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エッセイと言う名の妄想

偶然は必然で、必然は偶然かもねという実話

 ごく最近、ふたつの不思議がありました。

 これは偶然なのか、必然なのか。


 少し遡りますが、ご容赦を。まずはひとつめ。


 いつもうっかりもので情緒的にも不安定な長男くん、十キロ以上離れたJR駅からチャリで暗い中を帰宅。ずいぶん荒れています。

「今日は最低な一日だった!!!」

 聞くに、こまかくいろいろと(聞いた内容の9割は既に忘れてしまったが)。


 特に、駅から帰る時、自転車置き場で空気入れを借りてから不運は連鎖したのだと言う。

 まず、タイヤの空気が多過ぎて泥除けとこすれ合い、不快な音がずっと響いていた。

 なので途中でチャリを停め、手袋を取って泥除けを持ち上げる作業を。が、ムキになりすぎてチャリが転倒、当たり所が悪く、テールランプがちょうど縁石にぶち当たり破損。

 カッカしながら欠片を拾い集め、またチャリを漕ぐ。しかし、途中ではっ、と気付く。

「手袋が……」荷台に載せたままだった、と気づき慌てて止まるが、荷台にはすでに片方が、辛うじてひっかかっていたのみだった。

 スマホをしたままでも使いやすく、しかも暖かさ抜群の、超お気に入りの手袋だったので、落とした片方を探すべくまた数キロ駅方面に戻った彼、しかし、暗がりの中では見つけられず、泣く泣く諦めて、帰宅したのでした。

「ランプの欠片も貼り合わせれば何とかなる、って思ったら全部、落として来ちゃったし……」

「なぬ!!??」

 とことん、ジブン、不器用ですから。を絵に描いたヤツですわ。


 大学入試のもろもろが重なり、十分に心身とも疲れているということもあるが、長男、久々にメンタルの弱さを露呈した結果となる。

 それでもその晩は腹一杯食って、早めに寝てしまった。

 うん、食うのと寝るのとがちゃんとできればだいじょうぶ。


 翌日もクヨクヨと手袋を探すために早めに家を出た彼。

 しかし夕方、帰宅しての第一声は「見つからなかった……」。

 なんせ、暗かったのもあるし、荷台に手袋を乗せたまま走り出してから気付くまで、既に数キロは走っていたというし、大きな川を渡っているので、川に落としてしまったかも、と。

 翌日、翌々日は日程の都合で捜すことができず、「交番に届けた方がいいのかな……」と言いながらも半分あきらめていた長男。


 ところが。


 三日目の午前中。長男が出かけてから、私ひとりで買い物に出た時のこと。

 友人への誕生日プレゼントであるが、いつも数点贈るものの最後のひとつが決まらずにいた私はウジウジと悩みながら国道走行中、ふと、脇に見かけた雑貨店で何か探そう、と立ち寄ってみた。

 たまたま可愛い品を見つけて友人のために買い求め大満足、さて次の目的地へ向かおうと思った時、入ってきた広い道路ではなくて他の道に出てみようか、と何の気なしに店裏から車で出てみたのです。

 何年ぶりかの細い道が土手沿いにのびていて、車や信号を避けるために長男がよく利用しているのは重々承知でした。だから冗談半分に

(通りがかりに手袋が落ちているかもねー)

 と思ったのも確か。

 お散歩の人や並木に癒されながらダラダラと走っていた私は、しかし重大な事実に気づいた。

「今から行く目的地と、逆方向に走ってる!」

 店の駐車場から何となく左折してしまったのだが、本来ならば次の目的地には、右折すべきであった。

 後ろから車がきていないのを確認し、空き地を見つけてUターン、そして……すぐに、目に入ったものは。

 脇の自転車道のど真ん中に、落ちている灰色の塊。

 それはまさに、小僧が落とした手袋のかた割れでした(ここで感動のBGM)。


 たぶん、手袋のことが気になっていたのでいつも通ると言っていたその道を何となく選んだのだろう、とは思いながらも、あまりのジャストミートさに、しばし頭の中はぼおっとしたままでありました。


 車を停め、外に出て、手袋を拾い上げ、また車に。

 何だか偶然と言うにはあまりにも出来過ぎた成り行きは、もはや必然なのか。


 そして二つ目。


 その時ちょうど、我が家で飼っている十歳過ぎの猫がいなくなっていた。

 前々日の晩遅くに、用足しに外に出た猫、翌日は一日中、姿が見えず、ぐうぜん手袋を探し当てた日も、一日帰って来なかった。

 そしてそれから二日たっても、猫の姿はまるで見当たらず。


 まだ一歳半くらいの時、週末を挟んで三日帰ってこなかったことがあった。

 月曜日に市役所、警察、保健所に連絡をして祈るような思いで待ち続け……というところに急に月曜の夕方、猫は自力で帰宅。

 うちに走り込んできておもむろにごはんをガツガツむさぼり食う様子をみるに、どこか倉庫のような場所に(誤って)閉じ込められ、今日になって扉が開いたので飛び出してきたような感じだった。


 それ以降は、三日と家を開けることのなかった猫ではあるが、それが十歳を過ぎて五日間というこの不在期間の長さ。尋常ではない。

 田舎故に許される外遊び(まあ、昨今は田舎でも室内飼いが強く推奨されておりますが)は毎度のことだし、事故に遭うには車は少なすぎるし、猫の柄を見ればたいがいどこの飼いネコかは知れてしまう、そんな恵まれた環境ではあるものの、それでも外で交通事故に遭う可能性もゼロではない。外敵もいないことはない。田舎と言えども、猫嫌いまたは悪意を持つ人間だっていないわけではない……

 家から出るたびに、少し足をのばし草むらをかきわけ、土手を丹念に上り下りし、広場の片隅までのぞき歩き、工事現場は特に念入りに見周り……


 見つかりませんでした。何度呼んでも、かすかな鳴き声もせず、の日々。


 諦め半分、手仕事の合間に思い出してはため息を吐き、また手仕事に戻り、を繰り返していた月曜日のこと。

 ついに保健所に連絡してみることに。

 いなくなった猫の特徴や連絡先を伝え、保健所には該当する猫がいないのも確認する。

 とりあえず、可能性のひとつは消えて少しだけ安心した。 

 しかし、不安は増すばかり。

 今回はさすがに寒さも厳しかったし、日曜には雨も降ったので、ケガでもしてどこかに横たわっていたのならば、もはや息はないだろう、と。


 大きな試験があらかた終わった長男も、猫が気になったのもあったのか(?)学校を休んで近所に捜索に出たのだが、やはり猫は見つからず。


 午後もだいぶ過ぎた頃、手仕事をしながら私はしかし、ふと手袋のことを思い出しておりました。


 なぜ、アレはすんなりと見つかったのか?

 なぜ、猫は見つからないのか(生きているにせよ、死んでいるにせよ)?


 見つけようとして捜せば、もしかしたら見つかるのかも?


 そんな予感でいてもたってもいられなくなった時、ふと手仕事を止めてその日何度目かの捜索へ。

 今まで思ってもいなかったが、あえて近所のお宅を訪ねてみることにした。

 と言っても、留守宅も多いので傍からみれば単にアヤシイ訪問者って感じではあるが。


 まずは上隣のお宅へ。玄関を訪ねたが留守だったので、小声で「しつれいしまーす」と言いつつ屋敷周りをぐるりと見て回る。

 納屋もいくつかついているお宅だが、どこもきちんと扉が閉まり、物音ひとつ、響いてこない。


 次に更に上隣。こちらはふだん人が住んでおらず、週に一度程度、遠い町から農作業と屋敷の管理に人が訪れるだけのお宅。

 こちらも納屋や農機具小屋がぐるりとあって、こまごましたものがきちんと積んであるのが見える。

 そこで猫の名を呼び、心の中で「すんません失礼しますー」と詫びながらも少し敷地の奥まで侵入。


 二度ほど猫を呼んだ時、なぜかかすかに「にゃあ」と聴こえた、ような。


 半信半疑でもう一度呼ぶ。すると今度は確かに、閉ざされた木の引き戸のむこうで、にゃあと鳴く声。

 おそるおそる引き戸を開くと、真っ暗闇の中、我が家の猫がちんまりと座っているではあーりませんか!!

「え、何か用?」

 みたいな(そしてまた感動的なBGM)。


 しかし足もとに寄ってきたのを抱き上げてみて気付いたが、身体が細かく震えているでは。

 体温がかなり、下がっていた様子。

 日向に出てまず、地面に何度も転がって日の光を堪能してから自力で歩いてついて来たものの、やっぱり心配になった飼い主(私)に大人しく抱かれて帰宅。

 それからまずごはんを爆食。そして水をがぶ飲み。落ちついてまたごはん爆食。水、ご飯、そして水。

 そして爆睡。


 推理するに、週なかまたは週末に訪ねてきたその家の主が、何かの都合で納屋の木戸を開けたまま農作業をしていた→うちの猫が入り込んだ→知らずに戸を閉めて離れた自宅へ帰った→猫、閉じ込められた

 というところだろうか?

 次に主が訪ねてくるのはたぶん一週間以上後だったので、私が気づかねばどうなっていたのやら……


 なにげに住居侵入罪に問われそうな今回の件ではあったが、無事に猫が出てきてわが一家的には本当によかった。


 このように、たまたま運がよく失せものが続けざまに見つかり、しかも急に思い立った場所からジャストミートであった、という出来事は長い人生の中でもあまりなかったせいで、

「自分、もしかしたら神通力に目覚めたのでは?」と家族にも吹聴しまくり、かなり見当違いな自信に目覚めたり目覚めなかったり。


 あの世に近くなったせいで、天が憐れんで少しばかり力を貸してくれたのやも知れず。



 ここから少し余談。

 それにしても、手袋ってのははあまりにもささやかではあったが、猫については命がひとつ、救われたのでは? と当初は感動もひとしおであった。

 家族も、猫のいない間は火が消えたようなありさまだったしね。 

 ただ、家族単位ではなく、もっと範囲を拡げてよくよく考えるに……

 救われた者ばかりでもないんだよね、と自戒。

 猫がいなくなって数日間の我が家まわり、犬小屋近くや玄関先、裏口まわりに小鳥がよく遊びにきていたのがとても印象的だった。

 帰宅した時に玄関先からぱーっとヒヨが飛び立ったり、近くの木でシジュウカラが遊びまくっていたり。

 天敵がいなくなって、餌場や遊び場が増えました、うれしいです! みたいな小鳥たち。犬小屋近くにも遊びに来ていて、可愛かったなあ……


 何かを生かすために、何かは失せる。そんな縮図も見えたりして。


 偶然に感謝するとともに、偶然のようにみえる必然に感謝。しかし必然と思えることも実は偶然かも知れず、それにもありがたく頭を下げたいなあ、というところで今回の長くてくどい捜索の旅を締めくくりたいと思います。

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