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灯台の下は見えない  作者: 霜月 毬花
9/10

another side 2 M

日は落ちきって、夜空に星が散らばってきた。横で眠る李夢の頭をそっと撫でる。城之園が顔を伝う汗を腕で拭う。私たちは山に少し近い場所にある神社の鳥居の前で夜空を見上げていた。去年、花火を見たのと同じ場所だ。李夢とも一緒にここで花火を見たいと私が頼んで李夢を家に返すことなく、城之園に未だに目を開けない李夢をここに運んでもらったのだ。

もし、彼女が目を開けてここで花火を見れば、李夢は何かを思い出すかもしれない。そんな期待を抱いていた。

「なあ、本当にそれでいいのかよ」

浩志が眉を顰める。城之園は口を一文字にして黙っていた。

2人がそうやって言うのも分かる。今日この日をきっかけに李夢が本当のことを知ってしまうことは、果たして誰が幸せになるのか。でも。

「このまま、李夢に知らせない事は残酷じゃないかな。李夢にとっても、城之園にとっても」

そう言うと、2人はまた黙って俯いていた。

「思い出せないことも辛いよ。いくら忘れたことが酷いことであっても。思い出さないことが全て幸せとは限らないじゃない。それに」

私は1度言葉を切って、大きく息を吸った。早く言わないと直ぐに喉が干上がってしまう。

「忘れられている方も辛いよ、きっと」

視界が霞む。改めて、私自身も現実を受け止めているような気がした。

分かっていても、こんなに辛いのだ。李夢はそれ以上に辛い思いをしなければいけない。

でも、伝えないと。

「うぅ……」

小さく唸る声。

「李夢?」

李夢はゆっくり目を開け、上体を起こす。

と、ひゅぅ……という強いけれど弱々しい音が空を切った。夜空に目を向けると、大きな花が咲いた。

「綺麗だね」

李夢が呟く。「そうだね」と李夢の方に目を向けながら、返事をする。

私の目に映る李夢は微笑みながら、目から頬へと雫を伝わせていた。

「李夢……」

「綺麗だね。……将吾」

胸のどこかで絡まっていたものが解け始めた。一緒に耐えていた涙も溢れ出す。李夢を強く抱き締める。

「皆、おまたせ」

李夢のその言葉は全く震えていなかった。


To be continue...

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