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灯台の下は見えない  作者: 霜月 毬花
8/10

夢の塊

子供の笑い声、出店のおじさんの声張り上げる客寄せ。煙たい炭の匂い。鼻腔をくすぐる甘辛いタレの香り。キラキラ輝くりんご飴。慣れない下駄をカランコロン、と心地好い音を響かせながら私は真貴乃と石橋を渡る。下駄が音を奏でる度に私の胸は高鳴る。大学生になってここでの六月灯は初めてだ。真貴乃に着付けてもらった浴衣に結った髪に私は心踊らせる。日が沈むにつれて人々の賑わいも増していく。

待ち合わせ場所にはもう彼と浩志が浴衣姿で待っていた。高身長の浩志と並ぶ彼は少し小さく見える。

真貴乃が私の右肩をちょんちょんとつつく。真貴乃に目をやる私に「静かに」と唇に人差し指を当てながら悪戯を考える子供のように笑う。私も口の両端を吊り上げて笑い、頷いた。音のよくなる下駄を出来るだけ鳴らさないようにゆっくりと2人の背後へと忍び寄る。手の届く距離まで来たところで真貴乃とアイコンタクトを取る。唇はせーの、と動かし、真貴乃は浩志を、私は彼の肩を勢いよく掴み、「わっ」と耳元で大声を出す。

「うわあっ!!!!」

息を合わせたかのように男2人は飛び上がった。ゲラゲラと笑う女2人を呆れ顔で見る。

「やめろよなー」

がりがりと頭を掻いて浩志は短い溜息を吐いた。


りんご飴の早食べ。掬うだけ掬い、金魚は持って帰らない金魚すくい。欲しくもないターゲットを狙う射的。かき氷を食べた後はシロップで色染まった舌を見せ合う。大学1年生、19歳四人で子供のようにはしゃぐ。きっとこれを見た親は恥ずかしいと私たちの頭を引っぱたくのだろう。

「午後7時より、花火を上げます。ご来場の皆様、是非ご覧下さい」

方言気味のおじさんのアナウンスが耳に入る。

「連いてきて。いいとこ見つけたんだ」

無邪気に彼は私の手を握り、走り出す。真貴乃と浩志も後に続く。彼が足を止めたのは、小さな神社の鳥居の前だった。山に少し近い場所。祭りの騒ぎ声が微かに聞こえるような静かな所で、花火を落ち着いて見るには最適だった。

「○○。あんたいい所見つけたね」

真貴乃が片方だけ口の端を吊り上げて、彼の脇腹を肘で軽くつつく。

4人で仲良く神社の階段に座った。まだかまだかと子供のように待っていると、ひゅう、という独特な音がした。夜空に目をやると一筋の光が真っ直ぐに上へ伸びていき、すっ、と筋が消えた、かと思いきや大きな花を咲かせた。少しの時差があってから、どーん、と腹に響く音が全身を震わせた。それに続いてどんどん夜空に花が咲いていく。

「綺麗だね」

彼が呟いた。

「冬に見るイルミネーションとなんだか似てる」

夜空の花に目を向けたままそう返事をした。

「じゃあ、冬はイルミネーションだな」

彼は無邪気に笑い、私の頬を撫でた。全身に何かが走った。

「―――――」

彼の名前を呼びたかった。だけど、名前が出てこなかった。

「なあ、目、閉じて」

頭の中は真っ白で彼の言うままに目を瞑った。途端、頬に温かく柔らかいものが触れた。

真貴乃と浩志の息を吸い込む音が聞こえた。目を開けると彼はもうそっぽを向いていた。暗闇に慣れた目は紅くなった彼の耳を見逃さなかった。自分の顔が一気に熱くなった。

―――嗚呼、そっか。私は彼を。

自然に私は口許に笑みを浮かべ、彼の肩に頭を預けた。

そうよ。彼は。


To be continue...

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