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カマドウマと針金虫との悲しい契約

 「ねえ、俺高校行くことにしたよ」

俺は体の不調と精神的に思うようにいかないことから高校を休みがちだった。周りのみんなは上手く日常を楽しんでいるのに、俺だけは時間に取り残されている気分だった。

 「そっか、良かった。お前がもう一度行くと決めてくれて嬉しいよ」

父は本当に嬉しがっているようだった。父は昔はスポーツがよくできて、隣町の山から峠を越えて今の街に来たくらいのカマドウマだ。


 「だって、スポーツ推薦で高校入ったし、あんまり休めないじゃん」

 「まあお前が決めれば転校することだってありだと思ってたんだぞ」

 「転校なんて、大袈裟だよ。だってあと一年間だしさ」


父は本当に心配してくれていた。母親もいるが、蟻の食料班の軍隊に襲われて脚を怪我して寝込みがちである。だから俺は医者になって母の脚を治したいと思っている。

 「いつでも、つらくなったら言うんだぞ」

 わかったといって俺は外に友達のアメンボ先輩と一緒に近場間の池(水たまり)に泳ぐに行く約束をしていたので向かった。


雨のあとは水分のついた葉っぱや石でキラキラしていて宝石の中にいる気分になる。雨に濡れた土の触りごごちも気持ちいい。体に泥をつけて自分の体をコーディングする。


 「お!なにしてるんだ。」

そういってアメンボの先輩がやってきた。恥ずかしいとこを見られたな。

 「まあちょっと体を鍛える前は泥をつけないとな」

 「カマドウマは泥を体につけれていいなあ。俺は体が細いからすぐ泥が落ちてつけれないんだよ」

 「なんだよ。気合いが足りないんだよ」といって俺は泥がついた前足でアメンボに泥を飛ばす。

 ぶはっという声とともに顔に泥をつけてしまい、水たまりの中に走って逃げ込む。


 (やばい、水たまりの中はアメンボの得意なとこだった)


 一瞬にして追いつかれて右アッパーを食らわされた。なかなかいいアッパーだったことに驚きつつも、水面を二人で泳いで明日の授業の練習をする。


息が切れた二人は近場の植物の下に座り、人間についての話が始まった。


 「なあ、人間って俺たちの虫のことって関心あるのかな」

 「さあな、あるとすれば蝶とかカブトムシとかクワガタ虫とかなんだろうな。同じ虫なのに差別があるのは俺はちょっと残念だよ。俺のライバルのゴキブリだって種類は数え切れないほどあるのにゴキブリっていうレッテルを貼られて嫌われている」

 「まあ、カマドウマもなかなかだぞ笑」

 「おいおいひどいなあ」


 自分たちは形を変えることができないので、今のまま生きていかなくちゃいけない。自分のこの劣等感を感じる気持ちも自分のものだ。だから俺は自分のことは自分で決めると決心した。


 「ただいまー!」

 「おかえりー!早かったわね」

母さんが珍しく出てきて料理を作っていた。聞いたところ、俺が学校に行くことを決めたからご馳走だという。そうだ、俺は頑張らなくちゃいけないんだ。


 「おお!めっちゃおいしいよ母さん!!」

そう?といって母さんは嬉しさを隠しきれず、スープや草の大盛り皿によそってくれた。

 「父さんも食いなよ!」

 「ああ、ありがとう。だが、ちょっとめまいがしてな。」

そういって少ししか口をつけない父は自分の部屋にいって寝込んだ。

 「どうしたんだろお父さん」

 「仕事が疲れたのかしら」

まあ、珍しいことではないから、俺たちはおいしい飯を食い続けていた。


 『ガサッ』


父さんがいきなり部屋から出てきて、棒立ちしている。


「どうしたのあなた?気分悪いの…かしら」

心配そうに見つめると、いきなり机にあるご飯を食い始めて、一気に全部を食べ尽くした。

家族はちょっと引いて一瞬凍っていると、父さんは緊急時の為の備蓄まで食い始める。


「ちょっとあなた!」と止めに入る母親を父は投げ倒した。

無言で食い続ける父を俺は不気味に感じた。

「やめろよ親父!!!」

止めに入ったが俺も投げ飛ばされて、気を失った。


目覚めると家から少し離れた場所にいた。ここはどこなのだろうか、と辺りを見渡していたら、前足に違和感を感じてみてみると前足が欠けていた。


(なんだよ!これは!)


夢であってくれと願ったが、足は生えてこない、次の脱皮まで待たなくちゃいけない。

そして、少し前のこと思い出して、急いで這いつくばって家まで戻った。

そこにいたのは今も食い続ける父と食べられた母と妹の残骸だった。


俺はショックで再び、気を失った。こんなはずではない、1日でこんなに変わるものなのかと思って現実逃避したいと願い続けた。そして前足が元どおりになることを願った。


すると精神世界の中にくねくねと動く虫が俺にささやいた。


 「私と契約しなさい。いまならメタルもつける」

 「どういうことだよ、契約?この状況で」

 「この状況だからよ、貴様は現実を否定したいのだろう?明日は学校に行こうと思って、その当日にはこのざまだ。私だったら自殺してしまうよ」


 「そうだよ、自殺したいよ!!契約してどうにかなるなら契約してやるよ!」

 「その言葉忘れるなよ」


 そういって再び、少し前の一家団欒で食事する風景に戻る。


(あれ、夢だったのか)


だが、自分の前足をみると針金?いや、針金虫とメタルでコーディングされた前足がある。そうだ、多分、どういう原理かは知らないけど、昔に戻ったんだ。やり直すチャンスだ。


そして、父親はまたおかしくなり、家のものを食い尽くし始める。そして、母親が止めに入るのを静止して俺が止めるよと言った。


 「おい!親父やめろよ!」

 俺は再び投げ飛ばされた。こうなったらと思って前足で父親の腹を殴った。

すると父親の腹に貫通して、そこから棒状のものが出てきた。


 「これって…針金虫じゃん」

 父親は正気に戻る。しかし、さっきの一撃で重症だ。

 「ありがとう、俺をもう一度元に戻してくれて」

 どうやら、父親は針金虫に寄生されて自分の意思を失っていたようだ。そのあと父親は死んだ。


針金虫は誰にでも寄生する、そして精神を乗っ取り自分のしたい放題にする。永遠に戻らないあの頃にさよならをして、残った母親と妹を連れて家を受け払った。


そして、10年後、俺は再びこのようなことが起きないようにと決意して、いまは前足のメタルの脚をメスに使って医者になって世界の針金虫を駆逐する旅をしている。



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