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命をパレットにのせて 改訂

掲載日:2016/05/04

芸術は現代に近づくにつれて美しさと隔離され、より人々の感情を動かす性質を強めてきた。そして、近年アメリカで流行を見せたポップアートが大量生産品を用いて作られることから観察されるように、芸術の範囲拡大はとどまることを知らない。


死は、人ができる最高の芸術ではないだろうか。

人が自殺を考える時、自らの死後の周囲の人々の反応を考え、自らの死による感情の威力を(それは大抵の場合過大に)推量する。つまり、自らの死の芸術性を考えるということである。それに対する芸術的とも言える陶酔が、自殺という生物にとって極めて不自然な行為の原動力となる。

殺人は古来から甘美だ。甘い。人は苦悩し、暗く、絶望的な思いは数多の人を駆け巡り、それに誰もが溺れる。生命という相手にとっての究極の価値を粉砕することはいくつかの独裁国家において民衆の扇動にも用いられた。殺せという一言は常に熱を持った。


このことからは自殺者は純然たるアーティストであると結論づけられる。そして、殺人鬼さえも。

自殺によって周囲の人は悲しみ、驚き、惜しむ。死におののく。

殺人によって人は悲しみ、怒り、恨み、苦悩する。

どんな画家も、作家も、俳優も、我々の生活に真に迫る隣人の死を越えて鑑賞され、心を動かすようなことはない。

命が消えたそのことに、全ての大衆は思いをはせ、感情をかきたてられ、死して故人は主人公となるのだ。


しかし、我々は自殺や殺人の価値を認めることにひどく抵抗を示す。

なぜか。


それは、自殺や殺人は、人が懸命になって作り上げている一つの物語の破壊だからである。人生の物語はその人物が死して初めて人の心に強い火をもたらすことができる。死というものはその人物には完全な時期の特定が難しいことが常だが、そのいつ来るか分からない、だが必ず来る終焉に向けてのみ人は努力し、心からの誠意を示すことができる。


小説「百年法」では、不老不死の力を得たことで堕落する先進国の姿と、それに期限を設けることで目覚ましい成長を遂げた国家が描かれた。人に取って死はかけがえの無い存在であることが、豊かな表現によって述べられていた。


ここで注目しておかねばならないのは、介護自殺などに見られる苦しみによる自殺では、逃走などによる社会構造からの逃避という選択をしていないことである。無論その人の頭には無かった選択肢である可能性も大きいが、人は今死ぬのが最も感動的であると感じた時、しばしば思考を停止させるのである。証拠に、若年期の自殺志願者の思考は決まって閉塞的で、論理的な脱出の糸口を見つけることは難しい。その人が他人に求めているのは相手が近い将来訪れる自らの死に関して深く感動することだからである。現状よりもつらい困難が起こり得ること、そしてそれすらも克服可能であると身を持って経験しない限り、その人は自殺願望を捨てようとはしないだろう。人間が生に対し希望を持てるかどうかは、自らの人生や死が今よりもさらに芸術性を高めることができると信じられるかどうかにかかっている。


芸術的な死を求める事で人は活発に働くことができ、自殺はそれを今起こすことがより深い感動を得られると感じたゆえの行為であるのではないか。この点において、生を全うすることと自殺を行うことは芸術である。


しかし殺人を芸術というにはこれまた別の視点が必要である。人が作り上げた物語が途中で崩壊するその悲劇に注目しなければならない。我々の直感には許しがたいが、大きな感情の波紋を起こす点でやはりこれも芸術である。


言わば、命による創作。死、自殺、殺人。これは人にとって神秘的な魅力を持った、見かけよりもずっとずっと深い行為なのである。

そして我々の環境にある数多の問題について、例を挙げればテロリズム、介護心中、イジメ自殺、神風特攻隊、死刑制度、そして、殺人。

「死」に芸術という価値を与えた時、人生のあり方は大きく変わり、そしてこれらの問題についてもまた別の視点が必要であると、私はそう考えるのである。

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