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灯台の下は見えない  作者: 霜月 毬花
6/10

掴めぬ欠片

子供の笑い声、出店のおじさんの声張り上げる客寄せ。煙たい炭の匂い。鼻腔をくすぐる甘辛いタレの香り。キラキラ輝くりんご飴。

「今年も楽しそうだね」

真貴乃がキャッキャッと楽しそうに言う。青い生地にストライプの入った浴衣を身に纒い、金髪のマッシュルームヘアに似合う暗い色の花の髪飾りが動く度にゆらゆら揺れている。

「これぞ、六月灯ってね」

「そうだね」

帯の妙な窮屈さが何だか心地よく感じる。

「真貴乃、着付け、ありがとね」

真貴乃は「気にしないで」と笑いながら胸の辺りで手をひらひらさせた。

元々、日本舞踊をしていただけあって、着付けはあっという間に終わった。帯もきつ過ぎず緩過ぎず。流石だと素直に感心した。

パステル調の黄緑色に小花が散りばめられたそれに私は浮かれる。今日のために真貴乃と2人で選んだ浴衣なのだ。自分が顔を動かす度にチリン、と簪に付いた鈴が可愛らしく笑う。

「ここでの六月灯って楽しいんだろうね」

楽しそうに目の前を駆ける子供たちを眺めながら口を動かした。「え?」と真貴乃が聞き返す。

「何言ってるの。去年も来てたじゃん」

息が詰まった。忘れている。

「去年も4人でさ」

前頭部がズキズキ痛む。視界を砂嵐が襲う。私は今何処を見ている?

「ちょっと大丈夫?」

真貴乃の声が遠くから聞こえてくる。血の気が引く。嗚呼、もう何も聞こえない。何も見えない。何も思い出せない。

「 」

誰かが私の肩を担いだ。体が浮く。誰? 何も見えない。何も聞こえない。砂嵐とノイズが止まない。ただ、懐かしい柑橘系の香りが私を安心させ、その香りの元に体を預けた。

視界が完全な闇へとなる寸前、私は何かを思い出した。水風船、金魚、綿菓子の唇に当たる感触、りんご飴の甘い匂い。――――落ち着くゴツゴツした手温もり。この温もりは……。この温もりを私は前から知っている気がする。そう思えた。


To be continue...

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