何もない世界の中心に移動させたと。少し理論は違ってきますが、理解するには十分でしょう」
これで十分だと感じたのか、教師はそれ以上この状況に対する説明をしようとはしない。確かに、それが真実なのだとしたら、さっきまでの不可解な出来事にすべて説明がつく。
一瞬で数メートル移動したことも、出口が消えていることも、壁の外が暗闇であることも。
しかし、だからと言ってはいそうですかとは言えない。何より俺の自尊心のようなものがそれを認めることを断固拒否している。
「もういいでしょう?諦めてください」
ここまでなのか?
いくら認めなくてもこの状況が好転するわけでもない。正直なところ、これを打開する手だてはもうない。
時空を操るなんて、そんな魔術の中でもチートのような能力を使われているのだとしたらなおさらだ。
認めないけど……。
ナイフを構えなおす。無理だとはわかっていても素直に従う気は毛頭ない。
「まだ抵抗しますか。いいでしょう、ならそろそろ力づくでやらせてもらいます」
覚悟を決めろ。
足に力を入れ、切り込もうとしたその瞬間だった。
「何をやっているのですか!!」
凛とした声が、部屋の中いっぱいに響き渡った。